91 / 282
第二章 5月‐序
オトウサンとのお出かけ ★7★
しおりを挟む
「百合さんとこの人なんかいいなと思ったのは、本当に百合さんが『お母さん』だったからなんだよね」
「え?」
「僕が結婚する人は、志奈のお母さんになれる人だから。結婚しようと思ったのは、百合さんが何よりもまずは『柚鈴ちゃんのお母さん』でいる女性だったからだよ」
「お母さんであることが、好きになった理由なんですか?」
「うん。百合さんはいつでも、女性である前に社会人で、その前に母親だった」
オトウサンは目を細めて、小さく笑った。どこか冷たく。
「やっぱりほとんどの女性はね、例え母であっても恋をしたときは、母親であるよりもまずは女性としてありたいと思うみたいで。僕が志奈の母になる再婚相手として紹介されたのは、そういう人ばかりだった。まあ結婚する以上、好き同士がした方が良いわけだし、女性が女性としてまず愛されたいというのは、正解なんだけど。僕にとってはそれは限りなく不正解だったんだみたいで、全然結婚したいと思わなかった」
その冷めた表情に、オトウサンの本音が詰まっているみたいで、柚鈴は言葉が見つからない。
だけど、そんな柚鈴の表情に気づくと、オトウサンは目を瞬かせてから、にっこり笑った。
それはいつもどおりで、釣られて柚鈴も小さく笑みを浮かべた。
改めて言葉を探して。
オトウサンはお母さんと結婚したわけだから、お母さんの何が『正解』だったんだろうと不思議に感じて口を開いた。
「お母さんとは仕事で会ったんですよね」
「そうだね」
「結婚相手としてじゃなくて会ったのが良かったということですか?」
オトウサンは、柚鈴の聞きたいことが分かったように頷いた。
「うん。確かにそれが良かったのかもしれないね。ちょっとしたきっかけで仲良く話すようになったけど、別に女性を捨てたように仕事をしてるわけでもなく、母親として娘のことを一番に考えているのが伝わってきて、ああ、こんな人もいるんだなって思ったのが最初のきっかけだったよ」
「……」
「こういう人と結婚するなら結婚したいなって、思ってね。それで興味を持って女性として見てみたら好きになった」
「そ、そうですか。あ、あのもういいです」
相槌を打ってから、これ以上の言葉が出ないようにしっかり止めた。
幸せそうに笑うオトウサンの姿は、惚気ているとしか言えない。
これ以上はもう聞かなくても良い気がして。というか、娘としては聞きたくない気もして、何かまだ言いたそうなオトウサンの表情に念押しのように首を振った。
本当は同時にどこかほっとしたような気持ちにもなっていた。
お母さんがこの人は好きで、私がいても好きなんだということが、どこかで柚鈴が持っていた不安を解消してくれたから。
「そういえばこの近くに美味しい洋菓子やさんがあるんだ。志奈にお土産でも買ってかえろうか」
続きを拒否されたオトウサンはパッと話を変え立ち上がって、車に戻るように歩き出した。
その様子に油断してついていき、助手席のドアを開けてくれたオトウサンに完全に油断して、乗り込むと覗き込むようににっこり笑われる。
「僕は柚鈴ちゃんには感謝してるよ」
「は?」
「うん。百合さんと結婚したいと思ったのは、柚鈴ちゃんが今まで守ってくれたから素敵なお母さんだったとも思うから」
油断していたところに、そんなことを言われて固まってしまう。
不意打ちだ。
不意打ちで、オトウサンは言いたいことを言い出した。
ズルイ。
「今は娘として好きというよりも、そう言った感謝の方が強いかな。まあ、その辺は少しずつ親子になろうね」
「……」
正直すぎる言葉だと思った。
柚鈴だって急に家族として愛おしいと言われても嘘だろうと思う。
だからオトウサンの言葉は嫌じゃなかった。
ただ、聞かされてズルイと思っただけ。
その感情の意味を聞かれても、今は言えそうになかった。
「あの、もうその話はお腹いっぱいです」
「そう?」
「はい。なんか良いお話で、なるほどとか良かったなという気持ちですけど。聞いていてどうも居た堪れないくらいお腹いっぱいな気持ちです。もう、別の話に。あ、志奈さんの話に戻りましょう」
そうだったね、とオトウサンは笑った。
ちょっと柚鈴の反応に楽しそうにしてる様にも見えたが、これは気のせいと思うことにする。
それこそタチが悪い。
オトウサンは助手席のドアを閉めてから、運転席に乗り込んでシートベルトを閉めると、エンジンを掛け、駐車場から道路へと進みながら、再度口を開いた。
「え?」
「僕が結婚する人は、志奈のお母さんになれる人だから。結婚しようと思ったのは、百合さんが何よりもまずは『柚鈴ちゃんのお母さん』でいる女性だったからだよ」
「お母さんであることが、好きになった理由なんですか?」
「うん。百合さんはいつでも、女性である前に社会人で、その前に母親だった」
オトウサンは目を細めて、小さく笑った。どこか冷たく。
「やっぱりほとんどの女性はね、例え母であっても恋をしたときは、母親であるよりもまずは女性としてありたいと思うみたいで。僕が志奈の母になる再婚相手として紹介されたのは、そういう人ばかりだった。まあ結婚する以上、好き同士がした方が良いわけだし、女性が女性としてまず愛されたいというのは、正解なんだけど。僕にとってはそれは限りなく不正解だったんだみたいで、全然結婚したいと思わなかった」
その冷めた表情に、オトウサンの本音が詰まっているみたいで、柚鈴は言葉が見つからない。
だけど、そんな柚鈴の表情に気づくと、オトウサンは目を瞬かせてから、にっこり笑った。
それはいつもどおりで、釣られて柚鈴も小さく笑みを浮かべた。
改めて言葉を探して。
オトウサンはお母さんと結婚したわけだから、お母さんの何が『正解』だったんだろうと不思議に感じて口を開いた。
「お母さんとは仕事で会ったんですよね」
「そうだね」
「結婚相手としてじゃなくて会ったのが良かったということですか?」
オトウサンは、柚鈴の聞きたいことが分かったように頷いた。
「うん。確かにそれが良かったのかもしれないね。ちょっとしたきっかけで仲良く話すようになったけど、別に女性を捨てたように仕事をしてるわけでもなく、母親として娘のことを一番に考えているのが伝わってきて、ああ、こんな人もいるんだなって思ったのが最初のきっかけだったよ」
「……」
「こういう人と結婚するなら結婚したいなって、思ってね。それで興味を持って女性として見てみたら好きになった」
「そ、そうですか。あ、あのもういいです」
相槌を打ってから、これ以上の言葉が出ないようにしっかり止めた。
幸せそうに笑うオトウサンの姿は、惚気ているとしか言えない。
これ以上はもう聞かなくても良い気がして。というか、娘としては聞きたくない気もして、何かまだ言いたそうなオトウサンの表情に念押しのように首を振った。
本当は同時にどこかほっとしたような気持ちにもなっていた。
お母さんがこの人は好きで、私がいても好きなんだということが、どこかで柚鈴が持っていた不安を解消してくれたから。
「そういえばこの近くに美味しい洋菓子やさんがあるんだ。志奈にお土産でも買ってかえろうか」
続きを拒否されたオトウサンはパッと話を変え立ち上がって、車に戻るように歩き出した。
その様子に油断してついていき、助手席のドアを開けてくれたオトウサンに完全に油断して、乗り込むと覗き込むようににっこり笑われる。
「僕は柚鈴ちゃんには感謝してるよ」
「は?」
「うん。百合さんと結婚したいと思ったのは、柚鈴ちゃんが今まで守ってくれたから素敵なお母さんだったとも思うから」
油断していたところに、そんなことを言われて固まってしまう。
不意打ちだ。
不意打ちで、オトウサンは言いたいことを言い出した。
ズルイ。
「今は娘として好きというよりも、そう言った感謝の方が強いかな。まあ、その辺は少しずつ親子になろうね」
「……」
正直すぎる言葉だと思った。
柚鈴だって急に家族として愛おしいと言われても嘘だろうと思う。
だからオトウサンの言葉は嫌じゃなかった。
ただ、聞かされてズルイと思っただけ。
その感情の意味を聞かれても、今は言えそうになかった。
「あの、もうその話はお腹いっぱいです」
「そう?」
「はい。なんか良いお話で、なるほどとか良かったなという気持ちですけど。聞いていてどうも居た堪れないくらいお腹いっぱいな気持ちです。もう、別の話に。あ、志奈さんの話に戻りましょう」
そうだったね、とオトウサンは笑った。
ちょっと柚鈴の反応に楽しそうにしてる様にも見えたが、これは気のせいと思うことにする。
それこそタチが悪い。
オトウサンは助手席のドアを閉めてから、運転席に乗り込んでシートベルトを閉めると、エンジンを掛け、駐車場から道路へと進みながら、再度口を開いた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる