172 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭への準備です 3
しおりを挟む
『つっかれたぁ』
寮の食堂で。
柚鈴と幸の声が盛大にハモった。
柚鈴が疲れているのは、もちろん今日の出来事だ。
遅れたお茶会での参加メンバーは、そうそうたる顔ぶれだった、ようだ。
柚鈴自身は、ピンと来なかったけれど、先に参加して自己紹介をしあったと言う明智さんが、親切にも端から教えてくれた。
大まかに纏めると生徒会次期会長候補や生徒会手伝いのメンバー、常葉学園の主だった部活の次期部長候補メンバー、北組の芸術関係優秀たる生徒。1年生の方も、様々な分野で光が当たる助言者のいない生徒ばかりが選ばれているようで、柚鈴も東組特待生とはいえ、ここでは平凡な枠に入っていると言って良さそうだった。
しかし明智さんは、さすがに東組首席。
簡単な自己紹介くらいしか受けていないだろうに、全て覚えていて、しかも会話から判断して分析したのか、細やかな情報を足して教えてくれるので、柚鈴は途中から思考が停止しそうだった。
メモを、メモをとらなきゃ覚えられない…
そもそも柚鈴は、暗記は書いて覚える方だ。
明智さんは、一度聞いたことを覚えていられるタイプらしく、頭脳の違いを見せつけられる気がする。
2年生で招待されている東組の先輩方は、幸いにも『生徒会次期会長候補』等の生徒だけで、東郷先輩はいなかった。
もっとも来る予定があれば、相原先輩と先日のような会話にはならないだろうけど。
柚鈴が容量オーバー気味の頭で、情報や状況を纏めていると、明智さんは少しばかり気を使ったように間を置いてから、そういえばと思い出したように言った。
「先ほどの岬紫乃舞さんが小鳥遊さんを連れていったことを相原先輩には言うな、と言っていたから、念のため他の茶道部の方にお話ししておいたけど良かったかしら?」
そう、明智さんはしれっと言った。
しのさんからの頼み事は遂行したけれど、結果的には報告した、ということだ。
茶道部の部員にそのことを伝えれば、相原先輩の耳に入るに決まっている。
「一応、要件は分からないということにしておいたわ」
それなりの気遣いも挟んでくれたらしい。
なんというか明智さんは、真面目で優秀な人だと思っていたけど、中々大胆な発想の持ち主なのかもしれない。
要領良くやる、というか。
その思考は参考にしたい気もした。
ここで明智さんがもし気を使わずに。
『小鳥遊さんのお姉さんのことで、岬紫乃舞さんがという茶道部の前部長を名乗る方が連れていってしまいました』では、どうしたって志奈さんの関わりを想像されるだろう。
いつかばれるかもしれないけれど、誤魔化せるうちは誤魔化しておきたい、という気持ちは変わらない。
お茶会に参加を断られた岬紫乃舞さんが、参加予定の一年生を一人、急に連れ去りました。
…悪いけど、しのさんがいつもあんな風にマイペースなのであれば、あり得ない話ではなさそうだ。
何故、その一年生が柚鈴だったのかと突っ込まれてしまうと困るのだけど。
少なくとも、その後柚鈴が戻って来たことに気付いて寄って来た相原先輩は、完全にしのさんが面白がってやったとしか思っていなかった。
「岬紫乃舞さんとは初対面でしたわよね?変わった方で驚かれたでしょう。ご迷惑掛けてごめんなさい」
明智さんと話していた柚鈴を見つけると、早歩きに近づいてくるなり相原先輩は頭を下げて謝罪してきたのだ。
身内が迷惑を掛けた、と言わんばかりである。
「ええと…あの、確かに初対面ではありましたけど」
柚鈴にも疚しいところがないわけではないので、良い淀みつつ答えると相原先輩は申し訳なさそうに眉を下げた。
寮の食堂で。
柚鈴と幸の声が盛大にハモった。
柚鈴が疲れているのは、もちろん今日の出来事だ。
遅れたお茶会での参加メンバーは、そうそうたる顔ぶれだった、ようだ。
柚鈴自身は、ピンと来なかったけれど、先に参加して自己紹介をしあったと言う明智さんが、親切にも端から教えてくれた。
大まかに纏めると生徒会次期会長候補や生徒会手伝いのメンバー、常葉学園の主だった部活の次期部長候補メンバー、北組の芸術関係優秀たる生徒。1年生の方も、様々な分野で光が当たる助言者のいない生徒ばかりが選ばれているようで、柚鈴も東組特待生とはいえ、ここでは平凡な枠に入っていると言って良さそうだった。
しかし明智さんは、さすがに東組首席。
簡単な自己紹介くらいしか受けていないだろうに、全て覚えていて、しかも会話から判断して分析したのか、細やかな情報を足して教えてくれるので、柚鈴は途中から思考が停止しそうだった。
メモを、メモをとらなきゃ覚えられない…
そもそも柚鈴は、暗記は書いて覚える方だ。
明智さんは、一度聞いたことを覚えていられるタイプらしく、頭脳の違いを見せつけられる気がする。
2年生で招待されている東組の先輩方は、幸いにも『生徒会次期会長候補』等の生徒だけで、東郷先輩はいなかった。
もっとも来る予定があれば、相原先輩と先日のような会話にはならないだろうけど。
柚鈴が容量オーバー気味の頭で、情報や状況を纏めていると、明智さんは少しばかり気を使ったように間を置いてから、そういえばと思い出したように言った。
「先ほどの岬紫乃舞さんが小鳥遊さんを連れていったことを相原先輩には言うな、と言っていたから、念のため他の茶道部の方にお話ししておいたけど良かったかしら?」
そう、明智さんはしれっと言った。
しのさんからの頼み事は遂行したけれど、結果的には報告した、ということだ。
茶道部の部員にそのことを伝えれば、相原先輩の耳に入るに決まっている。
「一応、要件は分からないということにしておいたわ」
それなりの気遣いも挟んでくれたらしい。
なんというか明智さんは、真面目で優秀な人だと思っていたけど、中々大胆な発想の持ち主なのかもしれない。
要領良くやる、というか。
その思考は参考にしたい気もした。
ここで明智さんがもし気を使わずに。
『小鳥遊さんのお姉さんのことで、岬紫乃舞さんがという茶道部の前部長を名乗る方が連れていってしまいました』では、どうしたって志奈さんの関わりを想像されるだろう。
いつかばれるかもしれないけれど、誤魔化せるうちは誤魔化しておきたい、という気持ちは変わらない。
お茶会に参加を断られた岬紫乃舞さんが、参加予定の一年生を一人、急に連れ去りました。
…悪いけど、しのさんがいつもあんな風にマイペースなのであれば、あり得ない話ではなさそうだ。
何故、その一年生が柚鈴だったのかと突っ込まれてしまうと困るのだけど。
少なくとも、その後柚鈴が戻って来たことに気付いて寄って来た相原先輩は、完全にしのさんが面白がってやったとしか思っていなかった。
「岬紫乃舞さんとは初対面でしたわよね?変わった方で驚かれたでしょう。ご迷惑掛けてごめんなさい」
明智さんと話していた柚鈴を見つけると、早歩きに近づいてくるなり相原先輩は頭を下げて謝罪してきたのだ。
身内が迷惑を掛けた、と言わんばかりである。
「ええと…あの、確かに初対面ではありましたけど」
柚鈴にも疚しいところがないわけではないので、良い淀みつつ答えると相原先輩は申し訳なさそうに眉を下げた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる