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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 17
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スウェーデンリレーが2年生へと順番を移した頃。
「いなかったわよ」
同窓会のテントでの手伝いを抜けて赤組の待機場所に戻ってきた明智絵里の言葉を聞いて、がっくりと柚鈴は項垂れた。
もしかしたらそこになら、しのさんがいるかと思って、一緒にお茶会の前に顔を見ていた明智さんに尋ねたのだが、当てが外れてしまった。
このままでは借り物競争はどうすれば良いのか分からない。
遥先輩とも走らず、しのさんとも走らない。
『嘘は少ない方が良い』の言葉に従って、第三者と考えないわけでもないが、急に一番走りたい人と言っても浮かばない。
もしかして誰とも一緒に走らない、というのが正解なのだろうか?
しかしわざわざこの競技に出て、それが許されるのか怪しい。
そもそもそんな姿を見せたら、東郷先輩が俄然やる気になるだけではないだろうか。
グダグダとそんなことを考えていると、明智さんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「なんか、ちょっと迷子の気分で」
「もう少し具体的に教えてもらえる?」
「う~んと。正解だった答えが正解じゃなかったり、そこにたどり着くための段階を踏めなかったりする感じかなあ」
まさか今までの流れを全て話すことも出来ず、なるだけ簡略に言うと、明智さんは間をおいてから口を開いた。
「なんだか、テストの答えのようなことで悩んでいるような言い方ね」
「え?」
「世の中の物事に明らかな正解なんて存在するわけがないわ。もし存在するのなら、私はとても楽を出来てると思うもの」
「……」
…つまり明智さんでも、世の中に難しさを感じたりするってことだろうか。
想像してなかったことに柚鈴が言葉を失っていると、それに気付いて明智さんは少し申し訳なさそうに目を伏せてため息をついた。
「ごめんなさい。これじゃ八つ当たり」
「ううん。大丈夫」
明智さんの謝罪に、何があったのか分からないけれど、一先ずそう答える。
するとこちらをじっと見てから、明智さんが少し言いにくそうにしたから口を開いた。
「私が思うにだけど。柚鈴さんて、人の言葉を跳ね除けない人よね」
「ん?何それ?」
「人の言葉や、その時の状況を受け入れるというか感化されやすいというか。」
「…そう?」
全く自覚のないことを言われて、目を瞬かせていると、明智さんは頷いた。
「この体育祭で何に迷っているのかは知らないけれど。迷ってしまうっていうのは、優柔不断かもしれないけれど、熟慮を重ねているとか思慮深いとか言うことにもつながるでしょう?だから…」
そこまで言って、ふと何かに気付いたように明智さんは言葉を止めた。
「まさか柚鈴さん。借り物競争で誰と走るのか悩んでいるわけじゃないわよね?」
「え!?あ、明智さん。どうして分かったの?」
柚鈴が思わず声を上げると、明智さんはまさか、と言わんばかりに目を見開いて、頭痛を感じるというように頭を抱えた。
それでも自分の推理の謎解きをしてくれる。
「お茶会の時には特定の先輩に憧れを持っている様子でもなかった柚鈴さんが、借り物競争に出るって言うから、一体どこで誰と出会ったのか興味があったの。それが競技が近づくにつれて悩み顔になってるなんて、もしかしてと思ったのよ」
「ああ、なるほど」
「なるほどって。まさかそれが正解なんて私だって思わなかったのよ。…ああ、それで」
流れで明智さんは、自分に聞かれた質問の意味を理解したように頷いた。
「昨年の卒業生と一緒に走ろうと思ったのね。さしづめ教室まで来ていた2年生のお誘いを断るためでしょう」
「よくわかるね。その通りです」
「なのに肝心の元茶道部部長さんが来ていない、と」
「…はい」
あまりにもその通りの言葉が続いて、柚鈴が小さくなっていると、明智さんは心配そうに眉を顰めた。
「どうするの?」
「どうしよう…」
途方のくれた柚鈴の顔に、明智さんも釣られたように途方にくれた顔をしてくれる。
案外、明智さんも感化されやすい、と柚鈴は心の中で思った。
「いなかったわよ」
同窓会のテントでの手伝いを抜けて赤組の待機場所に戻ってきた明智絵里の言葉を聞いて、がっくりと柚鈴は項垂れた。
もしかしたらそこになら、しのさんがいるかと思って、一緒にお茶会の前に顔を見ていた明智さんに尋ねたのだが、当てが外れてしまった。
このままでは借り物競争はどうすれば良いのか分からない。
遥先輩とも走らず、しのさんとも走らない。
『嘘は少ない方が良い』の言葉に従って、第三者と考えないわけでもないが、急に一番走りたい人と言っても浮かばない。
もしかして誰とも一緒に走らない、というのが正解なのだろうか?
しかしわざわざこの競技に出て、それが許されるのか怪しい。
そもそもそんな姿を見せたら、東郷先輩が俄然やる気になるだけではないだろうか。
グダグダとそんなことを考えていると、明智さんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「なんか、ちょっと迷子の気分で」
「もう少し具体的に教えてもらえる?」
「う~んと。正解だった答えが正解じゃなかったり、そこにたどり着くための段階を踏めなかったりする感じかなあ」
まさか今までの流れを全て話すことも出来ず、なるだけ簡略に言うと、明智さんは間をおいてから口を開いた。
「なんだか、テストの答えのようなことで悩んでいるような言い方ね」
「え?」
「世の中の物事に明らかな正解なんて存在するわけがないわ。もし存在するのなら、私はとても楽を出来てると思うもの」
「……」
…つまり明智さんでも、世の中に難しさを感じたりするってことだろうか。
想像してなかったことに柚鈴が言葉を失っていると、それに気付いて明智さんは少し申し訳なさそうに目を伏せてため息をついた。
「ごめんなさい。これじゃ八つ当たり」
「ううん。大丈夫」
明智さんの謝罪に、何があったのか分からないけれど、一先ずそう答える。
するとこちらをじっと見てから、明智さんが少し言いにくそうにしたから口を開いた。
「私が思うにだけど。柚鈴さんて、人の言葉を跳ね除けない人よね」
「ん?何それ?」
「人の言葉や、その時の状況を受け入れるというか感化されやすいというか。」
「…そう?」
全く自覚のないことを言われて、目を瞬かせていると、明智さんは頷いた。
「この体育祭で何に迷っているのかは知らないけれど。迷ってしまうっていうのは、優柔不断かもしれないけれど、熟慮を重ねているとか思慮深いとか言うことにもつながるでしょう?だから…」
そこまで言って、ふと何かに気付いたように明智さんは言葉を止めた。
「まさか柚鈴さん。借り物競争で誰と走るのか悩んでいるわけじゃないわよね?」
「え!?あ、明智さん。どうして分かったの?」
柚鈴が思わず声を上げると、明智さんはまさか、と言わんばかりに目を見開いて、頭痛を感じるというように頭を抱えた。
それでも自分の推理の謎解きをしてくれる。
「お茶会の時には特定の先輩に憧れを持っている様子でもなかった柚鈴さんが、借り物競争に出るって言うから、一体どこで誰と出会ったのか興味があったの。それが競技が近づくにつれて悩み顔になってるなんて、もしかしてと思ったのよ」
「ああ、なるほど」
「なるほどって。まさかそれが正解なんて私だって思わなかったのよ。…ああ、それで」
流れで明智さんは、自分に聞かれた質問の意味を理解したように頷いた。
「昨年の卒業生と一緒に走ろうと思ったのね。さしづめ教室まで来ていた2年生のお誘いを断るためでしょう」
「よくわかるね。その通りです」
「なのに肝心の元茶道部部長さんが来ていない、と」
「…はい」
あまりにもその通りの言葉が続いて、柚鈴が小さくなっていると、明智さんは心配そうに眉を顰めた。
「どうするの?」
「どうしよう…」
途方のくれた柚鈴の顔に、明智さんも釣られたように途方にくれた顔をしてくれる。
案外、明智さんも感化されやすい、と柚鈴は心の中で思った。
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