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第三章 5月‐結
お姉さまの細やかな企み 6
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「…なんで、なるほど、なんですか?」
『だってそういう話の流れだったでしょう?』
またしても大したことがないといわんばかりの、余裕を感じさせる答えに、柚鈴は言葉を失った。
この会話の中で、そこまで理解されてしまっては今後の言葉選びは慎重にしなくてはならないじゃないか。
本当に恐ろしい人だ。
志奈さんは、なるほどなるほど、と相槌を打っている。
自分がとびぬけたことを言ったなどとは、露とも思っていない様子だ。
『理解してもらえないのなら、早めに理解されることは諦めた方がいいと思うけれど』
「どういうことですか?」
『つい『理解されることが最善の解決方法』だと思ってしまうでしょう?でも最善って意外と正攻法だけではないのよ』
「はあ…」
志奈さんが言わんとすることを、なるべく良心的に理解しようとする。
正攻法ではない、つまり『断る』以外の選択肢。
間を持たせて、様々な可能性を考えて。
柚鈴に思いつく答えは、大して選択肢がない。
…生徒会の手伝いをすればいい、とかいうことだろうか?
今回の東郷先輩に限って、中々それでは納得してくれない気がしつつ、柚鈴は憂鬱な気持ちになった。
『ふふ。柚鈴ちゃん、きっと大丈夫よ。とりあえず勉強を頑張って、しっかり成績を落とさないように努力して?柚鈴ちゃんが努力してしっかり学園生活を楽しんでいたら、きっと色んなことが上手くいくわ』
「そんなに上手くいくでしょうか?」
『どうしても駄目だったら、諦めて私におねだりに来てもいいのよ?』
「…お姉さま、助けて下さい、とでも言いに来いと?」
『……』
なんとなく口にすると、志奈さんは沈黙の後、うっとりとした声を返した。
『いいわねぇ』
だ、ダメだ、この人。
柚鈴は多少頭痛を覚えてしまう。
聡く、人の上に立つことに長けているというのに。
こんなにも姉妹としての関わりを一途に求めているというのが、なんだか妙に嬉しく思えない。
もう少し、もう少し距離感があったら、逆に柚鈴からすると良いようにすら思えてしまうのだけれど、それは贅沢な発想なのだろうか。
そんな苦悩を柚鈴が抱えていると。
『あ、柚鈴ちゃん、お母さん戻ってきたわよ』
「あ、はい」
『電話、代わるわね?』
「あ、志奈さん」
あっさりと電話を代わろうとする志奈を、柚鈴は思わず止めた。
『なあに?』
「あの。私、相談しなくても良いように頑張ります、ので…」
『あら』
クスクスと耳障りの良い笑い声が響いた。
『そうね。柚鈴ちゃんが頑張るなら、私は応援するしかないわ』
あっさりと言われて、少し安心する。
「ありがとうございます」
『ううん。私も色々頑張っているから応援してくれる?』
「…え?あ、はい。頑張ってください…?」
『ありがとう、柚鈴ちゃん。私、精一杯頑張るわ』
意味も分からないまま、励まして。志奈さんの華やかで嬉しそうな声が響いた。
その意味を問う前に、ようやく帰ってきたお母さんと電話を代わってしまう。
え?色々頑張ってるって何?
何を頑張っているの?
なんだかその言葉が引っかかってしまう。
メッセージを読んだお母さんに感謝の気持ちを伝えてもらったものの、妙に気になって仕方ない。
電話を切った後も、しばらく柚鈴は志奈さんの毒気に当てられてしまったようで、その言葉が頭から離れなかった。
でもそのおかげか、東郷先輩のことは少しも思い出すことはなかった。
志奈さんが柚鈴のことを、その言動で振り回すのはいつものことだ。
だから、いつも通り。
振り切るくらいの気持ちで、勉強は滞ることはなかったのは良かったのかもしれない。
『だってそういう話の流れだったでしょう?』
またしても大したことがないといわんばかりの、余裕を感じさせる答えに、柚鈴は言葉を失った。
この会話の中で、そこまで理解されてしまっては今後の言葉選びは慎重にしなくてはならないじゃないか。
本当に恐ろしい人だ。
志奈さんは、なるほどなるほど、と相槌を打っている。
自分がとびぬけたことを言ったなどとは、露とも思っていない様子だ。
『理解してもらえないのなら、早めに理解されることは諦めた方がいいと思うけれど』
「どういうことですか?」
『つい『理解されることが最善の解決方法』だと思ってしまうでしょう?でも最善って意外と正攻法だけではないのよ』
「はあ…」
志奈さんが言わんとすることを、なるべく良心的に理解しようとする。
正攻法ではない、つまり『断る』以外の選択肢。
間を持たせて、様々な可能性を考えて。
柚鈴に思いつく答えは、大して選択肢がない。
…生徒会の手伝いをすればいい、とかいうことだろうか?
今回の東郷先輩に限って、中々それでは納得してくれない気がしつつ、柚鈴は憂鬱な気持ちになった。
『ふふ。柚鈴ちゃん、きっと大丈夫よ。とりあえず勉強を頑張って、しっかり成績を落とさないように努力して?柚鈴ちゃんが努力してしっかり学園生活を楽しんでいたら、きっと色んなことが上手くいくわ』
「そんなに上手くいくでしょうか?」
『どうしても駄目だったら、諦めて私におねだりに来てもいいのよ?』
「…お姉さま、助けて下さい、とでも言いに来いと?」
『……』
なんとなく口にすると、志奈さんは沈黙の後、うっとりとした声を返した。
『いいわねぇ』
だ、ダメだ、この人。
柚鈴は多少頭痛を覚えてしまう。
聡く、人の上に立つことに長けているというのに。
こんなにも姉妹としての関わりを一途に求めているというのが、なんだか妙に嬉しく思えない。
もう少し、もう少し距離感があったら、逆に柚鈴からすると良いようにすら思えてしまうのだけれど、それは贅沢な発想なのだろうか。
そんな苦悩を柚鈴が抱えていると。
『あ、柚鈴ちゃん、お母さん戻ってきたわよ』
「あ、はい」
『電話、代わるわね?』
「あ、志奈さん」
あっさりと電話を代わろうとする志奈を、柚鈴は思わず止めた。
『なあに?』
「あの。私、相談しなくても良いように頑張ります、ので…」
『あら』
クスクスと耳障りの良い笑い声が響いた。
『そうね。柚鈴ちゃんが頑張るなら、私は応援するしかないわ』
あっさりと言われて、少し安心する。
「ありがとうございます」
『ううん。私も色々頑張っているから応援してくれる?』
「…え?あ、はい。頑張ってください…?」
『ありがとう、柚鈴ちゃん。私、精一杯頑張るわ』
意味も分からないまま、励まして。志奈さんの華やかで嬉しそうな声が響いた。
その意味を問う前に、ようやく帰ってきたお母さんと電話を代わってしまう。
え?色々頑張ってるって何?
何を頑張っているの?
なんだかその言葉が引っかかってしまう。
メッセージを読んだお母さんに感謝の気持ちを伝えてもらったものの、妙に気になって仕方ない。
電話を切った後も、しばらく柚鈴は志奈さんの毒気に当てられてしまったようで、その言葉が頭から離れなかった。
でもそのおかげか、東郷先輩のことは少しも思い出すことはなかった。
志奈さんが柚鈴のことを、その言動で振り回すのはいつものことだ。
だから、いつも通り。
振り切るくらいの気持ちで、勉強は滞ることはなかったのは良かったのかもしれない。
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