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第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 10
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一応は気を使ってくれていた、ということに感謝すべきなんだろうか?
その判断は、確かに柚鈴にとってはありがたいものではある。感謝する気持ちが起きないわけでもない。
実際、そのことを知った、しのさんが高等部まで来てるわけだから、必要な配慮でもあったのだろう。
でも、志奈さんから情報を仕入れたわけではないとすれば、しのさんはどうして柚鈴のことを知っていたのだろうか。不思議すぎる。
「しのさん。今日、私が茶道部の招待を受けていることも知っていましたけど」
『あら、そうなの?どうしてかしら?流石ねぇ』
不思議そうに言いつつも、クスクスと志奈さんは楽しそうに笑った。
しのさんの突拍子もないところや、想像以上の行動を好ましく思っているようだ。
その気持ちは柚鈴も分からないでもなかった。
…どうやって、あのしのさんに言うことを聞かせたんだろう?
お礼を言われたと言ってみたけれど、どういうことなんだろうか?
ちょっと聞いてみたいところだが、目の端に映った真美子さんの存在に、今からでもお茶会に参加するんだったと思い出して、止めておくことにした。
「…志奈さん、それじゃあ切りますね」
『はあい、またね』
無意識に呼び方を、志奈さんと戻したことに気付きつつ、何も言われなかったことを良いことに、今度こそと携帯を切った。
ようやく茶道部に戻れる状態になった柚鈴を確認して、真美子さんも図書館への扉に手を掛けた。
「話は済んだようだし、私はまだ用が残っているからこれで」
「あ、お迎え、ありがとうございました」
「いいえ。紫乃舞さん相手では私はあまり役に立たなかったから。却ってごめんなさいね」
申し訳なさそうに眉を下げる真美子さんに、柚鈴は首を振った。
確かに、真美子さんの会話は、しのさんの何かのスイッチを押してしまったようだった。
だが、しのさんの目的が『柚鈴をお茶会に行かせない』ことだったと分かってしまえば、柚鈴一人でも、あのまま会話に巻き込まれたままだっただろう。
志奈さんに助けを求めることになったのは、まずかった気もしないでもないけれど、どうせいつかは『お姉ちゃん』と呼ばされていた気もするし、勢い任せでクリアしてしまったことは悪くはなかった、のかもしれない。
…だいぶ、志奈さんの要求に考えが慣らされて来た気もするけど。
何にしろ、相原先輩の為に代わりで来てくれた真美子さんには、お礼を言う理由がある。
柚鈴はそう思った。
「いえ、ありがとうございました」
柚鈴が改まってお礼を言うと真美子さんは表情を和らげて、微かに笑みを浮かべた。
普段冷たく見える分、随分と魅力的に見える。元々顔だちが整っている分、ハッとしてしまう。
「紫乃舞さんは、あなたに頼み事をしに来たの?」
ふと、気になったという様に、真美子さんは口を開いた。
「え?あ、はい。最初に頼み事があるとは言われました。結局、中身は教えてくれませんでしたけど」
「そう…」
真美子さんは、何か思い当たるのか少し考えるように沈黙した。
「あの、何か?」
「いいえ」
その様子に気になった柚鈴が思わず聞くが真美子さんは首を振る。表情があまり動かないので、考えていることは分かりづらかった。
「さあ、お茶会に早く行きなさい。あなたは階段を降りて行くんでしょう。送ってはいけないわよ」
様子を伺う柚鈴に苦笑してみせると、逆にそう焦らされた。
室内の方からきた真美子さんは、来賓用のスリッパを履いていて、柚鈴は外履きだ。
そうだった。
お茶会は当然始まっている。
すでに遅刻は決定していても、少しでも早く参加した方がいいだろう。
柚鈴は慌てて頷き、真美子さんに頭を下げてから非常階段を降りた。
その判断は、確かに柚鈴にとってはありがたいものではある。感謝する気持ちが起きないわけでもない。
実際、そのことを知った、しのさんが高等部まで来てるわけだから、必要な配慮でもあったのだろう。
でも、志奈さんから情報を仕入れたわけではないとすれば、しのさんはどうして柚鈴のことを知っていたのだろうか。不思議すぎる。
「しのさん。今日、私が茶道部の招待を受けていることも知っていましたけど」
『あら、そうなの?どうしてかしら?流石ねぇ』
不思議そうに言いつつも、クスクスと志奈さんは楽しそうに笑った。
しのさんの突拍子もないところや、想像以上の行動を好ましく思っているようだ。
その気持ちは柚鈴も分からないでもなかった。
…どうやって、あのしのさんに言うことを聞かせたんだろう?
お礼を言われたと言ってみたけれど、どういうことなんだろうか?
ちょっと聞いてみたいところだが、目の端に映った真美子さんの存在に、今からでもお茶会に参加するんだったと思い出して、止めておくことにした。
「…志奈さん、それじゃあ切りますね」
『はあい、またね』
無意識に呼び方を、志奈さんと戻したことに気付きつつ、何も言われなかったことを良いことに、今度こそと携帯を切った。
ようやく茶道部に戻れる状態になった柚鈴を確認して、真美子さんも図書館への扉に手を掛けた。
「話は済んだようだし、私はまだ用が残っているからこれで」
「あ、お迎え、ありがとうございました」
「いいえ。紫乃舞さん相手では私はあまり役に立たなかったから。却ってごめんなさいね」
申し訳なさそうに眉を下げる真美子さんに、柚鈴は首を振った。
確かに、真美子さんの会話は、しのさんの何かのスイッチを押してしまったようだった。
だが、しのさんの目的が『柚鈴をお茶会に行かせない』ことだったと分かってしまえば、柚鈴一人でも、あのまま会話に巻き込まれたままだっただろう。
志奈さんに助けを求めることになったのは、まずかった気もしないでもないけれど、どうせいつかは『お姉ちゃん』と呼ばされていた気もするし、勢い任せでクリアしてしまったことは悪くはなかった、のかもしれない。
…だいぶ、志奈さんの要求に考えが慣らされて来た気もするけど。
何にしろ、相原先輩の為に代わりで来てくれた真美子さんには、お礼を言う理由がある。
柚鈴はそう思った。
「いえ、ありがとうございました」
柚鈴が改まってお礼を言うと真美子さんは表情を和らげて、微かに笑みを浮かべた。
普段冷たく見える分、随分と魅力的に見える。元々顔だちが整っている分、ハッとしてしまう。
「紫乃舞さんは、あなたに頼み事をしに来たの?」
ふと、気になったという様に、真美子さんは口を開いた。
「え?あ、はい。最初に頼み事があるとは言われました。結局、中身は教えてくれませんでしたけど」
「そう…」
真美子さんは、何か思い当たるのか少し考えるように沈黙した。
「あの、何か?」
「いいえ」
その様子に気になった柚鈴が思わず聞くが真美子さんは首を振る。表情があまり動かないので、考えていることは分かりづらかった。
「さあ、お茶会に早く行きなさい。あなたは階段を降りて行くんでしょう。送ってはいけないわよ」
様子を伺う柚鈴に苦笑してみせると、逆にそう焦らされた。
室内の方からきた真美子さんは、来賓用のスリッパを履いていて、柚鈴は外履きだ。
そうだった。
お茶会は当然始まっている。
すでに遅刻は決定していても、少しでも早く参加した方がいいだろう。
柚鈴は慌てて頷き、真美子さんに頭を下げてから非常階段を降りた。
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