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第二章 5月‐序
一歩、進んで ★9★
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「入らないよ。部活だって入る気ないのに」
「そうなの?」
「そう。生徒会に入れば、常葉学園の助言者制度に振り回されて特定の先輩から指導されることがないからって、志奈さんが希望してたみたいだけど。そもそも私はそんな声を掛けてくる先輩なんていなかったもの。志奈さんの取り越し苦労」
結局入学して一か月たったが、志奈さんが心配しているように特進科の東組だからと声を掛けられるようなことはなかった。
柚鈴が人気がないのかと思ったりもしたが、同じクラスを見渡しても、どの生徒にもそんな気配はないんだから、拍子抜けと言うかなんというか。
志奈さん自身が東組の生徒ではなく、普通科の西組にいたようだから、なにか勘違いをしているのかではないかと思っていたところだった。
部活に入っているわけでもなければ、そうそう上級生と会う機会なんてないのだ。
例え家系をつなげたい上級生が実際に存在していても知り合うことがなければ、声も掛けられないし、ならわざわざ生徒会に保護なんてされる必要もない。
このまま、助言者制度とは無縁で2年生になるんではないかと思っていた。
「何を言ってるの?」
志奈さんは赤い顔のまま、ポテトサラダを一口食べながら水を差すようにいった。
「何って、助言者制度のことですよ。言われてるような声掛けはなかったっていう話です」
「それはそうよ。ようやく5月になったところだもの」
「え?」
疑問の声を返した柚鈴に、志奈さんはいつもよりは余裕がない早口で言いながら、顔をパタパタと手で仰いだ。
「4月のうちは、1年生は入学したばかりだし、部活や中等部のころの関係でペアになる人たちもいるから混乱しないように、そんなに助言者制度のペア作りには力を入れてないのよ」
「力を入れてないって。学園がってことですか?」
「学園というか、生徒会が」
志奈さんはそういって、水の入ったグラスに手を伸ばしかけて止めた。
ご飯を一口食べてから、落ち着くようにため息をついた。
「助言者制度のペア作りは基本的に生徒が主体でやることだって考え方だから、生徒会の重要課題の一つなのよ。それもあって、『生徒会は公平であるように』という意味合いも込めて、ペアを持たなくてもいいっていう考え方になっているの」
それは初耳だった。
家系やペアを持っていたら、公平に援助が出来ない、ということだろうか?
その辺りはイマイチ良く分からなかったが、柚鈴が聞き返す前に志奈さんは次の言葉に移る。
「中等部から進学してきた多数の生徒は、助言者制度についてはよく知っていて高等部に入学するから特に問題なくペア作りに参加してくれるんだけど、東組を中心とした外部入学が多数存在する『特待生の子たち』は、2年生になって助言者のバッチを4月に貰っても、中々ペアを作ろうとしないのが常葉学園の課題だったの。だからゴールデンウィークが終わったら、そういう生徒が一人でも多くペアを作れるように生徒会の活動が始まるのよ」
「生徒会の活動って。そんなに強制的にペア作りをしなきゃいけないんですか?」
「助言者制度の始まりとも言える姉妹制度がそもそもOBの方々に受けが良い制度なのよ。行儀作法を先輩が後輩に教えるなんて考え方で続けるのは、常葉学園では無理も多かったけど。特に最近は、高校生くらいの子たちを親が見守るに無理が多いもの。だから完全に無くすことには反対意見も多かったみたいよ」
そういってしまう志奈さんも昨年までは高校生だったわけだが、随分大人びた言い方をする。
まあ、生徒会会長だったというわけだし、その辺りは経験が物を言うのかもしれない。
「どんなことをするんですか?」
「う~ん…基本的には、知り合わないからペアにならないんじゃないかなと思って、知り合う機会を作るようにしたかな。今年どうするのかは、今の生徒会メンバー次第だけど」
そういってから、はっとしたように志奈さんは柚鈴を見た。
「そうなの?」
「そう。生徒会に入れば、常葉学園の助言者制度に振り回されて特定の先輩から指導されることがないからって、志奈さんが希望してたみたいだけど。そもそも私はそんな声を掛けてくる先輩なんていなかったもの。志奈さんの取り越し苦労」
結局入学して一か月たったが、志奈さんが心配しているように特進科の東組だからと声を掛けられるようなことはなかった。
柚鈴が人気がないのかと思ったりもしたが、同じクラスを見渡しても、どの生徒にもそんな気配はないんだから、拍子抜けと言うかなんというか。
志奈さん自身が東組の生徒ではなく、普通科の西組にいたようだから、なにか勘違いをしているのかではないかと思っていたところだった。
部活に入っているわけでもなければ、そうそう上級生と会う機会なんてないのだ。
例え家系をつなげたい上級生が実際に存在していても知り合うことがなければ、声も掛けられないし、ならわざわざ生徒会に保護なんてされる必要もない。
このまま、助言者制度とは無縁で2年生になるんではないかと思っていた。
「何を言ってるの?」
志奈さんは赤い顔のまま、ポテトサラダを一口食べながら水を差すようにいった。
「何って、助言者制度のことですよ。言われてるような声掛けはなかったっていう話です」
「それはそうよ。ようやく5月になったところだもの」
「え?」
疑問の声を返した柚鈴に、志奈さんはいつもよりは余裕がない早口で言いながら、顔をパタパタと手で仰いだ。
「4月のうちは、1年生は入学したばかりだし、部活や中等部のころの関係でペアになる人たちもいるから混乱しないように、そんなに助言者制度のペア作りには力を入れてないのよ」
「力を入れてないって。学園がってことですか?」
「学園というか、生徒会が」
志奈さんはそういって、水の入ったグラスに手を伸ばしかけて止めた。
ご飯を一口食べてから、落ち着くようにため息をついた。
「助言者制度のペア作りは基本的に生徒が主体でやることだって考え方だから、生徒会の重要課題の一つなのよ。それもあって、『生徒会は公平であるように』という意味合いも込めて、ペアを持たなくてもいいっていう考え方になっているの」
それは初耳だった。
家系やペアを持っていたら、公平に援助が出来ない、ということだろうか?
その辺りはイマイチ良く分からなかったが、柚鈴が聞き返す前に志奈さんは次の言葉に移る。
「中等部から進学してきた多数の生徒は、助言者制度についてはよく知っていて高等部に入学するから特に問題なくペア作りに参加してくれるんだけど、東組を中心とした外部入学が多数存在する『特待生の子たち』は、2年生になって助言者のバッチを4月に貰っても、中々ペアを作ろうとしないのが常葉学園の課題だったの。だからゴールデンウィークが終わったら、そういう生徒が一人でも多くペアを作れるように生徒会の活動が始まるのよ」
「生徒会の活動って。そんなに強制的にペア作りをしなきゃいけないんですか?」
「助言者制度の始まりとも言える姉妹制度がそもそもOBの方々に受けが良い制度なのよ。行儀作法を先輩が後輩に教えるなんて考え方で続けるのは、常葉学園では無理も多かったけど。特に最近は、高校生くらいの子たちを親が見守るに無理が多いもの。だから完全に無くすことには反対意見も多かったみたいよ」
そういってしまう志奈さんも昨年までは高校生だったわけだが、随分大人びた言い方をする。
まあ、生徒会会長だったというわけだし、その辺りは経験が物を言うのかもしれない。
「どんなことをするんですか?」
「う~ん…基本的には、知り合わないからペアにならないんじゃないかなと思って、知り合う機会を作るようにしたかな。今年どうするのかは、今の生徒会メンバー次第だけど」
そういってから、はっとしたように志奈さんは柚鈴を見た。
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