拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
233 / 282
第三章 5月‐結

思い出は輝いて 3

しおりを挟む
柚鈴がどうにか同窓会テント前に戻ると、志奈さんはいなかった。
いたのは凛子先輩、しのさん、真美子さんの3人。
絵里は、白組の待機場所に戻ったらしい。

今は借り物競争の3年生が始まっている。
志奈さんはこの後のインタビューの為に、放送部に連れて行かれた後だったようだ。

やっぱり余計なこと言わないでくださいって伝えるべきだっただろうか…
志奈さんに何を話されるのか分からない恐怖から、後悔してしまう。
その時戻ってきた柚鈴に気付いた様子で凛子先輩が声を掛けてきた。

「お帰りなさい、柚鈴さん。結果から考えると無事、逃げ切ったのかしら?」
「あはは。3年の萩原翔子先輩のおかげで、どうやら助かったようです」
「翔子さん?」
凛子先輩は目を瞬かせた。
そういえば、凛子先輩と翔子先輩の関係性は少々複雑なのだと遥先輩が言っていたことを思い出す。
とは言え、今は柚鈴も疲れているし、凛子先輩はただ驚いたようにしか見えなかったので、素直な現状を伝えることにした。
「色々偶然が重なったみたいですけど、正直、さっぱりよく分かりません。東郷先輩も別に諦めたわけではないようです」

その言葉に凛子先輩が答える前に。
「まあま、何にしろ良かったじゃない。よく頑張ったわね。褒めてあげようか?」
どこか悪い笑顔を作った、しのさんが会話に入ってきて、柚鈴は慌てて首を振って拒否した。
この人の冗談に付き合う余裕は今はない。

真美子さんは、しのさんの様子にやれやれとため息をついて、特に何も言わない。
思う所はあるのだろうが、口を出しても喜ばれるだけだと分かっているのだろう。
凛子先輩は苦笑してから、柚鈴を見た。

「でも、どうしてここに戻ってきたの?白組の待機場所に戻れば良かったのに」
「いや、そう思ったんですけど」
実は一度は白組の待機場所に向かって歩きだしたのだ。
しかし、途中でふと気づいた。

「…白組に戻ったら遥先輩がいるじゃないですか」
独り言のように呟く。
きっと遥先輩のことだ。志奈さんと一緒に走ったことを指して、質問攻めに合わされるに決まっている。
今まで黙っていた分の反応を想像すると恐ろしかった。
「なるほどね」

凛子先輩は納得したように頷いた。

…なるほど?
その言葉が引っかかって、柚鈴は首を傾げた。
そういえば、凛子先輩は何故、何も聞いてこないし言わないのだろう。
色々気になることがあったため、今の今まで凛子先輩の反応について考えなかったのだが、これはおかしくないだろうか。

え?なんで?

マジマジと凛子先輩を見つめていると、不思議そうに見つめ返される。
「どうしたの?」
「……」

しばし考えて。

え、つまり。
つまり、まさか。

柚鈴は、間を置いてから、様子を伺うように口を開いた。
「凛子先輩、遥先輩に一緒に怒られてくださいね」
「……」
凛子先輩は一瞬、虚を突かれたような顔をする。
それから、天を仰いでから、大きくため息をつきつつ下を向く。

「参ったわねぇ…」

その反応で柚鈴は確信を得た。
「凛子先輩はご存じだったんですね?!」
参った、と思うのは柚鈴の方だ。
黙っていたことに散々罪悪感があった相手の片方が、既に事情をご存じだったなんて考えてもいなかったのだ。

「事情を知っていた、というのは御幣ごへいがあるわ。私は、志奈さんに妹が出来る話を卒業前に聞いていただけだもの。あなたが入学して来て、もしかしてって推察していただけだもの」
「だけ、ねえ」

凛子先輩の言葉に、含みのある言い方をしたのは、しのさんだ。
何か思う所がある、と言わんばかりの言い方に、一瞬凛子先輩は目を泳がせた。

「何か、おかしなことを言いましたでしょうか?」
「嘘は言ってないだろうけど、真実を隠そうとしている」
「何のことですか?」

強く言い返してみせるが、凛子先輩はどこか動揺しているように見えた。
その様子に満足したように、しのさんはニヤリと笑って口を閉ざした。

「…凛子先輩、何か隠しているんですか?」
「べ、別に隠してませんっ!もう、ちゃんと遥の説教は一緒に聞くから、勘弁してちょうだい!」

柚鈴が聞くと、凛子先輩は叫ぶように言い捨てた。
ここまで動揺する凛子先輩は珍しい気もしたが、遥先輩の攻撃を一緒に受けてくれるらしい。
腑に落ちないこともあるが、一先ずこれ以上は辞めることにした。
気になるが、ここで重ねて聞いて答えてくれるような話でもないのだろう。

そう考えることにした時。
借り物競争の3年生の時間が終了した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

これからの僕の非日常な生活

喜望の岬
青春
何の変哲もない高校2年生、佐野佑(たすく)。 そんな彼の平凡な生活に終止符を打つかのような出来事が起きる……!

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

『天使』にも『悪魔』の顔がある

双葉 陽菜
青春
白藤学院ー そこは日本有数の進学県立の小中高の一貫校。 入学こそ簡単ではあるがエスカレーター式であるがゆえに簡単に落第されてしまうため、卒業が難しいと有名である。基本入試だが、中には金の力で入学してきた生徒も少なくない。 また、各学年の9、10組は財閥クラスとなっており、財閥令嬢や御曹司がそのクラスに入っている。 そしてのその中でも特に力のあるメンバーで構成されたグループがクラリスである。 そこに小学校で入学し、飛び級を重ねに重ねて12歳で高校1年生になった雛(ひな)。 幼なじみの悠・翔・朔と和音、新メンバーの亜衣と過ごしながら周りの人間の醜く落ちていく姿を楽しむのが双葉雛の楽しみ。 ~人物紹介~ ◯双葉雛(futaba hina) 12歳 高校1年生 1-2 飛び級を重ねに重ねて高校1年生になった。 少し自意識過剰なところがあるが、頭の回転が早く、その場の雰囲気から何が起こるのが予測する予知能力がある。 天使の笑顔でエグいことを普通にいう。超美少女。 ◯榛名悠(haruna yuu) 15歳 高校1年生 1-2 学年1の秀才。 落ち着いた性格でヒナと仲良し。 髪型の雰囲気が似ているためよくヒナとは兄弟と勘違いされる。ヒナの予測に対して1番いい対処法を判断する対処能力がある。かなりのイケメン。 ◯犬飼翔(inukai syou) 15歳 高校1年生 1-3 学年1喧嘩っ早い見た目ヤンキーの男子校生。 相手の行動を見抜く洞察能力がある。 小学生の時に朔と一緒に中等部の大群を潰したことがあるがほんとは仲間思いの優しい人で、見た目馬鹿そうなのに点数はある程度取れている。かなりのイケメン。 ◯水篠朔(mizushino saku) 15歳 高校1年生 1-3 翔と生まれた時からの仲良しでヒナ達の幼なじみ。 翔にはよく喧嘩に道連れにされていたので強くなった。おとなしい性格だが、学校1の情報通で校内全員の情報を持っている。かなりのイケメン。 ◯有馬和音(arima kazune) 15歳 高校1年生 1-2 小5~中2の春まで海外に留学していたが悠やヒナとは仲良し。父親が白藤学院の学長を務めているため教師も誰も彼には逆らえない。校内の噂話の真実など校内のことにはおまかせあれ☆ かなりのイケメン。 ◯香月亜衣(kazuki ai) 15歳 高校1年生 1-3 高校入学で白藤学院に入学し、そこからシックスターにメンバー入りした。モデル並みのスタイルではあるが、貧乳なのが玉に瑕。大人っぽいルックスの裏にはおしゃれ大好きの普通の女子高生がある。 クールな性格を演じて、女子を言いなりにさせることができる。超美少女。 誕生日がまだ来ていないので学年より1つ下の年齢から始まります。(雛は中1の年齢で高校1年から始まります)

チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク
青春
 お気に入り登録、応援等、ぜひともよろしくお願いいたします!  鈴木陸は校内で探し物をしている最中に『なんでも頼み事を聞いてくれるヤツ』として有名な青木楓に出会う。 「その悩み事、わたしが解決致します」  しかもモノの声が聞こえるという楓。  陸が拒否していると、迎えに来た楓の姉の君乃に一目ぼれをする。  招待された君乃の店『Brugge喫茶』でレアチーズケーキをご馳走された陸は衝撃を受ける。  レアチーズケーキの虜になった陸は、それをエサに姉妹の頼みを聞くことになる 「日向ぼっこで死にたい」  日向音流から珍妙な相談を受けた楓は陸を巻き込み、奔走していく  レアチーズケーキのためなら何でもする鈴木陸  日向ぼっこをこよなく愛する日向音流  モノの声を聞けて人助けに執着する青木楓  三人はそれぞれ遺言に悩まされながら化学反応を起こしていく ――好きなことをして幸せに生きていきなさい  不自由に縛られたお祖父ちゃんが遺した ――お日様の下で死にたかった  好きな畑で死んだじいじが遺した ――人助けをして生きていきなさい。君は  何も為せなかった恩師?が遺した   これは死者に縛られながら好きを叫ぶ物語。

俺を気に入らないで!!

木苺
青春
ゾンビがいる世界の主人公達の日常の物語。前置きだけ書いときました。 投票期間は終了いたしました。作品内で書いておきました。これから短い話を投稿していきます。

処理中です...