拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭です! 5 ~薫~

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長縄は、各組選抜30人で行われた。
それぞれが並ぶ順番や立ち位置に工夫をしての取り組みで、中西花奏も大いに張り切って飛んでいた。
大会当日のマジックなのか、練習の時よりも各組大幅に回数が多く飛べていたようで、応援団を巻き込んでの大賑わいだった。
その賑わいに、長縄に出場していた選手にペアのいる生徒は、自分と色違いにいる相手でもついつい声をだして応援してしまったようだが、それは毎年のご愛嬌である。
もちろん、その中に白組の3年市原遥や、小牧ひとみも居たりする。

特に、その重々しくも地味な雰囲気から、普段は大きな声を出すことのない小牧ひとみが、珍しくも出した大きな声援を彼女を知る周りの生徒が驚いたりもしていたのだが、それも体育祭ならではの魔法のようなものだ。

とにかく大盛況で長縄の時間が終わり。
次の競技である『追いかけ玉入れ』が始まった。

薫はその様子を、その次の種目である200m走の待機場所で見ながら、呆れたように呟いた。

「なんじゃ、ありゃ」
追いかけ玉入れは、その名前の通り、玉を入れるカゴを持った敵組の生徒を追いかけて、玉を投げ入れる競技だ。
カゴを持っている生徒は、当然ながら、各組のスタミナがあり、足も素早い人が選ばれる。
ちなみに黄組では、陸上部2年の前田光希が赤いカゴを持って走っているわけだが。

薫の目線の先にあるのは、玉入れをするためにカゴを追いかけている幸だった。
黄組の選手として、玉入れに参加しているのは知らなかったのだが、幸はある意味で目立つので薫にはすぐに発見できる。
しかし、だ。
今日はいつも以上に目立つように思えた。
運動神経が良くはないのだろうが、なにか妙にオタオタしている気がする。
無駄な動きも多く、点入れの加勢には全くなっていない。

「なんか、あったかね」
素直というか、心の内が分かりやすい幸のことだ。
競技の前に何か衝撃的なことでもあったのかもしれない。

その時薫は、写真部が写真を撮っているのをグラウンドの端に見つけた。
よし、この玉入れの写真があったら、ちゃんとチェックして買おう、と心に決める。
後で相談にでも乗ってやろう、心配だ、などと心優しい発想もないわけではないのだが(多分)
それよりもちゃんと写真に入っていればいいなと願うことが先だ。

写真の焼き増しの話が出る頃には、きっと幸も正気に戻っているだろうし、揶揄ってやろう。
そう、思わずニヤリとした。

気ままに目線を辺りにもやれば。
ふと、先ほどの100m走で中々良い走りをしていたバスケ部の二年生が、200m走にも参加するのだろう、同じ待機場所にいるのが見えた。
残念ながら、この種目では各学年ごとに走るので、薫は一緒に走ることがない。
後の競技で運が良ければ一緒に走れるはずではあるが、それは分からない。少し悔しそうに薫が目線を送っていると、その人は玉入れの競技を見ながらクスクスと笑っている。

なんとなく目線の先に、幸がいるような気がして。

…まさかね。いや、でももしかしたら、大勢の中から幸の、小動物的な癒し系の動きを見つけて、あの人も癒されてるという可能性もあるか。
だとしたら、すごいぞ、幸。

などと、的外れな分析をする。
小動物の雰囲気こそが幸の長所の一つだと真剣に思っている。
そのことを公然と考え、時には口に出してしまうことで、幸が褒められてないどころか、少々傷ついているということには全く気付いていない。純粋に好意しかない。
逆に好意だと分かってしまうからこそ、幸が結局、最後には諦めるように受け入れてるという平和な関係である。

そして、実は薫は目線の先の人物、沢城先輩こそが幸がGWにデートをした相手とも全く知らないのだ。
ただ今は、出来ればこの体育祭で、勝負したい相手としか思っていなかった。
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