拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、ペア作りが本格起動です ★9★

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「確かに市原寮長は、組違いの南組の特待生である小牧さんをペアにされていますから、そう思われるのかもしれませんけど。ですが東組の特待生である現生徒会長も、以前はその組み合わせで苦労されたのは有名な話じゃありませんか」
「あら、貴女。その話を知っているの」
柚鈴には何の話なのか分からなかったが、遥先輩は思い当たる節があるらしい。ツインテールを揺らして、小さく笑った。
「知ってます。だからこそ、東組の生徒には東組の助言者メンターがつくべきと思っています」
「凛子は、結局東組の助言者メンターを持たなかったけど、返り咲いたあげくに主席にまでのし上がったわよ」
「だとしても、組違いのペアが失敗だという実例には違いありません」
「そういった側面も確かにあるでしょう」

やれやれと、遥先輩は小さくため息をついて、腰に手を当てて胸を張った。
「組み合わせ次第で問題が起こることは否定はしないけれど。今私が良くないと感じているのは、貴女の余裕がなさすぎる点よ」
「な...」
「ペア候補云々も別に否定はしないけど、そもそも中間考査前の寮への訪問時間は切り上がっているの。すぐ話が済むというから、取り次いだけれど、貴女の行為がこの時間の柚鈴さんの勉強の邪魔です」
可愛い顔からは想像もできないほど辛辣に、しかし威厳を持って言い切った遥先輩に柚鈴は思わず感動してしまう。
だが勿論、東郷先輩は収まるつもりはなさそうだ。
感情的に顔を赤らめたように見えた。

助言者メンター制度のために動いているんですから、そんな風に言われる筋合いはありません」

その東郷先輩の様子に、何を思ったのか遥先輩は考え込むようにしてから、ゆっくりと息を吐いた。
それから穏やかな表情で告げる。
「貴女が例に挙げた凛子の件は、少なくとも私には一年生の方に選ばせなかった上級生や先生方のあり方の問題だと思っているわ」
それからチラリと柚鈴の方を見てから、深刻そうな表情を作ってみせた。

「この子だって、東組でない上級生との組み合わせが難しいことも分かっているはずよ。だから、ペア作りに前向きじゃないなんて言い方をしてるんでしょう」
「わ、分かっているなら...」
「それでも中間考査後にある茶会を楽しみにして、勉強に粉骨砕身努力しているのが分からないの!?今、無理矢理貴女とペア候補になって、ガタガタとやる気が削がれたら、貴女責任とれるの?」
「......そ、それは」

え?えーと。
え?

柚鈴は何故か急に話の流れが変わってしまったのを感ていた。
確かに柚鈴は気になる先輩がいると言いはした。したが、何故か『分不相応な相手を望んで、諦めつつも悩んでいる』というまるで身分差の恋愛に悩む物語の登場人物のように仕立て上げられていないだろうか?
自分のことの筈なのに、思っていた斜め上をいく話の展開に、凍りついてしまう。

え、私。
茶会を楽しみに勉強に粉骨砕身努力、してるの?
話の部品は確かに合っているのだけど、つなげ方はどう考えても間違っていないだろうか?いや、間違ってしかいない気がする。
しかし、それを今言いだしても今はこじれる話しかない。
混乱していてもそれぐらいは分かるので、釈然とはしないが口出さずに見守っていると、遥先輩は穏やかに猫撫で声を出して東郷先輩に囁いた。

「ね?貴女も思うことはあるでしょうけど、一先ず中間考査が東組の生徒は最優先のはずよ」
「それは、確かに…」
「なら、今日は約束は諦めなさい。助言者となる資格を持った2年生なら、その程度の余裕は持てるでしょう?特に貴女は東組の特待生なんですから」
「...それは、勿論です」

どういう流れなのか、東郷先輩は頷いた。
本当にどうして納得しているのか分からないが、もしかしたら東郷先輩も分かっていないのかもしれない。
どこか狐につままれたような顔をしている。
遥先輩はうんうんと満足げに頷いているから、勢い勝ちのようなものだろうか。

「では、中間考査後。改めて参ります」
少し疲れたような顔をした東郷先輩は柚鈴を見つめた。
少々申し訳ない気持ちを抱きつつ、かける言葉もない。

「中間考査前にごめんなさい。しっかり勉強に励んでちょうだい」
「は、はい」
「それではまたね」
そういって東郷先輩は寮を後にして帰っていった。
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