拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、借り物競争はご一緒に 11 ~東郷千沙、スタートを切る~

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東郷千紗は、スタート地点に立つと、前を睨むように見つめた。
先を急ぐ必要はない。確実に歩を進めることが重要だ。
最終何位でも構わないのだ。狙いは小鳥遊柚鈴を連れてゴールすること。ただ、それだけなのだから。

1年生の借り物競争にて、小鳥遊柚鈴が前年度の生徒会長と一緒にゴールしたのは千紗にとって確かに驚きだった。
苗字が同じだから、何か感じるところでもあったのだろうか?関係者だとは考えられない。
もしそうであるならば、噂があってもおかしくない。
千紗が小鳥遊柚鈴に興味を持ってから今日まで、周りにその話をしてもそんな話どころか彼女の存在すら殆どの同級生が知らない様子だった。
前生徒会長といえば、千紗の助言者である萩原翔子も生徒会メンバー出会った頃にお世話になった相手でもあり、一目置かざる得ない人物ではある。

しかし2人には繋がりはない。そして小鳥遊志奈先輩は、現在在校生ではないのだから、なんの問題ないはすだ。
むしろ誰よりも助言者制度の成立に力を入れていた人物であった。きっと小鳥遊柚鈴にも助言者を作るように促しているだろう。
案外、既に小鳥遊柚鈴もその気になっているかもしれない。
そうであれば、なによりである。

助言者を望むのであれば。
東組の生徒、しかも特待生が何よりも重視しべき成績向上という目標に置いて、その苦楽を共にし、助けになるのは東組の生徒以外はあり得ない。
他の組の生徒では、なにかと問題が起こることは、現生徒会長である長谷川凛子が証明している。
小鳥遊柚鈴は最初こそ千紗の行動が強引に思え、あまり乗り気にはならなかったかもしれないが、正解に気づけば経緯への反省もするはずだ。

助言者になれる人物が、その正解へと導くことは当然の役割であり、今回彼女の選択について自分が間違いを正すことが出来れば、当然自分こそが彼女の助言者となるべきということなのだ。

小鳥遊柚鈴はきっと、そのことに気づいけば今までの態度を反省するだろう。
そしてその時は、気にすることはないといってあげよう。
単に役割を果たしただけなのだから。
ペアとして当然のことだ。
千紗だって何度となく過ちを犯し、それを助言者である萩原翔子に正してもらった。
そうして次の世代に受け継いでいくことが大切なのだ。

スタートの合図がすれば、千紗は全力で小鳥遊柚鈴に向かって走り出す。
必ず捕まえて、ペアの関係をスタートさせる。

千紗の一年生の終わりに、生徒会に残留しないことを決めた萩原翔子は言った。
『生徒会でやることは終わったわ。3年での仕事は、勉強とあなたの助言者としての役割だけで充分』
その言葉は千紗の中に残っている。
本当なら生徒会会長であってもおかしくない人だった。
だが生徒会長は、誰ともペアを組むことが出来ない。
自分とのペアあることを選んだも言える助言者の言葉は、千紗に大きな決意をさせていた。

私はきちんと成長する。
そのために一日も早く、メンティになるべき相手を見つけ、ペアを持つ。
そして立派に相手を指導する姿を萩原翔子に見せる。

そうすればきっとお姉さまは、自分の決断が間違ってなかったと喜んでくれるに違いないのだ。
東郷千紗は決めていた。
自分の全てを賭けて、お姉さまの正しさを証明していくことを。

2組目の生徒が、題目の相手を連れてとうとうゴールをした。
体育祭実行委員が、千紗を含む3組目のメンバーに「位置について」と声を掛けた。

小鳥遊柚鈴の顔が浮かんだ。
東組の特待生らしく真面目そうであった。寮生というからには、親元から離れ不安もあるだろう。
助言者制度という聞きなれない制度に馴染めない様子だった彼女を思い出すと決意は新たにされた。

必ず自分のメンティにしよう。
そしてそれが正解だったと言わせてやろう。
それが助言者制度の、そして萩原翔子の家系を繋ぐということだ。
千紗に迷うところは1つもなかった。

『頑張りなさい』

萩原翔子はそう言ってくれた。
だから、頑張る。
そう心を固めて、千紗は合図と共に、借り物競争のスタートを切った。
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