拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 9

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「知っているわ」

お風呂の時間が終わってから、戻ってきていた凛子先輩の部屋を訪ねた柚鈴はそのまま中に入れてもらった。そして相談しようとしたところで言われた言葉に、ドキリとした。
ええ!?まさか志奈さんとの関係を!?

そう思って動揺したところで言葉を足される。
「東組の2年生に随分熱を上げられてるんでしょう?遥が教えてくれたもの」
「あ、その話ですか」
「え?何の話だと思ったの?」

思わず拍子抜けした柚鈴の様子に不思議そうな顔を見せた凛子先輩に気付いて、慌てて首を振った。
「な、なんでもないです。ちょっと色々ありすぎて」
「そう?」
様子を伺う凛子先輩相手に、とびきり笑顔を見せて誤魔化した。

「そうなんです。凛子先輩もご存じのとおり、東組の上級生のお誘いを、どうにかお断りできないかと思って相談しに来たんです」
「前向きに検討してみる、という気は全くないの?確かに強引ではあるようだけど、意外と助言者メンターとしてはしっくりくる、なんてこともあるわよ?」
念のため、と言った様子で凛子先輩は、柚鈴の反応を見た。

「あなたに声を掛けたのは2年東組の東郷千沙は知っているかもしれないけれど特待生。その彼女の助言者メンターである3年生も中々優秀な生徒よ。成績向上のためには力になってくれると思うけど」
「…」
「無理に押し付けるつもりはないけれど、メリットに対して前向きに一度は検討したのかだけは確認させてちょうだい」

凛子先輩は柚鈴の決意を確認するように、厳しめな言葉を投げかけた。
適当な気持ちなら、柚鈴を嗜める気持ちもあるということだろう。
公平な立場を貫くという姿勢が見えて、柚鈴はしっかりと返答するために姿勢を正した。

「正直、前向きに検討はしてないです」

まずそのことを正直に認めた。
それから少し迷って、口を開く。
今、言いたいと思えることを言葉にしようと思った。
それは場合によっては『嘘』なのかもしれないけれど、全部を話すということはやっぱりしないことにした。
凛子先輩に、薫や幸に話したように全部を話すというのは、今は躊躇いを感じている。
理由は上手く言えないけれど、それも良いんじゃない?と薫なら言ってくれそうな気がして。

だから今、言えることだけ。
そう思ったから、言葉は自然に出てきた。

「私、最近両親の再婚で新しい家族が出来まして。それもあって、寮生活をすることにしたんです。新しい環境にすぐ馴染める自信もなくて。今は少しずつ、新しい家族に馴染んできてて、結構前向きに関係を作っているところなんです。それが精一杯なので助言者メンターなんて新しい関係まで背負う自信もないんです」
「…そう」
凛子先輩は神妙な面持ちで頷いた。

それから少し考えたようにもう一度頷いた。
「そうね。確かにそういった事情を受け止めることの出来る助言できる上級生なんてそうそういないでしょうね。分かったような顔でアドバイスされても困るでしょう」
「そうですね」

その通りだったので柚鈴は頷いた。
凛子先輩も、もう一度頷いてから、軽くため息をついた。

「あなたが強引に言い寄られてる原因の一端が、私の昔のペア問題にもあるんでしょう?ごめんなさい、随分迷惑を掛けてるわね」
「あ、いえ。それは別に」
確かにそれも東郷先輩の強引なお誘いの理由の一つではあるのだろうが、本人に頭を下げられては柚鈴もどうしたらいいか分からない。
志奈さんの言う通り、当時一番大変だったのはおそらく凛子先輩自身。
そしてこうして時が達ち、その問題がまた浮上してしまって一番大変なのも、現在生徒会長である凛子先輩なのではないかと思う。
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