167 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 8
しおりを挟む
「そんな風に言われると、予想を超えることがしたくなるってのが人情」
「それを人情とは言わないわ」
「真美子にとっちゃあ、そうだろうね」
真美子さんが、しのさんを否定すればするほど、しのさんは楽しそうに言葉を返して、雰囲気はどんどん悪くなっていく。
…これ、もしかして。
どうにか止めないとまずいんじゃないだろうか、と。
焦った気持ちになってくる。
なんせここには三人しかいないのだ。
もし止めるとすれば柚鈴しかいない。
しかし、だ。
一体この二人をどうすれば止められると言うのだろうか。
柚鈴にはさっぱり分からなかった。
ど、どうしよう。
こういう時に、他の人だったらどうするんだろうか?
それすら分からない。
よく考えてみたら、今日初対面のしのさんにしろ、本日2回目の真美子さんにしろ、今まで全くお付き合いしたことのないタイプだし、分かるはずもない。
だとしたら、柚鈴に出来ることはなんだろうか?
そう考えてから。そうだ、と思いつく。
この二人を良く知っていて、対等のお付き合いをしている人なら止めれるのはずではないだろうか?
出来れば選びたくない手段だけれど。
その答えに怯んだが、目の前で変わらず会話をしている二人の様子に、決意を固めて大きく言った。
「電話しますっ」
「…は?」
「…え?」
二人が意味が分からずにこちらを振り向くのが分かって。
もう、致し方なし、と、柚鈴は携帯電話をスカートのポケットから出した。
そして二人からの視線を浴びたまま、電源を入れて電話をかける。
相手は、柚鈴にとっての最終手段、志奈さんだ。
出なかったらどうしようかと、一瞬不安もよぎったが。
その不安が募る間もなく、通話表示になった。
『もしもし?柚鈴ちゃん』
相変わらずの、柔らかなソプラノの声が聞こえてくる。
良かった…!
その声に、ほっとしたのだろうか。思わず自分が緊張していたことを感じてしまい、縋りたいような気持ちが生まれた。そのおかげで、いつもなら絶対言わないような言葉がすらすらと出て来る。
「志奈さん?なんとかして下さいっ。あの、お友達の岬紫乃舞さんと真美子さんが目の前で険悪なんです」
『え?しのと、真美子?えっ?高等部にいるということ?』
突然の頼みに、流石にすぐには飲み込めないのだろう。
戸惑うような声が聞こえるが、柚鈴は細かい説明をする気にもなれない。
なんとか、してくれるんでしょ?あなたは。
そんな確信と期待を込めて。
一息、吸ってから。勢いのまま、切り札になる言葉を出した。
「お姉ちゃん。お願い、します!」
電話の先から、息を飲むような音がして。
少しだけ間があった。
まるで言ってはいけない禁忌の言葉か、とっておきの魔法の言葉を発したような気持ちになってしまう。
その間に込められた言葉にならない志奈さんの気持ちを、びんびんと感じつつ。
柚鈴は、その意味合いを理解するのは少し嫌で、考えることはやめた。
なんとなく冷や汗のようなものが流れるのを感じてしまう。
それから。
携帯をあてた、柚鈴の耳元に実に機嫌の良い、優しい優しい声が却ってきた。
『しのに、代わって?』
どこか艶と迫力を感じさせるその言葉に、柚鈴は従った。
しのさんに携帯を渡すと、相手は余裕の態度のまま受け取る。
だが。耳に当てて、恐らく志奈さんの一言目で、はっとしたように目を見開いた。
「あー…うん。わかった」
しばらくそのまま話を聞いて。何を言われたのか、しのさんは短く答えた。
携帯を、柚鈴に返してから、どこかつまらなそうに肩を竦めた。
「真美子の言う通りにする」
しのさんは、あんまりにもあっさりすぎるほどにそう言った。
あの、強引な態度のしのさんが、こんなにも短時間の会話で納得したのだ。
これには真美子さんの方が、驚いたように息を飲んだ。
「それを人情とは言わないわ」
「真美子にとっちゃあ、そうだろうね」
真美子さんが、しのさんを否定すればするほど、しのさんは楽しそうに言葉を返して、雰囲気はどんどん悪くなっていく。
…これ、もしかして。
どうにか止めないとまずいんじゃないだろうか、と。
焦った気持ちになってくる。
なんせここには三人しかいないのだ。
もし止めるとすれば柚鈴しかいない。
しかし、だ。
一体この二人をどうすれば止められると言うのだろうか。
柚鈴にはさっぱり分からなかった。
ど、どうしよう。
こういう時に、他の人だったらどうするんだろうか?
それすら分からない。
よく考えてみたら、今日初対面のしのさんにしろ、本日2回目の真美子さんにしろ、今まで全くお付き合いしたことのないタイプだし、分かるはずもない。
だとしたら、柚鈴に出来ることはなんだろうか?
そう考えてから。そうだ、と思いつく。
この二人を良く知っていて、対等のお付き合いをしている人なら止めれるのはずではないだろうか?
出来れば選びたくない手段だけれど。
その答えに怯んだが、目の前で変わらず会話をしている二人の様子に、決意を固めて大きく言った。
「電話しますっ」
「…は?」
「…え?」
二人が意味が分からずにこちらを振り向くのが分かって。
もう、致し方なし、と、柚鈴は携帯電話をスカートのポケットから出した。
そして二人からの視線を浴びたまま、電源を入れて電話をかける。
相手は、柚鈴にとっての最終手段、志奈さんだ。
出なかったらどうしようかと、一瞬不安もよぎったが。
その不安が募る間もなく、通話表示になった。
『もしもし?柚鈴ちゃん』
相変わらずの、柔らかなソプラノの声が聞こえてくる。
良かった…!
その声に、ほっとしたのだろうか。思わず自分が緊張していたことを感じてしまい、縋りたいような気持ちが生まれた。そのおかげで、いつもなら絶対言わないような言葉がすらすらと出て来る。
「志奈さん?なんとかして下さいっ。あの、お友達の岬紫乃舞さんと真美子さんが目の前で険悪なんです」
『え?しのと、真美子?えっ?高等部にいるということ?』
突然の頼みに、流石にすぐには飲み込めないのだろう。
戸惑うような声が聞こえるが、柚鈴は細かい説明をする気にもなれない。
なんとか、してくれるんでしょ?あなたは。
そんな確信と期待を込めて。
一息、吸ってから。勢いのまま、切り札になる言葉を出した。
「お姉ちゃん。お願い、します!」
電話の先から、息を飲むような音がして。
少しだけ間があった。
まるで言ってはいけない禁忌の言葉か、とっておきの魔法の言葉を発したような気持ちになってしまう。
その間に込められた言葉にならない志奈さんの気持ちを、びんびんと感じつつ。
柚鈴は、その意味合いを理解するのは少し嫌で、考えることはやめた。
なんとなく冷や汗のようなものが流れるのを感じてしまう。
それから。
携帯をあてた、柚鈴の耳元に実に機嫌の良い、優しい優しい声が却ってきた。
『しのに、代わって?』
どこか艶と迫力を感じさせるその言葉に、柚鈴は従った。
しのさんに携帯を渡すと、相手は余裕の態度のまま受け取る。
だが。耳に当てて、恐らく志奈さんの一言目で、はっとしたように目を見開いた。
「あー…うん。わかった」
しばらくそのまま話を聞いて。何を言われたのか、しのさんは短く答えた。
携帯を、柚鈴に返してから、どこかつまらなそうに肩を竦めた。
「真美子の言う通りにする」
しのさんは、あんまりにもあっさりすぎるほどにそう言った。
あの、強引な態度のしのさんが、こんなにも短時間の会話で納得したのだ。
これには真美子さんの方が、驚いたように息を飲んだ。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説


もう惚れたりしないから
夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。
恋は盲目
気づいたときにはもう遅かった____
監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は
リーナが恋に落ちたその場面だった。
「もう貴方に惚れたりしない」から
本編完結済
番外編更新中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

未来の貴方にさよならの花束を
まったりさん
青春
小夜曲ユキ、そんな名前の女の子が誠のもとに現れた。
友人を作りたくなかった誠は彼女のことを邪険に扱うが、小夜曲ユキはそんなこと構うものかと誠の傍に寄り添って来る。
小夜曲ユキには誠に関わらなければならない「理由」があった。
小夜曲ユキが誠に関わる、その理由とは――!?
この出会いは、偶然ではなく必然で――
――桜が織りなす、さよならの物語。
貴方に、さよならの言葉を――

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位
間隙のヒポクライシス
ぼを
青春
「スキルが発現したら死ぬ」
自分に与えられたスキルと、それによって訪れる確実な死の狭間で揺れ動く高校生たちの切ない生き様を描く、青春SFファンタジー群像劇。「人の死とは、どう定義されるのか」を紐解いていきます。
■こだわりポイント
・全編セリフで構成されていますが、なぜセリフしかないのか、は物語の中で伏線回収されます
・びっくりするような伏線を沢山はりめぐらしております
・普通のラノベや物語小説では到底描かれないような「人の死」の種類を描いています
・様々なスキルや事象を、SFの観点から詳細に説明しています。理解できなくても問題ありませんが、理解できるとより楽しいです
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる