拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
101 / 282
第二章 5月‐序

姉妹っぽいこと ★8★

しおりを挟む
「それでは本題よ」

倉庫から出て瓶を一度庭に出して、外の水道で洗ってから天日干しをすると、改めたように志奈さんは仕切り直した。
「私たちは、母の日の課題をクリアしなくちゃいけないのよね」
「勿論です」
色々、脇道に逸れてしまった気もしないでもないが、母の日どうするかというのは、変わらず大本命と言えるので、柚鈴は頷いた。
志奈さんも頼もしく頷いて見せる。

「そんな柚鈴ちゃんに、昨日私が徹夜で調べておいた成果を元にしたアイデアがあります」
志奈さんは自信満々に言い出した。
少しだけ、調べたと言っていたが、やっぱりみっちり調べたのだろうか。
矛盾を感じつつ、口にはしない。
それよりも、内容が気になる。斜め上のものだったらどうしようと言う、不安も感じる。
だが、志奈さんの提案は思いのほか庶民的なものだった。

「二人で、手作りカーネーションを作りましょう」
「て、手作りですか」
思わずほっとするが、そのことに志奈さんは気づいていない。
ちょっと申し訳ない気もしたが、あんなに豪華な食器を見せられた後では、一体どんな提案をしてくるのかと、不安になっても仕方がない。
柚鈴が多少、嬉しそうな顔をしているのをどう思ったのか、志奈さんはにっこりと笑った。

「それでね。一つ仕掛けをしようと思って」
「仕掛けですか?」
志奈さんは頷いてから、辺りを気にしたように見回す。
「どうしたんですか?」
「お父様に聞かれたら、ちょっと悔しいかと思って」
「いや、悔しくはないでしょう」
意味が分からずに柚鈴が否定すると、志奈さんは首を振った。
「いいえ、絶対悔しいわ。そしてこれは姉妹の秘密にしておかなければならないことなのよ」
「……」

もしかして『姉妹の秘密』が欲しいだけなんじゃあ。
一瞬よぎる考え。
しかし、母の日について考えるのは、志奈さんへのお礼だったことを思い出した。
つまり、ここは志奈さんに付き合うのが筋だろう。

「そ、ソウデスネ。そうしましょうか」
全く心がこもっていなかったが柚鈴が同意すると、志奈さんは更にやる気になったように、オトウサンがどこにいるのかを気にしつつ、家の中に入っていった。
一先ず柚鈴もそれに従って付いていく。

「柚鈴ちゃんはとりあえず二階のベランダに行ってて」
そう指示を受けて、階段を上がることにした。
志奈さんは、そのまま台所へと行ってしまう。
途中まで普通に階段を上っていて、もしかしたらここはオトウサンにばれないように、スパイのように静かに上ったほうがより良いのかと、意味もなく音を立てないように登ってみたりする。
一応、感謝の気持ちを込めて、一歩ずつ。

こんなことで、お礼になっているのかな…?
多少疑問は湧くが。気にしたら、なんというか自分に負けそうな気がしたので。
気にすることを止めた。

そうしてベランダに出ると、そこには志奈さんお気に入りのゆりかご椅子が、風のせいか、ぶらぶらと揺れていた。
迷ってからベランダの一角にあるテーブルと椅子の方に進む。
ゆりかご椅子には興味があるのだが、迂闊に使用すると、志奈さんが喜んで一緒に座ろうとする未来が見える。椅子が無難でいい気がする。
椅子に座ると、風が心地よく入ってきて気持ちよかった。
志奈さんは少ししてから、アイスティを二つ持って入ってきた。

「お父様は大丈夫だったわ。お昼ごはんの為に張り切って蕎麦を打っていたから」
「は?」
「蕎麦を打ってたの」
繰り返して言われてしまう。

蕎麦を打つ。
柚鈴は体験したことがないが、大変な作業に思える。
「オトウサンはそういう趣味があるんですか?」
「いいえ。今日の為に習いに行ったんですって」
「え、オトウサンってすごく忙しいんですよね?」
「ええ、すごく忙しいわ」
「……」
あっさりと肯定されて、柚鈴は沈黙を返すしかない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...