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第三章 5月‐結
お姉さま、デートの時間です 12
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ああ、なんだかこういう同じことをすることさえ、デートと意識してしまうとなんだか照れくさくて困る。
義姉に習い、いただきます、と言葉にする義妹の図。
客観的であろうとしつつ、自分自身で墓穴を掘る様に、そんな題目まで付けてしまって。
柚鈴は、私はバカなんじゃないだろうかと、心の中で盛大に突っこんでいた。
意識を逸らそうと食事を開始する。
サラダボウルを手に取って、一口目を口に運んだ。ドレッシングと新鮮な野菜の味と歯ごたえの良さが、それだけで幸せな気持ちにさせてくれる。
「美味しいわね」
「そうですね」
志奈さんの同意を求める言葉には、少しばかりそっけなくなってしまったが、これは仕方ないということにしてもらう。
だって、その顔が実に嬉しそうで楽しそうで。
ああ、姉妹の時間をしています!と顔に書いてあるような気配なのだから。
この態度意外にどうしろと言うのか、と逆に誰かに問いたい。
無になった気分でそのまま黙々と食べ続けていると、その様子をじぃっと見つめていた志奈さんが、そう言えば、と話を再開した。
「それで茶道部の誘いを受けたことで、柚鈴ちゃんにしつこく言い寄る先輩の件は回避できそうなの?」
「い、言い方が随分ですね」
さらり、と言われた言葉に、柚鈴は。少し喉を詰まらせたような気分になってしまった。
卒業してしまったとは言え、『全校生徒のお姉さま』にそんな言い方をさせていいものなのだろうか。
だが志奈さんはキョトンとした表情で首をかしげた。
「あら、なにか事実と違ったかしら?」
「…まあ、的確かもしれませんが」
なんだか多少は東郷先輩に悪いような気もしつつ、柚鈴は遠慮がちに認めた。
「回避、は難しそうかと思ってます」
「あら」
目を丸くして何かを言い出しかけた志奈さんに気付いて、慌てて言葉を繋げる。
「ああ!でも、今は凛子先輩に相談して協力をお願いしている所なんです」
「あら、そうなの」
言いかけた言葉は飲み込んでくれたようで、柚鈴は少しほっとした。
志奈さんにお願いするのも手なのかもしれないけれど、その後に要求されることを想像すると避けたい。
それはささやかなことかもしれないけれど、柚鈴には耐えれそうにないように思える。
最低でも「お願い、お姉ちゃん」と言わされるわけだ。
人によっては簡単にこなしてしまうのだろうけど、柚鈴はそういうタイプではない。
恥ずかしい、ものすっごく恥ずかしくて、とても無理だ。
そしてそのことを志奈さんも分かっていて要求してくる気がする。
頼れるけれど、頼りたくない『姉』
柚鈴はなんとも言えない複雑な気持ちで肩を竦めた。
「体育祭までには区切りをつけないと問題が大きくなりそうですね」
「そうなの?体育祭になにかあるの?」
何気なく口にした言葉に、不思議そうに質問される。
ん?何言ってるの?
柚鈴は、その言葉に引っかかって顔を上げた。
借り物競争は、体育祭目玉の恒例競技のはずだ。
常葉学園の卒業生が知らないわけがないではないか。
だが、目の前の志奈さんは、本当に分かっていない様子でこちらを見つめている。
その態度の理由の方が、意味が分からないのだが…
「だって志奈さん。体育祭では目玉競技の借り物競争があるんでしょう?助言者制度のペア作りを推進するようなものだそうじゃないですか」
「…うん?」
目を瞬かせて志奈さんは首を傾げる。
「知らないんですか?」
「ええと、ううん。そういう競技は知っているわ。あれよね?借り物競争のお題が『ペアになりたい人』ていう…」
「知っているんじゃないですか。もう、そんな競技があるなら、この間のゴールデンウィークに教えてくれてても良かったと思います」
曖昧な答えに、柚鈴は少々じれったい気持ちになってしまい、口を尖らせて不満を漏らした。
「…ふむ」
曖昧な頷きをしてから志奈さんは、食事をする手を止めて考え込んだ。
義姉に習い、いただきます、と言葉にする義妹の図。
客観的であろうとしつつ、自分自身で墓穴を掘る様に、そんな題目まで付けてしまって。
柚鈴は、私はバカなんじゃないだろうかと、心の中で盛大に突っこんでいた。
意識を逸らそうと食事を開始する。
サラダボウルを手に取って、一口目を口に運んだ。ドレッシングと新鮮な野菜の味と歯ごたえの良さが、それだけで幸せな気持ちにさせてくれる。
「美味しいわね」
「そうですね」
志奈さんの同意を求める言葉には、少しばかりそっけなくなってしまったが、これは仕方ないということにしてもらう。
だって、その顔が実に嬉しそうで楽しそうで。
ああ、姉妹の時間をしています!と顔に書いてあるような気配なのだから。
この態度意外にどうしろと言うのか、と逆に誰かに問いたい。
無になった気分でそのまま黙々と食べ続けていると、その様子をじぃっと見つめていた志奈さんが、そう言えば、と話を再開した。
「それで茶道部の誘いを受けたことで、柚鈴ちゃんにしつこく言い寄る先輩の件は回避できそうなの?」
「い、言い方が随分ですね」
さらり、と言われた言葉に、柚鈴は。少し喉を詰まらせたような気分になってしまった。
卒業してしまったとは言え、『全校生徒のお姉さま』にそんな言い方をさせていいものなのだろうか。
だが志奈さんはキョトンとした表情で首をかしげた。
「あら、なにか事実と違ったかしら?」
「…まあ、的確かもしれませんが」
なんだか多少は東郷先輩に悪いような気もしつつ、柚鈴は遠慮がちに認めた。
「回避、は難しそうかと思ってます」
「あら」
目を丸くして何かを言い出しかけた志奈さんに気付いて、慌てて言葉を繋げる。
「ああ!でも、今は凛子先輩に相談して協力をお願いしている所なんです」
「あら、そうなの」
言いかけた言葉は飲み込んでくれたようで、柚鈴は少しほっとした。
志奈さんにお願いするのも手なのかもしれないけれど、その後に要求されることを想像すると避けたい。
それはささやかなことかもしれないけれど、柚鈴には耐えれそうにないように思える。
最低でも「お願い、お姉ちゃん」と言わされるわけだ。
人によっては簡単にこなしてしまうのだろうけど、柚鈴はそういうタイプではない。
恥ずかしい、ものすっごく恥ずかしくて、とても無理だ。
そしてそのことを志奈さんも分かっていて要求してくる気がする。
頼れるけれど、頼りたくない『姉』
柚鈴はなんとも言えない複雑な気持ちで肩を竦めた。
「体育祭までには区切りをつけないと問題が大きくなりそうですね」
「そうなの?体育祭になにかあるの?」
何気なく口にした言葉に、不思議そうに質問される。
ん?何言ってるの?
柚鈴は、その言葉に引っかかって顔を上げた。
借り物競争は、体育祭目玉の恒例競技のはずだ。
常葉学園の卒業生が知らないわけがないではないか。
だが、目の前の志奈さんは、本当に分かっていない様子でこちらを見つめている。
その態度の理由の方が、意味が分からないのだが…
「だって志奈さん。体育祭では目玉競技の借り物競争があるんでしょう?助言者制度のペア作りを推進するようなものだそうじゃないですか」
「…うん?」
目を瞬かせて志奈さんは首を傾げる。
「知らないんですか?」
「ええと、ううん。そういう競技は知っているわ。あれよね?借り物競争のお題が『ペアになりたい人』ていう…」
「知っているんじゃないですか。もう、そんな競技があるなら、この間のゴールデンウィークに教えてくれてても良かったと思います」
曖昧な答えに、柚鈴は少々じれったい気持ちになってしまい、口を尖らせて不満を漏らした。
「…ふむ」
曖昧な頷きをしてから志奈さんは、食事をする手を止めて考え込んだ。
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