拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭です! 3

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え?なにあれ。どういうこと。

今の結果に混乱してしまった。
速い。速すぎないだろうか。歓声が飛び交う中、慌てて辺りを見回して。

同じ組の遥先輩を見つけて、柚鈴は慌てて詰め寄った。
「は、遥先輩」
「あら、慌ててどうしたの?柚鈴さん」
「あの、あの白組の、今の沢城先輩。足が速すぎませんか?」
「え?」
聞かれていることの意味が分からないというように、遥先輩は首を傾げた。
「その『沢城さん』が速いと何か問題があるの?白組に速い選手がいて、私たちとしては何よりでしょう」
「問題というか…」
どうやら遥先輩は質問の意味が良く分からないらしい。
どう聞けばいいのか迷っていると。

「沢城さんなら、バスケ部のレギュラーで短距離はとても得意よ」
いつの間にか後ろに立っていた誰かの、柚鈴が確かに聞きたかった答えがぼそぼそと低い声で話されて、はっと驚いた。
全く気配を感じなかったのだのだ。
後ろに立っていた人は、良く見ると人目を惹くような整った顔立ちなのだが、どこか重々しい雰囲気を放っている。
なんだかちょっと怖い。

「そう、なんですか。ありがとうございます」
思わず警戒心を働かせて、緊張しつつお礼を言う。
その様子を見て、遥先輩は呆れたように頭を押さえつつ言った。
「ひとみ。あなた、気配がないのよ。人の後ろに急に立つのをおやめなさい。柚鈴さんが驚いているでしょう?」
「え?そうでしょうか?」
あまり顔には出ないが、言われたことに驚いたのだろう。
ぼそぼそとした言い方のまま、その人は首を傾げている。

しかし。

ひとみ?
その名前に聞き覚えがあった。
親しそうな様子の遥先輩の表情を見て、その人を見てから。

ん!?もしかして小牧ひとみ先輩?
その名前を導き出すと思わず目を点にしてしまった。
この人が、花奏ちゃんの助言者メンティ
南組にいらっしゃるという『ひとみお姉さま』!?

この遥先輩とあの花奏に挟まれる2年生になんとなく『お姉さまと私』的な花咲くような世界観をイメージしていたのが、ガラガラと崩れていく気がする。
つい、まじまじとその人を見ていると、遥先輩は気付いたようだった。

「…驚きすぎよ、柚鈴さん」
「え?あ、いや…」
「お察しの通り、私のメンティである小牧ひとみよ」
「あ、はいぃ。あの、小鳥遊柚鈴と申します。遥先輩と花奏ちゃんにはお世話になってます!よろしくお願いします」
小牧先輩に並び立ち、やれやれと紹介してくれた遥先輩に慌てて自己紹介をすると。
「こちらこそよろしくお願いします」
重々しい言い方のまま。頭を下げられた。

慌てて頭を下げ返すものの、頭を上げてもまだ下げたままの小牧先輩。柚鈴は困惑しつつ遥先輩に目線を送る。
「ひとみ、頭を上げなさい」
呆れたような口調で、遥先輩は指示して小牧先輩の頭を上げさせると、柚鈴の困惑を振り払うように一度咳ばらいをした。

「それで?沢城さんはバスケ部なのね?」
「はい。西組ですが、俊足で有名ですよ。まあ、体育部界隈かいわいに限っての知名度かもしれませんけど」
「そう。確かにバスケ部は昨年の大会でもいい成績を収めていたわね」
「はい。去年は彼女、1年生ながらにレギュラー入りをしていました。仲間意識を感じて話しかけたこともありますけど、いい人で色々話を聞いてくれますよ」
「…それは、貴重な良い子ね」
「はい」

貴重な良い子、ってどういう意味ですか!?
しかもそれで相槌を打つって何?
それと分かるか分からないかくらいで笑った重々しすぎる小牧先輩の雰囲気は全ての答えな気もする。
ううむ。遥先輩の家系侮りがたし。

柚鈴はこれ以上考えないように無理やり、意識を沢城先輩に戻した。
西組だが、スポーツ万能。

新体操部での花奏のような存在なのだろう。
幸…今頃驚いている気がする。
友人の、目を丸くさせた顔を思い描いた。
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