拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

一歩、進んで ★3★

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早朝、目が覚めて天井を見れば、一瞬どこか分からなくなる。
ずっとお母さんと二人で住んでいたマンションでもなければ、清葉寮でもない。
しばらく天井を見つめてから思考を巡らせ、ここが小鳥遊家の天井だと気付く。

柚鈴にとっては広すぎる一人部屋。
寝返りを打ってから、フカフカのベッドの中で思考がクリアになっていく。

一人だな、と思って寂しくなる。

もっと部屋が狭ければ、逆に安心するのだが、広すぎる部屋は孤独な気持ちにさせる。
お母さんと二人暮らしの時は、同じ部屋で寝起きが一緒だった。それが当たり前すぎて、人の気配の薄い広い部屋が酷く冷たく感じる。
寮の狭い部屋であれば、逆に隣の物音も偶にするくらいで、逆に安心させてくれた。
そういうのがない。

志奈さんは、どうだったんだろう。
この広い部屋で、広い家で中学生までオトウサンと二人。
想像もつかない。
広い部屋が寂しいなんて感じるの、私だけなんだろうか。

目を閉じて、もう一度眠りにつけるか待ってみる。
眠れるだろうか。

今日はお母さんの朝ごはんが食べれる予定だ。
炊き立てのご飯とお味噌汁は絶対にあるだろう。
あとはお惣菜が一、二品だろうか。
シンプルな朝ごはんは、作った人の味になる気がする。
炊いただけのお米にしろ、もちろんお味噌汁もそうだし、例えば卵焼きとか、煮つけとか。

オトウサンのお蕎麦も美味しかったし、志奈さんの親子丼だって美味しかった。
でも、まだ。いや、これからも。
お母さんのご飯が一番好きで、美味しく感じるんだろうと思う。

そんなことを考えていると、なんだかお腹が空いてくる。
時計を確認して、うん。やっぱり起きるには早い。
だから、もう少し眠らなきゃいけない。
柚鈴は寝返りを打った。

昨日は、志奈さんと母の日の造花を作る材料と、オトウサンの果実酒を作る材料を買いに出かけて、どちらも用意をした。
オトウサンの果実酒を作る用意は、思ったより簡単で、これは他になにかしてあげたほうがいいような気がしている。
希望通り、オトウサンの洋服を見立てても良いのかもしれない。
男性の服なんて、よく分からない気もするけど。
でも喜んで貰えるなら、頑張ってみるのも悪くないはずだ。

お母さんのために作るカーネーションは、ついつい数を増やしてしまい、結局リボンにして飾るための紙にメッセージを書き込むのは夜遅くになってしまった。
先に書き終わった志奈さんのメッセージは、すでに飾られている。柚鈴が書き終わった後、その紙をたたんで、リボンのように飾る時に目についた。
志奈さんは赤い紙。私は桃色の紙に。
籠に飾られた、いまはまだ内緒のお母さんへの手紙。

志奈さん、何を書いたんだろう。
ベットから見える、机の上に置かれた花籠が少し気になる。

お母さんへの感謝を、こうして誰かと文字にするということ。
特別な時間をシェアすること。
きっとこういうことも、家族が増えるということなんだろうと思った。

それは決して嫌なことではない。
じゃあ、何かが嫌なのかと言うと。

やっぱり、この部屋で一人朝を迎えていること、だろうか。
矛盾しているようなことだけど、そんな色々を感じているのは事実で。
広い部屋が嬉しい!なんて感じる私より、無駄な空間だなあと感じてしまってる拗ねた私がいる。

よしよし、仕方ない。
今は全部、自分の中に閉まっておくので、許してあげることにした。
私が、私を許してあげないと。

例えば、一人が寂しいと言って、志奈さんの部屋に行けば喜んで迎えてくれるかもしれないけれど。
それは、なんか嫌だなと思って、笑ってしまう。
今は私は、こういう寂しさに一人で戦いたいし、いつか戦わなくてもいいように、強くなりたい。頑張りたい。

強くなるためには。

まずは良く寝て、美味しいご飯を食べて、それからお母さんのために、今までで一番美味しいカレーを作ること。
きっとそうなんだろうと思った。

温かいベットの中で寝返りをもう一度打つと。
柚鈴は目を瞑って、誘われるままに眠りについた。
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