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第二章 5月‐序
オトウサンとのお出かけ ★8★
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「志奈は、特別なペアが欲しかった。でも学園で探すためには、その子に惹かれているかどうかよりも自分というパーツに合っているかどうかで志奈は選ぶと思うんだ。『周りが自分に合ってると思う誰か』だからそれはとても難しいんじゃないかなと思うんだよ」
自分と似ていると感じる志奈さんだけに、思うことがあるのかもしれない。
そう思いつつ、少し釈然としない気持ちにもなった。
「あ、あの」
「ん?」
「なんというか私も違うんじゃないでしょうか?私はオトウサンが結婚したから、志奈さんの妹になっただけなんですから。そもそも志奈さんは選んでもないですよね」
「あー、うん。そうなんだけどね」
「はい」
「柚鈴ちゃんの前で志奈は、特別で良い子のお嬢さんじゃないみたいだから、大丈夫なんだろうと思ってるんだ」
「……」
その言葉には柚鈴は深い沈黙を返してしまった。
確かに志奈さんは、柚鈴にとって外見上は綺麗な人だけど、特別良い子とは言い難い。
全校生徒のお姉さまと呼ばれるわけが、容姿だけなら話は別だが、多分それなりの行動をしていた気配がある。
その辺りは柚鈴自身もなんとなく感じる所ではあった。
そういえば以前同じようなことを志奈さんに聞いて『柚鈴でいい』とあっさり言われていたが、改めてオトウサンから言われると、納得を通り越してどこかほろ苦さを感じるような気持ちになる。
「志奈さんは確かに私にとっては、べったりなお姉さんです」
「だよね。だから大丈夫なんだよ」
ニコニコっと笑うオトウサン。
だから大丈夫って。
オトウサン、べったりされる側はなんとも分不相応に思ってますが、それは良いのでしょうか?
淡く思うが、それは大丈夫だよ、なんてこの笑顔で言われても困るので聞かないことにした。
些か腑に落ちないが、柚鈴にもお母さんにも好意的で、おそらく理想的な新しい家族であるオトウサンに言い返す言葉が浮かばず、柚鈴は過ぎていく綺麗な景色をもう一度目に焼き付けた。
高台からみた景色がある程度見えなくなる頃に、一つ疑問に思うことが出来て聞いてみる。
「どうして、急にドライブに行こうと思ったんですか?」
「あぁ。だって柚鈴ちゃん、家で2人だとすぐ勉強してしまいそうで。ドライブだったら、少しは話も出来るかなって思ったんだ」
「そうなんですか」
柚鈴が勉強することで話す機会を奪ったということだろうか。
そうも思うが、こんな話、家でされても困っただろうなと思うので反省はしないことにする。
オトウサンは柚鈴の表情を見て、申し訳なさそうに付け足した。
「だからって、こんな話をするつもりはなかったんだけどね」
「そうですよね」
その話は信じられなかったが、口先で同意すると、オトウサンは焦ったように眉を下げた。
「ごめんね。これに懲りずにたまには一緒にドライブしてくれると嬉しいな」
「ドライブですか」
「そうそう。春まで他人だった中年男性とでは申し訳ないけど。2人で話すような時間もあったら嬉しいなと思っているんだよ。他愛もない話をだよ、本当だよ」
志奈さんの言葉を持ち出して自分を下げた言い方をするオトウサンに、柚鈴は小さく笑った。
「オトウサンは、中年男性である前に、まあ一応家族ですし」
「うん」
柚鈴の小さな反抗のような嫌味には全く動じていないオトウサンに、やっぱり反省の色は感じられなかったけれど、まぁいいかと思うこともにした。
「本当に他愛もない話をするお約束の上なら、よろしくお願いします」
そう言うと、オトウサンは嬉しそうに笑った。
その笑顔が嫌じゃないと感じながら、柚鈴は外の景色を見るために外を見た。
自分と似ていると感じる志奈さんだけに、思うことがあるのかもしれない。
そう思いつつ、少し釈然としない気持ちにもなった。
「あ、あの」
「ん?」
「なんというか私も違うんじゃないでしょうか?私はオトウサンが結婚したから、志奈さんの妹になっただけなんですから。そもそも志奈さんは選んでもないですよね」
「あー、うん。そうなんだけどね」
「はい」
「柚鈴ちゃんの前で志奈は、特別で良い子のお嬢さんじゃないみたいだから、大丈夫なんだろうと思ってるんだ」
「……」
その言葉には柚鈴は深い沈黙を返してしまった。
確かに志奈さんは、柚鈴にとって外見上は綺麗な人だけど、特別良い子とは言い難い。
全校生徒のお姉さまと呼ばれるわけが、容姿だけなら話は別だが、多分それなりの行動をしていた気配がある。
その辺りは柚鈴自身もなんとなく感じる所ではあった。
そういえば以前同じようなことを志奈さんに聞いて『柚鈴でいい』とあっさり言われていたが、改めてオトウサンから言われると、納得を通り越してどこかほろ苦さを感じるような気持ちになる。
「志奈さんは確かに私にとっては、べったりなお姉さんです」
「だよね。だから大丈夫なんだよ」
ニコニコっと笑うオトウサン。
だから大丈夫って。
オトウサン、べったりされる側はなんとも分不相応に思ってますが、それは良いのでしょうか?
淡く思うが、それは大丈夫だよ、なんてこの笑顔で言われても困るので聞かないことにした。
些か腑に落ちないが、柚鈴にもお母さんにも好意的で、おそらく理想的な新しい家族であるオトウサンに言い返す言葉が浮かばず、柚鈴は過ぎていく綺麗な景色をもう一度目に焼き付けた。
高台からみた景色がある程度見えなくなる頃に、一つ疑問に思うことが出来て聞いてみる。
「どうして、急にドライブに行こうと思ったんですか?」
「あぁ。だって柚鈴ちゃん、家で2人だとすぐ勉強してしまいそうで。ドライブだったら、少しは話も出来るかなって思ったんだ」
「そうなんですか」
柚鈴が勉強することで話す機会を奪ったということだろうか。
そうも思うが、こんな話、家でされても困っただろうなと思うので反省はしないことにする。
オトウサンは柚鈴の表情を見て、申し訳なさそうに付け足した。
「だからって、こんな話をするつもりはなかったんだけどね」
「そうですよね」
その話は信じられなかったが、口先で同意すると、オトウサンは焦ったように眉を下げた。
「ごめんね。これに懲りずにたまには一緒にドライブしてくれると嬉しいな」
「ドライブですか」
「そうそう。春まで他人だった中年男性とでは申し訳ないけど。2人で話すような時間もあったら嬉しいなと思っているんだよ。他愛もない話をだよ、本当だよ」
志奈さんの言葉を持ち出して自分を下げた言い方をするオトウサンに、柚鈴は小さく笑った。
「オトウサンは、中年男性である前に、まあ一応家族ですし」
「うん」
柚鈴の小さな反抗のような嫌味には全く動じていないオトウサンに、やっぱり反省の色は感じられなかったけれど、まぁいいかと思うこともにした。
「本当に他愛もない話をするお約束の上なら、よろしくお願いします」
そう言うと、オトウサンは嬉しそうに笑った。
その笑顔が嫌じゃないと感じながら、柚鈴は外の景色を見るために外を見た。
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雨月黛狼
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