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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 10 ~有沢綾~
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体育祭の数日前に話を遡って。
「追いかけ玉入れと、大玉送りと体育部対抗リレーと借り物競争?」
陸上部部長である有沢綾は、自分のメンティである前田光希の体育祭参加競技の内容を聞いて、目を丸くした。
なんとも陸上部らしくも勝負好きの自分のメンティらしくもない選択ばかりと思ったからだ。
だが光希は綾の様子ににっこりと笑った。
「せっかくの体育祭ですし、楽しめる競技にしようかと思いまして」
「そう?」
「それにお姉さま、別に陸上部としての長所を生かせないわけではないですよ。例えば追いかけ玉入れは、私は玉を持って追う方ではなくてカゴも持って追われる方なんですから」
自信満々に言ってのけた様子が、なんだか可愛らしくて綾はそれ以上言うのを止めた。
止めたどころかにっこり笑顔になる。
「そう。あなたがカゴを持って逃げるんだったら、追う方は大変でしょうね」
「ええ。それは勿論です。玉なんて一個もカゴに入れさせない勢いで走りぬいて見せますから」
助言者である綾の言葉に、すぐ調子に乗る所のある光希は、姉のひいき目の入った言葉に胸を張って頷いた。
近くに薫がいれば、呆れてため息の一つでもつき、すぐさま気付いた光希を怒らせるだろうが、良いのか悪いのか今は二人きりだ。
しかし、綾の言葉も妹可愛さのひいき目とばかりも言えない。
地味なトレーニングを厭わない光希は持久力にすぐれ、短距離走よりも長距離走の方が得意である。
走り続けるという点では、中々適う人はいないはずだ。
「頑張ってね」
「いけません、お姉さま」
励ましの言葉を、光希はビシッと止めた。
「お姉さまと私は体育祭では敵同士ですから。私を応援するのは道理に外れます」
「ああ、そうね。その通りね」
綾が納得すると、光希は大きく頷いてから、何かに気付いたように恐る恐る付け加える。
「…でも」
「?…どうしたの?」
「高村薫はお姉さまと同じ組ですが」
「そうね」
「出来れば、あまり応援しないで頂けると嬉しいのですが」
綾はその言葉に、目を瞬かせて、自分のメンティたる光希を見つめた。
少々気まずそうな顔で返事を待っている様子に、ふふっと笑ってしまう。
「わかったわ。なるだけそうしましょう」
「すみません」
綾の言葉には、どこまでも素直な態度を見せる光希が微笑ましく思える。
薫さんも、この可愛さに早く気付けばいいのに。
そんな無茶なこともこっそり考える。
「ところで、借り物競争も出るのね」
「ええ。良い機会です、公衆の面前で高村薫をとっ捕まえて、私のメンティにしてくれます」
「勝算があるの?」
「私は長距離が得意ですからね。いつものようにゴールはないんですから、向こうが音を上げるまで追い続けるだけです」
そう光希は頼もしく笑っていたのだが。
大玉送り。
その名前の通り人の身長ほどもある大きな玉を3人一組でコロコロ転がしながら行うリレー競争だ。
バトン代わりに大玉を次の走者に渡すまで転がす。
応援はしないものの、しっかりと光希の順番を自らの赤組の待機場所で見つめていた綾は、あらあらと頬杖をついた。
…随分、疲れているわね。
追いかけ玉入れの際、宣言通り『一つも玉を入れさせない』勢いでカゴを持って走っていた光希は、どうも張り切りすぎたらしい。疲れた気配が見える。
親しい人でもなければ気づかないだろうが、そこは光希から『お姉さま』と呼ばれる綾である。見逃すはずもない。
次に彼女が出る体育部対抗リレーでは、出たがっていた高村薫から、じゃんけんで見事に勝利しもぎ取った競技なだけに最後の気力を振り絞ってでも全力を出し切るだろうが。
これは借り物競争は分が悪そう。
そんな計算の出来ない前田光希という後輩のことを誰よりも可愛く思っている綾は、ふふっと柔らかく微笑むのだった。
「追いかけ玉入れと、大玉送りと体育部対抗リレーと借り物競争?」
陸上部部長である有沢綾は、自分のメンティである前田光希の体育祭参加競技の内容を聞いて、目を丸くした。
なんとも陸上部らしくも勝負好きの自分のメンティらしくもない選択ばかりと思ったからだ。
だが光希は綾の様子ににっこりと笑った。
「せっかくの体育祭ですし、楽しめる競技にしようかと思いまして」
「そう?」
「それにお姉さま、別に陸上部としての長所を生かせないわけではないですよ。例えば追いかけ玉入れは、私は玉を持って追う方ではなくてカゴも持って追われる方なんですから」
自信満々に言ってのけた様子が、なんだか可愛らしくて綾はそれ以上言うのを止めた。
止めたどころかにっこり笑顔になる。
「そう。あなたがカゴを持って逃げるんだったら、追う方は大変でしょうね」
「ええ。それは勿論です。玉なんて一個もカゴに入れさせない勢いで走りぬいて見せますから」
助言者である綾の言葉に、すぐ調子に乗る所のある光希は、姉のひいき目の入った言葉に胸を張って頷いた。
近くに薫がいれば、呆れてため息の一つでもつき、すぐさま気付いた光希を怒らせるだろうが、良いのか悪いのか今は二人きりだ。
しかし、綾の言葉も妹可愛さのひいき目とばかりも言えない。
地味なトレーニングを厭わない光希は持久力にすぐれ、短距離走よりも長距離走の方が得意である。
走り続けるという点では、中々適う人はいないはずだ。
「頑張ってね」
「いけません、お姉さま」
励ましの言葉を、光希はビシッと止めた。
「お姉さまと私は体育祭では敵同士ですから。私を応援するのは道理に外れます」
「ああ、そうね。その通りね」
綾が納得すると、光希は大きく頷いてから、何かに気付いたように恐る恐る付け加える。
「…でも」
「?…どうしたの?」
「高村薫はお姉さまと同じ組ですが」
「そうね」
「出来れば、あまり応援しないで頂けると嬉しいのですが」
綾はその言葉に、目を瞬かせて、自分のメンティたる光希を見つめた。
少々気まずそうな顔で返事を待っている様子に、ふふっと笑ってしまう。
「わかったわ。なるだけそうしましょう」
「すみません」
綾の言葉には、どこまでも素直な態度を見せる光希が微笑ましく思える。
薫さんも、この可愛さに早く気付けばいいのに。
そんな無茶なこともこっそり考える。
「ところで、借り物競争も出るのね」
「ええ。良い機会です、公衆の面前で高村薫をとっ捕まえて、私のメンティにしてくれます」
「勝算があるの?」
「私は長距離が得意ですからね。いつものようにゴールはないんですから、向こうが音を上げるまで追い続けるだけです」
そう光希は頼もしく笑っていたのだが。
大玉送り。
その名前の通り人の身長ほどもある大きな玉を3人一組でコロコロ転がしながら行うリレー競争だ。
バトン代わりに大玉を次の走者に渡すまで転がす。
応援はしないものの、しっかりと光希の順番を自らの赤組の待機場所で見つめていた綾は、あらあらと頬杖をついた。
…随分、疲れているわね。
追いかけ玉入れの際、宣言通り『一つも玉を入れさせない』勢いでカゴを持って走っていた光希は、どうも張り切りすぎたらしい。疲れた気配が見える。
親しい人でもなければ気づかないだろうが、そこは光希から『お姉さま』と呼ばれる綾である。見逃すはずもない。
次に彼女が出る体育部対抗リレーでは、出たがっていた高村薫から、じゃんけんで見事に勝利しもぎ取った競技なだけに最後の気力を振り絞ってでも全力を出し切るだろうが。
これは借り物競争は分が悪そう。
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