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第三章 5月‐結
お姉さまの細やかな企み 3
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真美子が言葉遊びに付き合う様子でないので諦めたらしい。
大きく頷いて、よし、と掛け声を上げる。
「決めた」
「何を?」
「柚鈴ちゃんが『助言者』を作らないというなら、私はその助けをする」
「…」
「真美子、怒る?」
すかさず、ご機嫌を伺うような志奈の視線に、思わず絶句していた真美子は唸るような想いで冷たい目線を返した。
散々意見が違うことを堂々と言っておきながら、最後にあなたの意見が気になるという様子を見せるのは、志奈の真美子に対する常套手段だ。
手段と言えば聞こえが悪いが、残念ながら本人に悪気などないし、実際真美子の意見も気になるのだろう。
しかしこれをされると、いつも最後には真美子は志奈のペースに持ち込まれてしまう。
こういう風に意見が一度食い違ったとき、真美子が感情ではなく理性で答えを出すということを、志奈は感覚的に知っていて持ち掛けるのだ。
小さく吐息をついて、無駄な足掻きかもしれないが、真美子は現状を考え直した。
小鳥遊志奈が自分の義理の妹が望むように『助言者』を作らないと言う行動をする。
一見、それは高等部生徒会の趣旨に反しているように思えるが、助言者がペアを作るべきという基本的な方向性はあっても、嫌がる後輩に助言者を押し付けるという制度はない。
むしろそれは、真美子自身も気に入らない考え方だ。
双方の納得は必須。
上級生が立場を利用して、下級生に『諾』の返事しか出させない状況を作り出すのは大いに反対で、その事実があるならば周りが仲裁に入るのは、逆に良心的でもある。
そう思ってしまえば、あとは大学部の生徒が高等部に関わるのが良しか悪しかなのだが、常葉学園高等部はそもそもOBの干渉を大きく受けている。
ならば、何か問題があるかといえばそうでもない。
真美子自身は、高等部に関わらないことが後輩育成につながると信じているが、それは一つの方針で、それが絶対に正しいかとどうかなど、受け取り方によってしまう。
ならば、志奈を怒るというのは妥当ではない、というのが答えだった。
人を喰ったような態度で話を持ち掛ける、志奈の態度には思うことがないわけではないが、そのマイペースぶりも、本当に残念な話、嫌いではない。
そもそも真美子がそれを嫌いなら、志奈はこんな風に話を持ち掛けたりしない。
真美子だから、こういう言い方をすると知ってしまっている。知っていれば存外、悪い気分にはならないものだ。
となると。
結局答えは一つ。
「…生徒会の活動を邪魔しないこと。私が望むのはそれだけよ」
「そうね。そこは助けるつもりもあまりないから、気をつけるわ」
「あなたって全く…」
呆れた声を出すと、志奈は笑って真美子の側に寄れるように椅子を寄せてから、ぴったり体をくっつけた。
温かな友人の温度を感じて、真美子は微妙な顔で目を細めた。
「一先ずはそんな悪いことはしないわよ」
「どうかしら?」
怪しむ真美子に、志奈はクスクスと笑った。
そして計画を真美子に話し出した。
話終われば、その意外な内容に、真美子は目を瞬かせた。
「真美子も一緒にどう?」
「…まあ、そういう話なら別に一緒してもいいけど」
「本当?」
実に嬉しそうな志奈の笑顔に、真美子は目を逸らす。
「…あなたはもっと具体的な案を考えているのかと思ったわ」
「しないわよ、真美子が怒るでしょう?」
にっこりと笑った様子に、真美子はどうも揶揄われてるように感じる。
自分がどんな表情になってしまっているのか気になり、誤魔化すように話を逸らすことにした。
「…あなたの大切な妹さんが気になるって、紫乃舞さんが言ってたわ」
「そうなの?」
「結局いつも、あなたの思う通りに物事は運ぶのよね」
そう真美子が言えば、志奈はとても嬉しそうに極上の笑みを浮かべた。
この顔に逆らえる人間などいるのかと、思わずにいられない。
心配など無駄なのだ、と改めて真美子は苦々しく思う。
「紫乃がねぇ」
友人の一人の名前を口に出して、何を思っているのかどこか楽しそうな志奈には本当に飽きれるしかない。
紫乃舞は、真美子にとっては実に面倒なタイプだ。
その人物が張り切っている事態など好ましい話ではなかっら。
どうなるのかしら。
ぴったりくっついたままの志奈とは逆方向にソッポを向いて、真美子はため息をついた。
大きく頷いて、よし、と掛け声を上げる。
「決めた」
「何を?」
「柚鈴ちゃんが『助言者』を作らないというなら、私はその助けをする」
「…」
「真美子、怒る?」
すかさず、ご機嫌を伺うような志奈の視線に、思わず絶句していた真美子は唸るような想いで冷たい目線を返した。
散々意見が違うことを堂々と言っておきながら、最後にあなたの意見が気になるという様子を見せるのは、志奈の真美子に対する常套手段だ。
手段と言えば聞こえが悪いが、残念ながら本人に悪気などないし、実際真美子の意見も気になるのだろう。
しかしこれをされると、いつも最後には真美子は志奈のペースに持ち込まれてしまう。
こういう風に意見が一度食い違ったとき、真美子が感情ではなく理性で答えを出すということを、志奈は感覚的に知っていて持ち掛けるのだ。
小さく吐息をついて、無駄な足掻きかもしれないが、真美子は現状を考え直した。
小鳥遊志奈が自分の義理の妹が望むように『助言者』を作らないと言う行動をする。
一見、それは高等部生徒会の趣旨に反しているように思えるが、助言者がペアを作るべきという基本的な方向性はあっても、嫌がる後輩に助言者を押し付けるという制度はない。
むしろそれは、真美子自身も気に入らない考え方だ。
双方の納得は必須。
上級生が立場を利用して、下級生に『諾』の返事しか出させない状況を作り出すのは大いに反対で、その事実があるならば周りが仲裁に入るのは、逆に良心的でもある。
そう思ってしまえば、あとは大学部の生徒が高等部に関わるのが良しか悪しかなのだが、常葉学園高等部はそもそもOBの干渉を大きく受けている。
ならば、何か問題があるかといえばそうでもない。
真美子自身は、高等部に関わらないことが後輩育成につながると信じているが、それは一つの方針で、それが絶対に正しいかとどうかなど、受け取り方によってしまう。
ならば、志奈を怒るというのは妥当ではない、というのが答えだった。
人を喰ったような態度で話を持ち掛ける、志奈の態度には思うことがないわけではないが、そのマイペースぶりも、本当に残念な話、嫌いではない。
そもそも真美子がそれを嫌いなら、志奈はこんな風に話を持ち掛けたりしない。
真美子だから、こういう言い方をすると知ってしまっている。知っていれば存外、悪い気分にはならないものだ。
となると。
結局答えは一つ。
「…生徒会の活動を邪魔しないこと。私が望むのはそれだけよ」
「そうね。そこは助けるつもりもあまりないから、気をつけるわ」
「あなたって全く…」
呆れた声を出すと、志奈は笑って真美子の側に寄れるように椅子を寄せてから、ぴったり体をくっつけた。
温かな友人の温度を感じて、真美子は微妙な顔で目を細めた。
「一先ずはそんな悪いことはしないわよ」
「どうかしら?」
怪しむ真美子に、志奈はクスクスと笑った。
そして計画を真美子に話し出した。
話終われば、その意外な内容に、真美子は目を瞬かせた。
「真美子も一緒にどう?」
「…まあ、そういう話なら別に一緒してもいいけど」
「本当?」
実に嬉しそうな志奈の笑顔に、真美子は目を逸らす。
「…あなたはもっと具体的な案を考えているのかと思ったわ」
「しないわよ、真美子が怒るでしょう?」
にっこりと笑った様子に、真美子はどうも揶揄われてるように感じる。
自分がどんな表情になってしまっているのか気になり、誤魔化すように話を逸らすことにした。
「…あなたの大切な妹さんが気になるって、紫乃舞さんが言ってたわ」
「そうなの?」
「結局いつも、あなたの思う通りに物事は運ぶのよね」
そう真美子が言えば、志奈はとても嬉しそうに極上の笑みを浮かべた。
この顔に逆らえる人間などいるのかと、思わずにいられない。
心配など無駄なのだ、と改めて真美子は苦々しく思う。
「紫乃がねぇ」
友人の一人の名前を口に出して、何を思っているのかどこか楽しそうな志奈には本当に飽きれるしかない。
紫乃舞は、真美子にとっては実に面倒なタイプだ。
その人物が張り切っている事態など好ましい話ではなかっら。
どうなるのかしら。
ぴったりくっついたままの志奈とは逆方向にソッポを向いて、真美子はため息をついた。
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