241 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 5 ~小牧ひとみのやる気~
しおりを挟む
また怒られないように、用心深く遥の様子を伺いながら花奏は聞いた。
「ひとみさまが、どうかされましたか?」
「…私、貴女があの子のことをお姉さまって呼んでいること、気づいていてよ」
「う…」
「こそこそするのはお止めなさい。別にそうしたいなら怒らないわ」
少し優しい口調が混じるような気がした。
花奏は思わず感動する。さすが!さすがは遥さま!!お姉さまの助言者!怒らずに認めてくださった!
思わずニヤリとしてしまってから、頬を緩めたまま聞き直した。
「お姉さまが、どうかされましたか?」
花奏の言葉を宣言どうりに怒らず、遥さまは何かを思い出したようにため息をついた。
「…あの子が今年、参加する競技。あなた知っていて?」
「いえ、聞かされてません」
そういえば。
確かに何度か聞いたのだけど、当日のお楽しみ、とか言われて教えてもらっていない。
そして競技に出ている姿も見ていない。と言うことは何かに出ていないのだろう。
花奏が見逃すはずはないのだ。それは自信がある。
小牧ひとみは、南組の生徒だから、体育祭の競技は最低2つは出るはずだ。出れる最大数は4つ。
「あれ??」
そこでふと花奏は気付いた。
もう残す競技は組対抗リレーのみ。
ダンス部新体操部合同ダンスは、部活での参加ではあるが、数に入れていいことになっている。だがリレーに出るとしても数が少なすぎではないだろうか。
もちろん南組であっても、最低数の数でれば体裁は保てるが、ちょっとおかしい。
だって小牧ひとみは…。
花奏が首を傾げた時、遥は忌々し気にいった。
「あの子、借り物競争にしか出ない気だったのよ」
「は?」
花奏は我ながら、間抜けな声を出してしまったことに気付いた。
借り物競争?
確かに体育祭において目玉競技ではある。だがこう言ってはなんだが、ひとみにとって旨味のある競技とは言えない。
だって小牧ひとみには、助言者もメンティもいるのだ。
まあ、決まっている相手と走っても悪いわけではないだろうが、南組の生徒が、しかも小牧ひとみが、借り物競争だけとはおかしかった。
小牧ひとみの身体能力は飛びぬけているのだ。それこそ陸上競技においても。
そのことで高等部進学の際、ひとみを巡ってひと悶着あったし、それを終結させてくれたのが、この市原遥さまだ。
当然、あらゆる競技にお誘いがあるはずだった。
「で、でも、お姉さま、借り物競争の参加者にいなかったような…」
「組対抗リレーの参加者が急遽、どうしても借り物競争に出たいって言うから代わってあげたんですって」
「…わぉ」
本当に借り物競争にしか出ないつもりだったんだと知って、驚きのあまり感嘆の言葉を出すと、遥さまに睨まれてしまい慌てて目を逸らした。
しかし、遥の怒りは既にひとみお姉さまにあるのだろう。
そのことをそれ以上咎められることはなかった。
「たいしてやる気のない顔していて、腹が立つったらないわ」
「遥さま、どうしてそんなこと許したんですか?遥さまに言われれば、ひとみさまだって…」
「あの子がそんなことしてるなんて知らなかったわよ!あなたもでしょう?!」
「でした~。すみませ~ん…」
遥さまも、ひとみさまの体育祭参加競技数を知らなかった。
考えてみれば当然である。
もし遥さまが前もって知っていたら、ひとみさまは参加可能数MAXで白組に貢献できる競技に参加させられていたはずだ。
『白組と私のために貢献なさい!』とかなんとか言って。
そして、ひとみさまは喜んで参加していたはず、なのだが。
…え~と。
花奏はここで、単純な疑問が浮かんでしまった。
「ええと、それでどうして今私は遥さまに連れられているのでしょうか?」
もはや最後の競技は組対抗リレーのみ。形はどうであれ、それにひとみさまが出ることになった今、遥先輩が事を知って怒っているのはまだ分かるのだが、なぜ花奏を連れて、そしてどこに行こうというのか。
遥は立ち止まって振り返るとはっきり言った。
「責任を取ってもらうためよ」
「責任?」
「ええ」
意味が分からずに聞き返すと、遥さまは強い視線を花奏に向けてはっきり言った。
「ひとみは、あなたと組が分かれて応援されないから、やる気が出ないそうよ」
「へ?」
「だから私は助言者として、あの子の行動を正す義務があるの。反論は許さなくてよ?」
きっぱりと言い切った遥の視線は、有無を言わさぬ迫力を秘めていた。
「ひとみさまが、どうかされましたか?」
「…私、貴女があの子のことをお姉さまって呼んでいること、気づいていてよ」
「う…」
「こそこそするのはお止めなさい。別にそうしたいなら怒らないわ」
少し優しい口調が混じるような気がした。
花奏は思わず感動する。さすが!さすがは遥さま!!お姉さまの助言者!怒らずに認めてくださった!
思わずニヤリとしてしまってから、頬を緩めたまま聞き直した。
「お姉さまが、どうかされましたか?」
花奏の言葉を宣言どうりに怒らず、遥さまは何かを思い出したようにため息をついた。
「…あの子が今年、参加する競技。あなた知っていて?」
「いえ、聞かされてません」
そういえば。
確かに何度か聞いたのだけど、当日のお楽しみ、とか言われて教えてもらっていない。
そして競技に出ている姿も見ていない。と言うことは何かに出ていないのだろう。
花奏が見逃すはずはないのだ。それは自信がある。
小牧ひとみは、南組の生徒だから、体育祭の競技は最低2つは出るはずだ。出れる最大数は4つ。
「あれ??」
そこでふと花奏は気付いた。
もう残す競技は組対抗リレーのみ。
ダンス部新体操部合同ダンスは、部活での参加ではあるが、数に入れていいことになっている。だがリレーに出るとしても数が少なすぎではないだろうか。
もちろん南組であっても、最低数の数でれば体裁は保てるが、ちょっとおかしい。
だって小牧ひとみは…。
花奏が首を傾げた時、遥は忌々し気にいった。
「あの子、借り物競争にしか出ない気だったのよ」
「は?」
花奏は我ながら、間抜けな声を出してしまったことに気付いた。
借り物競争?
確かに体育祭において目玉競技ではある。だがこう言ってはなんだが、ひとみにとって旨味のある競技とは言えない。
だって小牧ひとみには、助言者もメンティもいるのだ。
まあ、決まっている相手と走っても悪いわけではないだろうが、南組の生徒が、しかも小牧ひとみが、借り物競争だけとはおかしかった。
小牧ひとみの身体能力は飛びぬけているのだ。それこそ陸上競技においても。
そのことで高等部進学の際、ひとみを巡ってひと悶着あったし、それを終結させてくれたのが、この市原遥さまだ。
当然、あらゆる競技にお誘いがあるはずだった。
「で、でも、お姉さま、借り物競争の参加者にいなかったような…」
「組対抗リレーの参加者が急遽、どうしても借り物競争に出たいって言うから代わってあげたんですって」
「…わぉ」
本当に借り物競争にしか出ないつもりだったんだと知って、驚きのあまり感嘆の言葉を出すと、遥さまに睨まれてしまい慌てて目を逸らした。
しかし、遥の怒りは既にひとみお姉さまにあるのだろう。
そのことをそれ以上咎められることはなかった。
「たいしてやる気のない顔していて、腹が立つったらないわ」
「遥さま、どうしてそんなこと許したんですか?遥さまに言われれば、ひとみさまだって…」
「あの子がそんなことしてるなんて知らなかったわよ!あなたもでしょう?!」
「でした~。すみませ~ん…」
遥さまも、ひとみさまの体育祭参加競技数を知らなかった。
考えてみれば当然である。
もし遥さまが前もって知っていたら、ひとみさまは参加可能数MAXで白組に貢献できる競技に参加させられていたはずだ。
『白組と私のために貢献なさい!』とかなんとか言って。
そして、ひとみさまは喜んで参加していたはず、なのだが。
…え~と。
花奏はここで、単純な疑問が浮かんでしまった。
「ええと、それでどうして今私は遥さまに連れられているのでしょうか?」
もはや最後の競技は組対抗リレーのみ。形はどうであれ、それにひとみさまが出ることになった今、遥先輩が事を知って怒っているのはまだ分かるのだが、なぜ花奏を連れて、そしてどこに行こうというのか。
遥は立ち止まって振り返るとはっきり言った。
「責任を取ってもらうためよ」
「責任?」
「ええ」
意味が分からずに聞き返すと、遥さまは強い視線を花奏に向けてはっきり言った。
「ひとみは、あなたと組が分かれて応援されないから、やる気が出ないそうよ」
「へ?」
「だから私は助言者として、あの子の行動を正す義務があるの。反論は許さなくてよ?」
きっぱりと言い切った遥の視線は、有無を言わさぬ迫力を秘めていた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
その花は、夜にこそ咲き、強く香る。
木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』
相貌失認(そうぼうしつにん)。
女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。
夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。
他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。
中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。
ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。
それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。
※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品
※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。
※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる