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第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 7
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「…撫でないでください」
嬉しくない。
そんな思いをありったけ込めて言うと、しのさんはあっさりと手を引く。
引き際は分かっているらしい。
「そんな嫌がりなさんな。安心しなさい。私は柚鈴ちゃんに助言者を作る気があったとしても、全力で邪魔をするつもりだったんだから。そっちもそのつもりなら、好都合。ちゃんと柚鈴ちゃんの思う通りに動いてあげるわ」
「…?邪魔をするつもりだった?」
「うん。全力で邪魔をする」
「え?今日、そのために来たんですか?」
「うん。だって、志奈にせっかく出来た妹だからねえ」
つまり今日は、茶道部での柚鈴の出会いを邪魔しに来た、と。
そういう意味で間違いないだろう。
茶会に参加するつもりだったのも、参加出来なかったから柚鈴を誘って連れ出したのも、そのためだったのだ。
そう気づいて、ここについて来てしまった判断が間違っていたような気がしてきた。
「じゃあ、もしかして頼み事って、ペアを作らないようにとか、そういうことだったんですか?」
「頼み事?」
真美子さんがその言葉に不思議そうに反応するのを見て、しのさんはクスリと笑ってから首を振った。
「いやあ?それは違うけどさ。ペアを作らないようにしたいのは私にとって、願いごとじゃなくて行動の一つの目的」
「じゃあ、頼み事って…」
「それはもうしなくてよくなったから、ひ・み・つ」
口元を歪ませながら、会話で遊ぶように言って。
しのさんは、しな垂れかかるように柚鈴の方に手を掛けた。
「まあ、ともかく。私は柚鈴ちゃんにはペアを作らせたくないわけだ。そのためには多少の労力は厭わない」
「いや、そんなことに熱意を持たなくても…そもそも、どうしてそんなこと考えてるんですか?」
「私の大好きな志奈が、3年間ペアに誰か欲しがる様子は見せなかった。でも、出来た義妹には愛着があるっていうじゃない?なら、やっぱり愛でさせ、可愛がらせさせてあげたいからね。日頃のご恩返しさ」
「すごい迷惑な発想…」
柚鈴は正直な言葉を唸るように漏らした。
ただでさえ、志奈さんの可愛がりっぷりには慣らされつつあるものの、まだまだ辟易しているというのに。
ここに、しのさんの全力が加わったら、うっとおしさ倍増だろう。
勘弁してほしい。
聞いていた真美子さんも呆れたように頭を抱えつつ、これ見よがしなため息をついた。
「あなたは楽しんでるだけでしょう」
「楽しんでるのは否定しないさ。私はそうでないことには手を出さないからね。」
「あなたねぇ。考えてもみたら?仮にも大学部の生徒が、一体高等部のことで何が出来るっていうの」
「色々考えてはいたよ。わる~いことなら。でも、ま。幸いなことに、本人もその気はないみたいだし。こういうイベント事の邪魔だけでもいいかもね。ん~、この次は体育祭とか?」
「体育祭って…平日だから、大学部でも授業はありますよね」
柚鈴が、だから無理でしょう、と続けようとすると。
しのさんは、ああそうだったっけ?と軽く首を捻った。
「確か今月末だったっけ?まあ、任せておきなさい。どうにかするし、ならなきゃサボるから」
「待ちなさい、紫乃舞さん」
ご機嫌で乱入する気満々の様子のしのさんに、真美子さんが冷たい声で遮った。
「サボるなんてダメに決まってるでしょう。大体あなた、体育祭で何をする気なの?」
「何すると思う?」
「考えたくもないわ」
一段と声色が冷ややかになっていく。
だが、それが逆に、しのさんを加速させるのだろう。
目を輝かせて、楽しそうな表情になっていくのが、傍からはっきり分かった。
嬉しくない。
そんな思いをありったけ込めて言うと、しのさんはあっさりと手を引く。
引き際は分かっているらしい。
「そんな嫌がりなさんな。安心しなさい。私は柚鈴ちゃんに助言者を作る気があったとしても、全力で邪魔をするつもりだったんだから。そっちもそのつもりなら、好都合。ちゃんと柚鈴ちゃんの思う通りに動いてあげるわ」
「…?邪魔をするつもりだった?」
「うん。全力で邪魔をする」
「え?今日、そのために来たんですか?」
「うん。だって、志奈にせっかく出来た妹だからねえ」
つまり今日は、茶道部での柚鈴の出会いを邪魔しに来た、と。
そういう意味で間違いないだろう。
茶会に参加するつもりだったのも、参加出来なかったから柚鈴を誘って連れ出したのも、そのためだったのだ。
そう気づいて、ここについて来てしまった判断が間違っていたような気がしてきた。
「じゃあ、もしかして頼み事って、ペアを作らないようにとか、そういうことだったんですか?」
「頼み事?」
真美子さんがその言葉に不思議そうに反応するのを見て、しのさんはクスリと笑ってから首を振った。
「いやあ?それは違うけどさ。ペアを作らないようにしたいのは私にとって、願いごとじゃなくて行動の一つの目的」
「じゃあ、頼み事って…」
「それはもうしなくてよくなったから、ひ・み・つ」
口元を歪ませながら、会話で遊ぶように言って。
しのさんは、しな垂れかかるように柚鈴の方に手を掛けた。
「まあ、ともかく。私は柚鈴ちゃんにはペアを作らせたくないわけだ。そのためには多少の労力は厭わない」
「いや、そんなことに熱意を持たなくても…そもそも、どうしてそんなこと考えてるんですか?」
「私の大好きな志奈が、3年間ペアに誰か欲しがる様子は見せなかった。でも、出来た義妹には愛着があるっていうじゃない?なら、やっぱり愛でさせ、可愛がらせさせてあげたいからね。日頃のご恩返しさ」
「すごい迷惑な発想…」
柚鈴は正直な言葉を唸るように漏らした。
ただでさえ、志奈さんの可愛がりっぷりには慣らされつつあるものの、まだまだ辟易しているというのに。
ここに、しのさんの全力が加わったら、うっとおしさ倍増だろう。
勘弁してほしい。
聞いていた真美子さんも呆れたように頭を抱えつつ、これ見よがしなため息をついた。
「あなたは楽しんでるだけでしょう」
「楽しんでるのは否定しないさ。私はそうでないことには手を出さないからね。」
「あなたねぇ。考えてもみたら?仮にも大学部の生徒が、一体高等部のことで何が出来るっていうの」
「色々考えてはいたよ。わる~いことなら。でも、ま。幸いなことに、本人もその気はないみたいだし。こういうイベント事の邪魔だけでもいいかもね。ん~、この次は体育祭とか?」
「体育祭って…平日だから、大学部でも授業はありますよね」
柚鈴が、だから無理でしょう、と続けようとすると。
しのさんは、ああそうだったっけ?と軽く首を捻った。
「確か今月末だったっけ?まあ、任せておきなさい。どうにかするし、ならなきゃサボるから」
「待ちなさい、紫乃舞さん」
ご機嫌で乱入する気満々の様子のしのさんに、真美子さんが冷たい声で遮った。
「サボるなんてダメに決まってるでしょう。大体あなた、体育祭で何をする気なの?」
「何すると思う?」
「考えたくもないわ」
一段と声色が冷ややかになっていく。
だが、それが逆に、しのさんを加速させるのだろう。
目を輝かせて、楽しそうな表情になっていくのが、傍からはっきり分かった。
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