211 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、午後の部がスタートしました! 3
しおりを挟む
息のあったチアは、メインで動いているのが新体操部なだけあってレベルが高い。
小牧先輩は目を輝かせて、センターポジションの一人である花奏ちゃんを追っている。
柚鈴はもちろん花奏も気になるし、幸も気になる。
交互に目線を動かし見ることになるが、花奏は流石の迫力の演技だ。
幸の方も練習を毎日こなしたからだろうか、派手な動きは少ないが薫が盆踊りと評したほど酷くはなく、多少ぎこちないながらに、ちゃんと動きが音楽と周りにあっていた。
…頑張ったね、幸ちゃん。
妙に保護者のような気持ちになりながら、柚鈴は感動してしまった。
あんなに小さかった子が、みたいな心境だ。
勿論、幸の小さな頃なんて知らないのだが、そこは友人のよしみである。
全部終わる頃には、小牧先輩に負けないくらい拍手を送ってしまっていた。
敵の組なのに問題かもしれないが。
その辺りは沢城先輩も一緒だったから良いのだろう。
「幸ちゃん、チア可愛かったですね。玉入れをしているのも気づいて見れたので良かったです。東組だから参加競技は1つでも良かったんですよね。ということは、もう今日は幸ちゃんの競技終了ですか?」
「へ?」
興奮冷めやらぬ、と言った様子で沢城先輩に聞かれて、柚鈴は目を泳がせた。
確かに幸が出る競技は終了である。だが、借り物競争が…
動揺は思い切り顔に出てしまい、沢城先輩は不思議そうに首を傾げた。
「え?何かにまだ出る予定があるんですか?」
「い、いえ。その、出るというか…」
「出るというか?」
おうむ返しの質問に答えに迷った。
果たして、沢城先輩はどう思うだろうか。
隠してもどうせバレる。だから素直に言うのが正解なのだろう。
それでも妙に気まずくて、柚鈴は沢城先輩から目を逸らしてから、小さく言った。
「ゆ、幸ちゃんは終了ですけど。どうも黄組の先輩が借り物競争のお題に、幸ちゃんを誘うみたいです」
「え」
驚いたような声。
その顔を確認することが出来ずにいると、少し間があって、元気のない声が恐る恐るといった感じで隣から聞こえて来た。
「ええと、つまり幸ちゃんは…その人とペアになりたいということですか?」
「違います!」
大慌てで柚鈴は言って、思わず沢城先輩を振り返った。
柚鈴の声に驚いたように、目を見開いた沢城先輩の表情。
その顔に少々反省しつつ、柚鈴は言葉を選びつつ言った。
「幸ちゃんは、助言者制度には憧れてますけど、その人とそうなりたいとは、今は思ってないと思います」
「今は、ですか」
眉を下げて、沢城先輩は少し情けない声を出してから、気遣う柚鈴に気付いたように、ふわりと笑った。
…今は。
それ以外何も言えない。それに気づいて、柚鈴は困ってしまった。
幸は、黄組の先輩を断るとは言わなかった。好きな先輩ではあるとも言った。
だから、今日を機に、いずれその人のペアになるかもしれない。
それも可能性としてはあるのだ。
幸が助言者制度に憧れがあるのは確かな事実なのだ。
私が沢城先輩に話しかけてしまったのって間違ってたのかな。
そう思えて、柚鈴は顔を伏せた。
「教えて下さって、ありがとうございます」
響いてきた柔らかな沢城先輩の声は、どこか納得したような、落ち着いた声だった。
「いえ」
柚鈴はどうにか、それだけ答えると、沢城先輩は独り言のように何事かを微かに呟いた。
「…?」
一部しか聞こえなかったその言葉の意味が分からず、顔を上げる。
小牧先輩の方は聞こえていたのかもしれない。
「借り物競争が始まれば、それから分かることもあるんじゃないかしら?」
いつも通り重々しく答えた言葉に、沢城先輩は微妙な笑顔を浮かべた。
柚鈴にはその表情の意味は分からなかったが、それ以上聞くことも出来なかった。
小牧先輩は目を輝かせて、センターポジションの一人である花奏ちゃんを追っている。
柚鈴はもちろん花奏も気になるし、幸も気になる。
交互に目線を動かし見ることになるが、花奏は流石の迫力の演技だ。
幸の方も練習を毎日こなしたからだろうか、派手な動きは少ないが薫が盆踊りと評したほど酷くはなく、多少ぎこちないながらに、ちゃんと動きが音楽と周りにあっていた。
…頑張ったね、幸ちゃん。
妙に保護者のような気持ちになりながら、柚鈴は感動してしまった。
あんなに小さかった子が、みたいな心境だ。
勿論、幸の小さな頃なんて知らないのだが、そこは友人のよしみである。
全部終わる頃には、小牧先輩に負けないくらい拍手を送ってしまっていた。
敵の組なのに問題かもしれないが。
その辺りは沢城先輩も一緒だったから良いのだろう。
「幸ちゃん、チア可愛かったですね。玉入れをしているのも気づいて見れたので良かったです。東組だから参加競技は1つでも良かったんですよね。ということは、もう今日は幸ちゃんの競技終了ですか?」
「へ?」
興奮冷めやらぬ、と言った様子で沢城先輩に聞かれて、柚鈴は目を泳がせた。
確かに幸が出る競技は終了である。だが、借り物競争が…
動揺は思い切り顔に出てしまい、沢城先輩は不思議そうに首を傾げた。
「え?何かにまだ出る予定があるんですか?」
「い、いえ。その、出るというか…」
「出るというか?」
おうむ返しの質問に答えに迷った。
果たして、沢城先輩はどう思うだろうか。
隠してもどうせバレる。だから素直に言うのが正解なのだろう。
それでも妙に気まずくて、柚鈴は沢城先輩から目を逸らしてから、小さく言った。
「ゆ、幸ちゃんは終了ですけど。どうも黄組の先輩が借り物競争のお題に、幸ちゃんを誘うみたいです」
「え」
驚いたような声。
その顔を確認することが出来ずにいると、少し間があって、元気のない声が恐る恐るといった感じで隣から聞こえて来た。
「ええと、つまり幸ちゃんは…その人とペアになりたいということですか?」
「違います!」
大慌てで柚鈴は言って、思わず沢城先輩を振り返った。
柚鈴の声に驚いたように、目を見開いた沢城先輩の表情。
その顔に少々反省しつつ、柚鈴は言葉を選びつつ言った。
「幸ちゃんは、助言者制度には憧れてますけど、その人とそうなりたいとは、今は思ってないと思います」
「今は、ですか」
眉を下げて、沢城先輩は少し情けない声を出してから、気遣う柚鈴に気付いたように、ふわりと笑った。
…今は。
それ以外何も言えない。それに気づいて、柚鈴は困ってしまった。
幸は、黄組の先輩を断るとは言わなかった。好きな先輩ではあるとも言った。
だから、今日を機に、いずれその人のペアになるかもしれない。
それも可能性としてはあるのだ。
幸が助言者制度に憧れがあるのは確かな事実なのだ。
私が沢城先輩に話しかけてしまったのって間違ってたのかな。
そう思えて、柚鈴は顔を伏せた。
「教えて下さって、ありがとうございます」
響いてきた柔らかな沢城先輩の声は、どこか納得したような、落ち着いた声だった。
「いえ」
柚鈴はどうにか、それだけ答えると、沢城先輩は独り言のように何事かを微かに呟いた。
「…?」
一部しか聞こえなかったその言葉の意味が分からず、顔を上げる。
小牧先輩の方は聞こえていたのかもしれない。
「借り物競争が始まれば、それから分かることもあるんじゃないかしら?」
いつも通り重々しく答えた言葉に、沢城先輩は微妙な笑顔を浮かべた。
柚鈴にはその表情の意味は分からなかったが、それ以上聞くことも出来なかった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる