拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、デートの時間です 14

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「志奈さん、反省しているように見えませんけど」
「ええ!?そう?」
「見えませんね」
冷たく言い放つ柚鈴の言葉に、志奈さんはそんなあ、と肩を落として見せた。

いつもこの人に振り回されるのはこちらの方である。
それが、今は振り回している。

これ、楽しくないわけがないよね。たまには良いよね?

そんな悪い気持ちを感じつつ、もう少しだけこの気分を味わおうと柚鈴は拗ねたように呟いた。

「今、悩む原因を生み出している志奈さんが、なんだかとても憎らしく思えます」
「そ、そんなことを言わないで?ほら、柚鈴ちゃん、私のサンドイッチがとても美味しいわよ。一口食べてみる?」
「まだ一口もサンドイッチ食べていないくせに何をいっているんですか。それにどうせ、代わりに一口私のロコモコを寄越せとでもいうんでしょう」
「…まあ、それは言いたい所だけど」
志奈さん、正直すぎる。
あきれる程、素直に欲望を告白した相手に。
意地悪を言うのはそろそろやめておこうかと、柚鈴はやれやれ、と息を吐いた。

長谷川凛子先輩に教えてもらった借り物競争について思い出しつつ、昨年の『体育祭の功労者』たる志奈さんに競技について聞いておくことにする。
今後柚鈴を悩ませることになる競技なのだから、情報は多い方がいいと思う。

「借り物競争でお題になって上級生と一緒にゴールすると、ほぼペア確定らしいですね」
柚鈴がそう切り出すと、志奈さんはおっとりした様子で、頷いた。

「そうなのよね。別にそのことを強制したわけでもないんだけど」
「今まで問題は起きなかったんですか?強引な上級生から逃げれない誰かとか」
「ええ、なかったわ」
「本当ですか?」
疑り深く柚鈴が尋ねると。
志奈さんは迷いなくにっこり笑って答えた。

「本当よ。なんの競技でもそうだけど、借り物競争も1年生からのスタートになるのよ」
「1年生から、ですか」
「ええ。だから既にお目当てだったり、気になる先輩がいる1年生は先に競技に参加して、ゴールしてしまうの。それだけでも、心配させるトラブルは減ったのではないかしら」
「なるほど…」
つまり。他の気になる先輩がいるような一年生が、この競技のせいでなんの意思表示もせずに、他の先輩とペアになる可能性が減らせたということだろう。
自分のメンティにしたかった1年生が目の前で他の人の所に走っていってしまった上級生もいたかもしれないし、それでどうしたのかは考えるのが恐ろしい気もするけれど。
上級生の方がやっぱり優位である高校生活を考えれば、ちょっとは1年生が守られているのは、現在1年生の立場である柚鈴からするとちょっとありがたい気がした。

「それでも、ちょっと強引な競技な気がしますね」
「そうねえ。1,2回くらいなら勢いで体育祭も盛り上がるかしら?くらいの考えで試験的にやってみたのだもの。今後定着しなかったら良いと思うわ」
「そ、それ。絶対、志奈さんが言って良いことではない気がします」
「そう?じゃあ、二人だけ秘密ね」
「えぇえ…」
悪びれずに志奈さんは笑ってから、でも、と付け足した。
「今まで、柚鈴ちゃんみたいに、既に断られている子をメンティにしたくて、この競技を利用するパターンは今まではなかったと思うわ。なるほど、そういう使い方も出来るわね。長谷川凛子は良く気付いたわね」
「感心しないでくださいよ」
「その競技を今年もやると決めてから、問題点を彼女なりに考えていたのかしらと思って。ちゃんと生徒会長やってるなあって思ったのよ」

志奈さんは少し嬉しそうに微笑んだ。
そういえば、凛子先輩は志奈さんと一緒に生徒会活動をしてきたんだったと思い出す。
きっと優秀で真面目な後輩だったはずだ。
志奈さんなりに可愛がっていたのかもしれない、と柚鈴は思った。

ただ、志奈さんなり、というのが、どうも想像できないのだけど。
この人が程よく人を可愛がれるのか、疑問すぎる。
どの後輩に対しても、すぎる程に可愛がっていた可能性はないだろうか?

…それに関しては、確認するのが怖い気がするので止めた。
この人物の妹になってしまったことを後悔しても、柚鈴には退路はない。
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