拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、借り物競争はご一緒に 7 ~幸のゴール?~

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意味が分からなかった。
走って来て、手を伸ばしているのは何故なのか。

な、な、何してるの!?悠さんっ
まさか借り物競争に参加してるの??
助言者メンターの資格も持ってないのに?!

幸はパクパクと口を開け閉めして、驚きのあまりに言葉が上手く出てこない。

「あの、ダメですか…?」
「お~い、幸ちゃん!?…行くの行かないの??」
目を下げて情けない顔をした悠さんの様子を見かねて、気を確かにしろ、と言わんばかりに幸の肩を花奏が揺すった。

ダメ、というか…
「悠さん。借り物競争に、参加してるんですか?どうして?」
「代わってもらっちゃいました」

ようやく言葉が出た幸に、嬉しそうにへらっと笑う悠さんの笑顔はいつも通りと言えばいつも通り。
その悪びれない穏やかな様子に、一瞬眩暈を覚えつつ、幸は頭を押さえた。

代わって、もらった…あ?

「幸ちゃん?…どうする?」
花奏の気遣う声に、口元が勝手に緩んで、あはは、と笑いがもれた。
なんだかそのいつも通りが、嬉しいような楽しいような、よく分からない感情がほんわかと湧いてくる。

どうするも何も、答えは一つしか浮かばなかった。

幸は差し出された悠の手を取った。
「仕方ありません!ご一緒します」

思いのほか、力強い声が口から出た。
その声に体が動かされるように。
何か引力に引かれるように。

悠さんと一緒に走りだした。

走り出す瞬間、川合先輩がこちらに向かっているのが見えた気がする。
でも手を取られてゴールまで走る間は、周りの景色も良く分からなくて、ふわふわした気持ちのままで、そのことがどういうことなのか頭は働かない。
そして体はなんだかとても軽かった。

そのままゴールを決めるまで、とてもとても軽かった。

結果は悠さんの走った二組目で一位。
あまり運動能力に恵まれているとは言い難い幸は、息を切らせつつ、そのことに妙に感動を覚えてしまう。
体育祭では一位なんてほとんど縁がなかった。
こんな日が来るなんて思ってなかった…。
と、一位の幸せ実感中である

「一緒に走ってくれて、ありがとうございます」
朗らかな笑顔で悠さんに話しかけられて、幸はにっこり笑顔で振り返ってから、はっと我に返った。

そうだった、この人には言わなきゃならないことがある。
慌てて怒気の籠った視線に切り替えて、キリッとした態度に変えた。

「何してるんですか、悠さん!借り物競争に出るなんて聞いてませんでしたけど!」
「いえ、あはは。急に出たくなってしまって。ちょうど同じ組の子でこの競技に出る予定がいたので、この後の組対抗リレーと変わってもらいました」
「ええ!?」

よりによって組対抗リレー!?
幸は愕然としてしまう。
組対抗リレーと言えば、体育祭でもっとも多く点を振り分けられる競技。一番の目玉だ。
恐らくは俊足の悠さんだからこそ、選抜されたのだろうに、それを放り投げて借り物競争に出たとは!
幸も穏やかではいられない。
もしかしたら敵組の貴重な戦力が削げたことに感謝するべきなのかもしれないが、そう思える程の図々しい神経は持ち合わせていなかった。

「私にとっては大切なことだったので」
珍しくどこか真面目な表情を作った悠さんの視線に、動揺している幸は気づかなかった。
青ざめて、なんてことをなんてことをと握った手を震わせる。
「た、大切も何も。悠さん、助言者メンター資格も持ってないのに」
「え?」
「借り物競争って、資格ない人でも走れるんですか?大丈夫なんですか?怒られたりしませんか?」
矢継ぎ早に質問を重ねる幸に、悠はさん目を瞬かせてた。

「えっと、資格なくても走れますよ。多分、怒られもしません。大丈夫です」
「本当の本当ですか?それなら良かったです…」
「あ、いや。その。幸ちゃん?」
悠は一度首を傾げてから、幸の肩にポンと手を置いた。
「なんですか?」
なんとなくその様子に真剣さを感じて注目してしまう。
まっすぐに見返すと、悠さんは一度困ったように笑ってから口を開いた。

「私、助言者メンター資格は持ってます」
「ふぇ?」
幸は意味が分からず聞き返した。
すると悠さんはもう一度、はっきりと言葉を繰り返した。

助言者メンター資格なら持ってるんです」
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