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第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 5
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しのさんは、何か考えるように目を閉じてから、にっこり笑った。
「安心したから、頼み事はしないわ」
「は!?」
マイペースすぎる物言いに、柚鈴は目を見開いた。
随分、勝手な言い分じゃないだろうか。
志奈さんに関する頼み事があると言うから、相原先輩や明智さんと約束をしていたお茶会を反故にしてまで付いてきたというのに。
「だって、多分柚鈴ちゃんなら問題ないもんね。私がわざわざ頼み事なんかしなくても。私も柄でもない野暮なことはしたくもないし」
「おっしゃる意味が分からなさすぎます」
「お。もしかしてその反応は、頼み事聞きたかった?そうよねえ。あの、志奈に関する頼み事だもの。妹なら聞いておきたい所よねえ?
『私の姉に何かあるんですか?』
なんて言いたいわよねえ?へへへ」
なんとも意味深な悪さを含んだ笑みに。
柚鈴は絶句してから、思わず相手が今日初対面の年上だと言うことも忘れるくらいの感情を覚えて、声が大きくなってしまった。
「なんで、そこでそういう風に笑うんですか!?」
「いいんじゃない?姉妹愛でしょう、そこは?大切な友人のめくるめく愛の物語を喜ばない人間がどこにいるのよ」
「絶対それ、喜ぶんじゃなくて楽しんでいるんだと思いますけど」
「そう?人間一人ひとり違うもの。物事のとらえ方は人それぞれ。…ってさっきから同じようなこと言ってるな」
「そんな言葉で上手くごまかされると思わないでください」
「言葉でごまかされないなら、抱きしめてごまかしてあげましょうか?」
「結構です!」
完全に揶揄う体制になってしまっている相手に翻弄されていると。
コンコン、と図書館の方の扉からノックの音がした。
もしかして声が響いて、図書館の中の人からの苦情だろうか?
つい、声が大きくなってしまっていた自覚はあるのだ。
柚鈴が固まっていると、扉は静かに開いた。
そこから出て来たのは、意外な人物だった。
笹原真美子さん。
常葉学園大学部で会った、志奈さんの友人の一人だ。
相変わらず、どこか冷たく見える眼差し。今日は高等部に来ているからか、グレイのパンツスタイルのスーツを着ていて、それがまた雰囲気に良く合っている。
「ごきげんよう、紫乃舞さん、柚鈴さん」
「ごきげんよう?真美子」
「こ、こんにちは…」
真美子さんの静かな迫力に、柚鈴は気圧されたような気持になってしまった。
泳いだ視線の先にいた、しのさんの方は、楽しそうに口元を歪ませるように笑っていて、少し緊張感を感じる。
「二人を探していたのよ」
「真美子が?なんで?」
「所用があって高等部に来ていたら、茶道部の相原さんが、紫乃舞さんが招待客を攫って行ったって探していたの。聞けば今日は、茶道部恒例のお茶会だっていうじゃない。相原さんは部長だから、席を長く外させるわけにもいかないわ。だから私が代わりを申し出たのよ」
「はあ。あんたも外見に似合わず、相変わらず面倒見がいいよねえ」
呆れたのか感心したのか、しのさんはシミジミと言った。
微かに眉を顰めた真美子さんは、否定する。
「別に?一番効率が良いと思う方法を選んでいるにすぎないわ」
「可愛いねえ、真美子」
クスクスとしのさんは笑うと、ポンポンと真美子さんの方を叩いた。
「私はそういうあんたが好きなんだから、いつまでも私と遊んでくれればいいのに。そうすりゃ浮気なんてしないさ」
「なにが浮気よ」
真美子さんは、心底呆れたようにため息をついた。
「寂しいって言ってるんだよ。あんたのそういう態度にもさ」
「それはどうもありがとう。それで、柚鈴さんを茶道部に返してあげてはどう?」
「うわ、冷た」
しのさんが大げさに言うと、真美子さんはそれには気をとめずに、まっすぐに柚鈴を見つめた。
「安心したから、頼み事はしないわ」
「は!?」
マイペースすぎる物言いに、柚鈴は目を見開いた。
随分、勝手な言い分じゃないだろうか。
志奈さんに関する頼み事があると言うから、相原先輩や明智さんと約束をしていたお茶会を反故にしてまで付いてきたというのに。
「だって、多分柚鈴ちゃんなら問題ないもんね。私がわざわざ頼み事なんかしなくても。私も柄でもない野暮なことはしたくもないし」
「おっしゃる意味が分からなさすぎます」
「お。もしかしてその反応は、頼み事聞きたかった?そうよねえ。あの、志奈に関する頼み事だもの。妹なら聞いておきたい所よねえ?
『私の姉に何かあるんですか?』
なんて言いたいわよねえ?へへへ」
なんとも意味深な悪さを含んだ笑みに。
柚鈴は絶句してから、思わず相手が今日初対面の年上だと言うことも忘れるくらいの感情を覚えて、声が大きくなってしまった。
「なんで、そこでそういう風に笑うんですか!?」
「いいんじゃない?姉妹愛でしょう、そこは?大切な友人のめくるめく愛の物語を喜ばない人間がどこにいるのよ」
「絶対それ、喜ぶんじゃなくて楽しんでいるんだと思いますけど」
「そう?人間一人ひとり違うもの。物事のとらえ方は人それぞれ。…ってさっきから同じようなこと言ってるな」
「そんな言葉で上手くごまかされると思わないでください」
「言葉でごまかされないなら、抱きしめてごまかしてあげましょうか?」
「結構です!」
完全に揶揄う体制になってしまっている相手に翻弄されていると。
コンコン、と図書館の方の扉からノックの音がした。
もしかして声が響いて、図書館の中の人からの苦情だろうか?
つい、声が大きくなってしまっていた自覚はあるのだ。
柚鈴が固まっていると、扉は静かに開いた。
そこから出て来たのは、意外な人物だった。
笹原真美子さん。
常葉学園大学部で会った、志奈さんの友人の一人だ。
相変わらず、どこか冷たく見える眼差し。今日は高等部に来ているからか、グレイのパンツスタイルのスーツを着ていて、それがまた雰囲気に良く合っている。
「ごきげんよう、紫乃舞さん、柚鈴さん」
「ごきげんよう?真美子」
「こ、こんにちは…」
真美子さんの静かな迫力に、柚鈴は気圧されたような気持になってしまった。
泳いだ視線の先にいた、しのさんの方は、楽しそうに口元を歪ませるように笑っていて、少し緊張感を感じる。
「二人を探していたのよ」
「真美子が?なんで?」
「所用があって高等部に来ていたら、茶道部の相原さんが、紫乃舞さんが招待客を攫って行ったって探していたの。聞けば今日は、茶道部恒例のお茶会だっていうじゃない。相原さんは部長だから、席を長く外させるわけにもいかないわ。だから私が代わりを申し出たのよ」
「はあ。あんたも外見に似合わず、相変わらず面倒見がいいよねえ」
呆れたのか感心したのか、しのさんはシミジミと言った。
微かに眉を顰めた真美子さんは、否定する。
「別に?一番効率が良いと思う方法を選んでいるにすぎないわ」
「可愛いねえ、真美子」
クスクスとしのさんは笑うと、ポンポンと真美子さんの方を叩いた。
「私はそういうあんたが好きなんだから、いつまでも私と遊んでくれればいいのに。そうすりゃ浮気なんてしないさ」
「なにが浮気よ」
真美子さんは、心底呆れたようにため息をついた。
「寂しいって言ってるんだよ。あんたのそういう態度にもさ」
「それはどうもありがとう。それで、柚鈴さんを茶道部に返してあげてはどう?」
「うわ、冷た」
しのさんが大げさに言うと、真美子さんはそれには気をとめずに、まっすぐに柚鈴を見つめた。
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