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第三章 5月‐結
お姉さま、ペア作りが本格起動です ★10★
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果たして東郷先輩は、中間考査大丈夫だろうか?
柚鈴は去って行った背中に不安を覚えつつ、一緒に見送っていた遥先輩に目線を移した。
「あ、あの。ありがとうございます」
「とりあえず中間考査後まではどうにかなりそうね。でもあの様子じゃあ、終わったらまたすぐ来そうだわ」
困ったわね、と肩を竦める様子に柚鈴は確かに、と頷いてから、しばし沈黙。
遥先輩は東郷先輩の気配がなくなるのを最後まで見届けるようにしてから、ゆっくり振り返った。
「流石、東組の特待生ね。例年のことながらこの時期は色々起こるわ」
「そうなんですね」
相槌を打ってから、先ほどまでの遥先輩の言葉はどこまで本気なのか、真意が分からずに探るように見ていると、視線に気づいたのか不思議そうに首を傾げた。
「なあに?」
「あ、いえ。その。私、そんなに中間考査考査の勉強を頑張っているように見えましたか?」
「さぁ?いつも通りなんじゃない」
柚鈴が拍子抜けしてしまう程、なんとも気のない返事を返してくれる。
「適当に言っただけだもの。一先ず帰って貰おうと思って」
「そ、そうなんですか」
おいおいと思わないわけではなかったが、柚鈴も嘘でいいからどうにか断ろうと思っていただけに他人事でどうこうは言えない。
むしろ帰してくれてありがとうございます、と言わないといけない立場だ。
遥先輩は何か気になることがあるのか、考え込むように目線を泳がせてから、柚鈴を見た。
「ねぇ」
「はい?」
「1年生にも凛子の噂ってあるの?」
「あ、さっきの東郷先輩の話ですか?私は聞いたことないですけど」
「そう。2年生だけか」
苦笑した遥先輩の表情に、東郷先輩の言葉を思い出した。
『東組の特待生である生徒会長も、その組み合わせで苦労した』
その言葉は確かに印象的である。
生徒会役員及び手伝いの生徒は、ペア作りに参加をしなくても良いとされているが、確か凛子先輩は1年生の時は生徒会手伝いではなかったという話だった。
昔、何かあったんだろうか?
聞いていいのか躊躇いもあったが、ここで聞かないのもわざとらしいので、素直に口にすることにする。
「あの、何があったんですか?」
「ん?大した話じゃないわ」
遥先輩は今更隠すつもりもないらしく、可愛らしく頬杖をついてから口を開いた。
「凛子は1年生の時、北組の先輩に助言者のペアがいたの。代々続く家系を持った2年生だったわ。その先輩はピアノのコンクールで入賞したとかで助言者の資格を得たんだけど、凛子の容姿に一目惚れしたらしくてね。それはもう猛アタックで、先生方も巻き込んでペアになったのよ」
「はあ」
「ところがペアになって、凛子にするアドバイスが感性を磨け、ということでクラシックを聞かせたり、映画に連れていったり。勉強をする時間をことごとく奪ってしまったの。凛子は焦っていたんだけど西組と東組の授業の進行は全く違うから、相手の方は気付かなかったみたい。お陰で凛子の成績はガタ落ち。一時は特待生の維持も危ぶまれたのよ」
「そ、それでどうしたんですか?」
「異例のペアの解消」
「解消?」
「当時生徒会メンバーだった、小鳥遊志奈様が間に立って動いて下さって、理事の承認の上でペア解消を取り付けて下さったの」
志奈さんが?と言い掛けて、慌てて口を閉じた。
まだ、志奈さんと義理の姉妹であることは遥先輩には言ってない。
遥先輩は志奈さんを盲信している節があるしいつか話した方が良い気もするのだが、中々チャンスがなかった。
今もそのタイミングではない気がして、心の中だけでごめんなさい、と頭を下げた。
柚鈴は去って行った背中に不安を覚えつつ、一緒に見送っていた遥先輩に目線を移した。
「あ、あの。ありがとうございます」
「とりあえず中間考査後まではどうにかなりそうね。でもあの様子じゃあ、終わったらまたすぐ来そうだわ」
困ったわね、と肩を竦める様子に柚鈴は確かに、と頷いてから、しばし沈黙。
遥先輩は東郷先輩の気配がなくなるのを最後まで見届けるようにしてから、ゆっくり振り返った。
「流石、東組の特待生ね。例年のことながらこの時期は色々起こるわ」
「そうなんですね」
相槌を打ってから、先ほどまでの遥先輩の言葉はどこまで本気なのか、真意が分からずに探るように見ていると、視線に気づいたのか不思議そうに首を傾げた。
「なあに?」
「あ、いえ。その。私、そんなに中間考査考査の勉強を頑張っているように見えましたか?」
「さぁ?いつも通りなんじゃない」
柚鈴が拍子抜けしてしまう程、なんとも気のない返事を返してくれる。
「適当に言っただけだもの。一先ず帰って貰おうと思って」
「そ、そうなんですか」
おいおいと思わないわけではなかったが、柚鈴も嘘でいいからどうにか断ろうと思っていただけに他人事でどうこうは言えない。
むしろ帰してくれてありがとうございます、と言わないといけない立場だ。
遥先輩は何か気になることがあるのか、考え込むように目線を泳がせてから、柚鈴を見た。
「ねぇ」
「はい?」
「1年生にも凛子の噂ってあるの?」
「あ、さっきの東郷先輩の話ですか?私は聞いたことないですけど」
「そう。2年生だけか」
苦笑した遥先輩の表情に、東郷先輩の言葉を思い出した。
『東組の特待生である生徒会長も、その組み合わせで苦労した』
その言葉は確かに印象的である。
生徒会役員及び手伝いの生徒は、ペア作りに参加をしなくても良いとされているが、確か凛子先輩は1年生の時は生徒会手伝いではなかったという話だった。
昔、何かあったんだろうか?
聞いていいのか躊躇いもあったが、ここで聞かないのもわざとらしいので、素直に口にすることにする。
「あの、何があったんですか?」
「ん?大した話じゃないわ」
遥先輩は今更隠すつもりもないらしく、可愛らしく頬杖をついてから口を開いた。
「凛子は1年生の時、北組の先輩に助言者のペアがいたの。代々続く家系を持った2年生だったわ。その先輩はピアノのコンクールで入賞したとかで助言者の資格を得たんだけど、凛子の容姿に一目惚れしたらしくてね。それはもう猛アタックで、先生方も巻き込んでペアになったのよ」
「はあ」
「ところがペアになって、凛子にするアドバイスが感性を磨け、ということでクラシックを聞かせたり、映画に連れていったり。勉強をする時間をことごとく奪ってしまったの。凛子は焦っていたんだけど西組と東組の授業の進行は全く違うから、相手の方は気付かなかったみたい。お陰で凛子の成績はガタ落ち。一時は特待生の維持も危ぶまれたのよ」
「そ、それでどうしたんですか?」
「異例のペアの解消」
「解消?」
「当時生徒会メンバーだった、小鳥遊志奈様が間に立って動いて下さって、理事の承認の上でペア解消を取り付けて下さったの」
志奈さんが?と言い掛けて、慌てて口を閉じた。
まだ、志奈さんと義理の姉妹であることは遥先輩には言ってない。
遥先輩は志奈さんを盲信している節があるしいつか話した方が良い気もするのだが、中々チャンスがなかった。
今もそのタイミングではない気がして、心の中だけでごめんなさい、と頭を下げた。
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