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第二章 5月‐序
GWに待っているもの ★5★ 幸の場合
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「それで幸さんは、この連休に学校に来て、お出かけは他にはしないんですか?それとも部活動でもあるとか?」
「いえ、私は文芸部なので。今日はこの後、近くに住んでいる親戚のおうちに行くんです」
「ああ、それはいいですね」
「はい。今の前の理事の時に、この学校に通っていた親戚なんです。だから学園がどんな風に変わったとか、一緒に話せたらなあって思っているんです」
沢城先輩の言葉にするすると言葉が出てきて、幸は香苗さんのことを思い出して、にっこり笑ってしまった。
そう、今日は沢山お話をして、沢山お手伝いだってするのだ。
想像するだけで幸せな気分になる。
沢城先輩はその様子に目を細めて笑った。
「楽しそうですね。何か面白そうな話が聞けたら、是非教えて頂きたいです。幸さんのお家は親戚のお家は遠いんですか?」
「私は元々長野なんで、遠いです。沢城先輩はどうですか?」
「私は近いですよ。家はレストランをやっていて、この連休中も両親は忙しいですが」
「レストラン!?」
幸はピクッとその言葉に反応したようにした。
「はい。洋食を出しているレストランです。興味ありますか?」
洋食と言われては、ますます聞き逃せない。
思わず身を乗り出してしまう。
「あります!私オムライスが好きなんです。長野にいた頃に一時期、毎日のようにオムライスを食べていたことがあって、従姉に笑われたりしましたけど。それくらい大好きです」
幸の勢いに、沢城先輩は少し驚いたように体をひいた。
表情は変わらず笑顔で相槌を打っている。
「オムライスですか。美味しいですよね」
「はい。従姉があんまり笑うので、毎日オムライスにケチャップで、違う食べ物を書いて抵抗したくらいには好きです」
「ケチャップで違う…」
沢城先輩は、それを想像したようで顔を逸らして笑いをかみ殺した。
「そ、それは、随分可愛らしいですね」
「ああ!バカにしましたね!?」
幸がショックを受けたような顔をすると、沢城先輩は慌てて首を振った。
「してません。してませんよ」
幸が疑うように目を細めてみると、もう一度顔を逸らして笑いをかみ殺してから、沢城先輩は何食わぬ顔でもう一度幸を見て頷いた。
「バカにしてません」
「…」
「そんなに好きなら、うちのお店にも一度食べに来てくださいね。気に入っていただけるかは分かりませんが、オムライスは一押しメニューですから」
「……」
幸は少し考えてから、にっこり笑った。
オムライスの前では疑う気持ちなど不要である。
全く躊躇いなく頷いた。
「はい。ではそのうち行かせて頂きます」
「是非。楽しみにしてますから」
約束してから幸は中庭の時計をちらりと見た。
少し時間が気になったのだ。
それに気づいたらしく、沢城先輩が立ち上がった。
「おかげで時間が潰せました。私はそろそろ行きますね」
幸は釣られるように立ち上がる。
時間が潰せたというけど、本当はまだまだなんじゃないかな、と、じぃっと沢城先輩を覗き込んだ。
「な、なんでしょうか?」
動揺したように目線を泳がせる沢城先輩に、目を瞬かせてから、いいえ、と幸は首を振った。
小さく笑みがこぼれる。気を利かされたというなら、知らぬ顔で甘えておこうと思った。
確認した時間は、幸が寮に戻ってから出発するには良い時間になっていた。
そうだ、とポケットに手を突っ込むと、可愛い包装紙に包まれた飴玉が二つ出てきた。
幸はそれを沢城先輩に差し出した。
「沢城先輩にお近づきの印に差し上げます」
「え、いいんですか?」
「はい。もしまた寂しくなったら、一先ずこの飴でしのいでください」
沢城先輩が受け取ると、ふんわりと幸は笑った。
「じゃあ、今度お会いしたら、親戚のお話を聞いて頂きますね」
「はい。楽しみにしています」
「ごきげんよう」
深々とお辞儀をしてから幸が立ち去ると、沢城先輩は飴玉を見ながら少し歩いて、さっそく一個口に入れた。
「美味しい」
ほわん、とした表情で笑うと。
当てがあるのかないのか、中庭を幸が行ったのとは逆方向にのんびりと歩いていってしまった。
「いえ、私は文芸部なので。今日はこの後、近くに住んでいる親戚のおうちに行くんです」
「ああ、それはいいですね」
「はい。今の前の理事の時に、この学校に通っていた親戚なんです。だから学園がどんな風に変わったとか、一緒に話せたらなあって思っているんです」
沢城先輩の言葉にするすると言葉が出てきて、幸は香苗さんのことを思い出して、にっこり笑ってしまった。
そう、今日は沢山お話をして、沢山お手伝いだってするのだ。
想像するだけで幸せな気分になる。
沢城先輩はその様子に目を細めて笑った。
「楽しそうですね。何か面白そうな話が聞けたら、是非教えて頂きたいです。幸さんのお家は親戚のお家は遠いんですか?」
「私は元々長野なんで、遠いです。沢城先輩はどうですか?」
「私は近いですよ。家はレストランをやっていて、この連休中も両親は忙しいですが」
「レストラン!?」
幸はピクッとその言葉に反応したようにした。
「はい。洋食を出しているレストランです。興味ありますか?」
洋食と言われては、ますます聞き逃せない。
思わず身を乗り出してしまう。
「あります!私オムライスが好きなんです。長野にいた頃に一時期、毎日のようにオムライスを食べていたことがあって、従姉に笑われたりしましたけど。それくらい大好きです」
幸の勢いに、沢城先輩は少し驚いたように体をひいた。
表情は変わらず笑顔で相槌を打っている。
「オムライスですか。美味しいですよね」
「はい。従姉があんまり笑うので、毎日オムライスにケチャップで、違う食べ物を書いて抵抗したくらいには好きです」
「ケチャップで違う…」
沢城先輩は、それを想像したようで顔を逸らして笑いをかみ殺した。
「そ、それは、随分可愛らしいですね」
「ああ!バカにしましたね!?」
幸がショックを受けたような顔をすると、沢城先輩は慌てて首を振った。
「してません。してませんよ」
幸が疑うように目を細めてみると、もう一度顔を逸らして笑いをかみ殺してから、沢城先輩は何食わぬ顔でもう一度幸を見て頷いた。
「バカにしてません」
「…」
「そんなに好きなら、うちのお店にも一度食べに来てくださいね。気に入っていただけるかは分かりませんが、オムライスは一押しメニューですから」
「……」
幸は少し考えてから、にっこり笑った。
オムライスの前では疑う気持ちなど不要である。
全く躊躇いなく頷いた。
「はい。ではそのうち行かせて頂きます」
「是非。楽しみにしてますから」
約束してから幸は中庭の時計をちらりと見た。
少し時間が気になったのだ。
それに気づいたらしく、沢城先輩が立ち上がった。
「おかげで時間が潰せました。私はそろそろ行きますね」
幸は釣られるように立ち上がる。
時間が潰せたというけど、本当はまだまだなんじゃないかな、と、じぃっと沢城先輩を覗き込んだ。
「な、なんでしょうか?」
動揺したように目線を泳がせる沢城先輩に、目を瞬かせてから、いいえ、と幸は首を振った。
小さく笑みがこぼれる。気を利かされたというなら、知らぬ顔で甘えておこうと思った。
確認した時間は、幸が寮に戻ってから出発するには良い時間になっていた。
そうだ、とポケットに手を突っ込むと、可愛い包装紙に包まれた飴玉が二つ出てきた。
幸はそれを沢城先輩に差し出した。
「沢城先輩にお近づきの印に差し上げます」
「え、いいんですか?」
「はい。もしまた寂しくなったら、一先ずこの飴でしのいでください」
沢城先輩が受け取ると、ふんわりと幸は笑った。
「じゃあ、今度お会いしたら、親戚のお話を聞いて頂きますね」
「はい。楽しみにしています」
「ごきげんよう」
深々とお辞儀をしてから幸が立ち去ると、沢城先輩は飴玉を見ながら少し歩いて、さっそく一個口に入れた。
「美味しい」
ほわん、とした表情で笑うと。
当てがあるのかないのか、中庭を幸が行ったのとは逆方向にのんびりと歩いていってしまった。
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