拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
77 / 282
第二章 5月‐序

GWに待っているもの ★2★

しおりを挟む
『春に籍を入れてから、柚鈴ちゃんがすぐに寮に入って、あまり家にいなかったじゃない?お父様ったら仕事で入学式にも行けなかったし、なんだか焦ってきたみたいで』
「はぁ」
そういえば、確かに最初は入学式に行きたいと言ってた気がした。
すぐに難しいことが決まり、あまり気にしていなかったが、志奈さんの口ぶりだとオトウサンはかなり気にしていたようだ。

『柚鈴ちゃんが帰ってくるGWに合わせて休みが取れるようにって、この一週間ずぅっと残業して仕事を詰め込んでいるの』
「え!?と、止めてくださいよ」
『私が止めても逆効果なのよ。入学式にも行ったし、その他でも会ったことをお母さんに話していたら、耳に入っちゃったみたいで』
逆効果、ということは、志奈さんにライバル意識でも燃やしているということだろうか。
あんまり想像できないが、羨ましく思っているというのはあるんだろう。
だからと言って実の娘が逆効果とはどういうことだ。

『今日も朝早くに出て、当然まだ帰ってきてないから、なんだか逆に柚鈴ちゃんが心配になっちゃって』
「そこで志奈さんも、オトウサンの心配はしないんですか...」
『しないわけでもないけど、優先順位があるもの』
どうしてこう、はっきり物事を言う人なんだろう。
悪気もないし、柚鈴のことを考えてくれているのは分かるのだが、オトウサンに申し訳ない気がして仕方なかった。
いや、オトウサンの方ももしかしたら大差ないのかもしれないが。

何にせよ、オトウサンは柚鈴の帰宅を志奈さんに心配されるほどに楽しみにしているらしい。
「なんだか意外です。お会いしてから、私と話していても、志奈さんみたいにはしゃいだりする人でもなかったし、大人で落ち着いている人かと思っていました」
『それも別に間違ってはいないとは思うわ。お父様って私と似ている所があるし』
「え?それってどういうことですか?」
その言い方だと、志奈さんも『大人で落ち着いた人』みたいだけど、とまでは流石に言えない。
言わなかったので、志奈さんには伝わらなかったらしい。うーんと考え込むようにしてから返事が返ってきた。

『簡単に言えば、優先順位がはっきりしているの』
繰り返した言葉を使い言うと、志奈さんは思うところがあるらしくため息をつく。
『お父様は、あの雰囲気では分かり辛いと思うけど、仕事の捌ける人なの。そのわりに偉ぶったりしないし、いつも穏やかで人の懐に上手に入るのよね』
「へぇ」
この評価は志奈さんの自己分析も入るのか分からず、適当な言葉は見つからず相槌を返す。
『別に萎縮するわけでもないけど、お父様が気が小さいと思う人も多いみたい。だから油断して、ちょっと話しすぎたりしちゃう。そういうことをちゃんと気づいて黙って受け止めておくの』
「そ、そうなんですか」
どうも志奈さんの説明するオトウサン像というのは志奈さんと似ているのだろうか?
気が小さいとは志奈さんを見て思う人はいないだろう。だとしたら、人を油断させるところがあるのだろうか?

志奈さんが言う『私と似てる』とはどう言う意味なのか聞くのが怖い気がして、というよりまだ知らない方が良い気がして、柚鈴の口は貝のようになっていた。

それに気づいたのか、志奈さんは一瞬黙ってからクスクスと笑いだした。
『本当に私もお父様もとてもシンプルな人間なのよ』
「そうだとすごく助かります」
心の底からの気持ちを伝えると、志奈さんは実に楽しそうだった。
『ふふ。何にせよ、お父様が明日はしゃいでいても、驚かないでねって言いたかったの』
志奈さんそう言うと、明日楽しみにしているわ、と電話を切った。
柚鈴は困ったように肩を竦めた。

まぁ、気にしすぎても、どうしようもないか。
そう思って机に向かうと、終わりが見えてきた課題へと集中し始めた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...