162 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 3
しおりを挟む
中庭から突っ切って。
今は体育祭の準備グラウンドに人が集まっているため、人気のない体育部の部室棟の横を通り過ぎかけて。
立ち止まった岬さんは、備え付けの自動販売機まで戻って、ジュースを購入する。
迷いなくコーヒーのブラックを買ってから、こちらに差し出した。
…もしかして、柚鈴の分ということだろうか?
しかし、何がいいかなど一言も聞いてはこなかった。志奈さんから好みでも聞いているんだろうか。
柚鈴が受け取るのを迷っていると、岬さんは不思議そうに首を傾げた。
「はい。これでいいよね?どうぞ?」
「…はい。ありがとう、ございます」
「ううん。本当なら茶道部でお茶飲めてたはずだもんね。安くあげて申し訳ない」
それから自分の分に、同じコーヒーを買ってから。
柚鈴を促して、先に進んだ。
脚が長いからか、モデルのように泳ぐように歩く人で。
柚鈴は早歩きについていくことになる。
一応こちらがちゃんとついて来てるのは確認しているようだけど、マイペース感はアリアリだ。
そのまま特別棟の非常階段を上って。
図書室の裏に当たるのだろう。小さなスペースがある所で立ち止まった。
「ごめんね。もっと広いところでもいいんだけど、あんまり目立つのも何だし」
「いえ。私も目立たない方が助かります」
「そ?」
そりゃあ、そうだろう。
柚鈴は目立たないが、この人は大いに目立つように思える。
制服でもないし、なんか派手だし。
ゆっくり座って話せる空間は魅力的だけど、注目されていては居心地が悪い。
「それで…岬先輩は」
話を促そうとすると、すぐに相手から手で会話を制された。
「ああ、先輩はいらないよ。まあOGだけどさ、私は今ここに在籍してるわけでもなし。ああ、しので良いよ」
「…え」
「お姉さんの志奈には、そう呼ばれてるからね」
「志奈さんにですか?」
「うん。で?あなたは何てお名前ですか?小鳥遊さん」
飲み物の好みは知っているのに、名前は知らない。
どういう情報の聞き方をしているのだろうと思って、柚鈴は目を丸くする。
恐らく情報の出は志奈さんだろうと思うのだけど。
なんとなく、志奈さんの大学生活が垣間見える気がしつつ、柚鈴は答えた。
「…柚鈴です。小鳥遊柚鈴と言います。どうぞよろしくお願いします」
「柚鈴ちゃんね。よろしくね」
鷹揚な態度で受け答えをするしのさんは、とてもとても強引だ。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
強引だけど、距離は近すぎない。
そのなんとも言えない個性的なペースがなんだか好ましくて。
不思議なことに柚鈴は少しずつ、この人が好きになっているのを気付いた。
志奈さんの友達というのも納得する。
多分、人との間合いの取り方が絶妙に上手いのだ。
「…それで、しのさん。私に頼みごとって何ですか?」
「うん。ま、それもなんだけどさ。私の一つめの目的は、柚鈴ちゃんっていう志奈の義妹になった子がどんな子か知りたいってことだから、そっち先ね」
「え」」
「外見が知れたことでも、まずは満足だけどね。ちょっとお話したいな」
「…はぁ。外見、ですか」
地味ですよね、すみません。
そう言いかけて、流石に止める。
それを謝る筋合いはない、はず。
思わず心の中だけで思っていれば良いはずのことが口から洩れかけて、どうにか抑え込んだ。
…謝ってどうする。
一先ず、自分で突っこんでおいて。
まあ志奈さんの知り合いで、その友達であるこの人もこれだけ目立つ容姿なのだ。
多少は頭によぎってしまっても仕方ないだろう。
と、自分を慰めてた。
何を話そうか、ひとしきり悩んでいる様子の相手に。
先ほどのことで気になることがあったのでこちらから聞いてみることにした。
「茶道部の相原先輩とは、あまり仲良くないんですか?」
今は体育祭の準備グラウンドに人が集まっているため、人気のない体育部の部室棟の横を通り過ぎかけて。
立ち止まった岬さんは、備え付けの自動販売機まで戻って、ジュースを購入する。
迷いなくコーヒーのブラックを買ってから、こちらに差し出した。
…もしかして、柚鈴の分ということだろうか?
しかし、何がいいかなど一言も聞いてはこなかった。志奈さんから好みでも聞いているんだろうか。
柚鈴が受け取るのを迷っていると、岬さんは不思議そうに首を傾げた。
「はい。これでいいよね?どうぞ?」
「…はい。ありがとう、ございます」
「ううん。本当なら茶道部でお茶飲めてたはずだもんね。安くあげて申し訳ない」
それから自分の分に、同じコーヒーを買ってから。
柚鈴を促して、先に進んだ。
脚が長いからか、モデルのように泳ぐように歩く人で。
柚鈴は早歩きについていくことになる。
一応こちらがちゃんとついて来てるのは確認しているようだけど、マイペース感はアリアリだ。
そのまま特別棟の非常階段を上って。
図書室の裏に当たるのだろう。小さなスペースがある所で立ち止まった。
「ごめんね。もっと広いところでもいいんだけど、あんまり目立つのも何だし」
「いえ。私も目立たない方が助かります」
「そ?」
そりゃあ、そうだろう。
柚鈴は目立たないが、この人は大いに目立つように思える。
制服でもないし、なんか派手だし。
ゆっくり座って話せる空間は魅力的だけど、注目されていては居心地が悪い。
「それで…岬先輩は」
話を促そうとすると、すぐに相手から手で会話を制された。
「ああ、先輩はいらないよ。まあOGだけどさ、私は今ここに在籍してるわけでもなし。ああ、しので良いよ」
「…え」
「お姉さんの志奈には、そう呼ばれてるからね」
「志奈さんにですか?」
「うん。で?あなたは何てお名前ですか?小鳥遊さん」
飲み物の好みは知っているのに、名前は知らない。
どういう情報の聞き方をしているのだろうと思って、柚鈴は目を丸くする。
恐らく情報の出は志奈さんだろうと思うのだけど。
なんとなく、志奈さんの大学生活が垣間見える気がしつつ、柚鈴は答えた。
「…柚鈴です。小鳥遊柚鈴と言います。どうぞよろしくお願いします」
「柚鈴ちゃんね。よろしくね」
鷹揚な態度で受け答えをするしのさんは、とてもとても強引だ。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
強引だけど、距離は近すぎない。
そのなんとも言えない個性的なペースがなんだか好ましくて。
不思議なことに柚鈴は少しずつ、この人が好きになっているのを気付いた。
志奈さんの友達というのも納得する。
多分、人との間合いの取り方が絶妙に上手いのだ。
「…それで、しのさん。私に頼みごとって何ですか?」
「うん。ま、それもなんだけどさ。私の一つめの目的は、柚鈴ちゃんっていう志奈の義妹になった子がどんな子か知りたいってことだから、そっち先ね」
「え」」
「外見が知れたことでも、まずは満足だけどね。ちょっとお話したいな」
「…はぁ。外見、ですか」
地味ですよね、すみません。
そう言いかけて、流石に止める。
それを謝る筋合いはない、はず。
思わず心の中だけで思っていれば良いはずのことが口から洩れかけて、どうにか抑え込んだ。
…謝ってどうする。
一先ず、自分で突っこんでおいて。
まあ志奈さんの知り合いで、その友達であるこの人もこれだけ目立つ容姿なのだ。
多少は頭によぎってしまっても仕方ないだろう。
と、自分を慰めてた。
何を話そうか、ひとしきり悩んでいる様子の相手に。
先ほどのことで気になることがあったのでこちらから聞いてみることにした。
「茶道部の相原先輩とは、あまり仲良くないんですか?」
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる