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第一章 4月
翼を得た者 ★9★ 陸上部のお姉さま
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「光希に部長が重荷なら、部長は別の誰かにやらせなさい。どうして、光希が部長をやるの?」
「私のメンティになる子が、部長にならなくて良いんですか?」
「構わないわ。あなたがそうすべきだと思うなら、不満を言うOB方を納得させるくらいの気持ちは私にもあるわ。でもね」
そう言うと、緋村さんは他の部員の方を振り返った。
「前田光希!」
「は、はい!!」
慌てた様子で、前田先輩が走って出て来る。
気が強そうな前田先輩も、緋村さんは恐ろしいらしい。
カチンコチンに緊張した様子で直立している。
「陸上部OGとして、あなたに言いたいことは一つよ。卑怯な真似はやめなさい」
「…はい」
前田先輩は泣きそうな顔で返事をした。
緋村さんが、薫を練習させなかったことで言っているんだということは、幸にも分かった。
「あとは一つ、聞きたいことがあるわ。あなた自身は綾が思っていることを、どう考えているの」
「私は」
前田先輩は迷ったように一瞬黙ってから、顔を上げてはっきり言った。
「私は有沢先輩とのペアを解消したくありません。不甲斐ない後輩ですが、まだやれます。部長にもなりたいです」
「やる気はあるということね?」
「はい!あります!」
「良いでしょう。その言葉忘れるんじゃないわよ?」
緋村先輩は厳しい表情のまま、口端だけを上げた。
それを笑顔と判断できる人間がどれだけいるだろうか?
は、般若みたい。
怖いよぉ。
遠くから見ていただけの幸ですら、凍りつきそうな表情だ。
「綾と光希の2人は特別に、私が今日1日指導してあげるわ。前田光希はスランプらしいわね?安心していいわ。そんな生温いことは言わせないくらいしごいてあげるから」
その言葉に、有沢部長は大きく目を見開いた。
緋村さんはつまり、ペアを解消するのを待てと言っているのだ。
咄嗟に納得出来ずに声が出る。
「ちょっと待ってください、楓さん」
「綾。ひとまず光希に対する心配は私に預けなさい。スランプなんて次の大会までにはなかったものにしてあげるわ。それからゆっくり次期部長をどうすればいいのか考えればいいわ」
「で、でも。次の大会ってすぐじゃないですか!」
「知ってるわよ」
あっさりと言った言葉に、有沢部長は閉口した。
いくら前部長と言えど、干渉しすぎと責められれば言い訳も出来ないはずの内容だ。
自分自身が責められるなら、それは自分が不甲斐ないからだからいい。だがこの場合責められるのは、緋村楓その人ではないだろうか。
そう思うと、はいどうぞとは中々言えない。
「あの。私、頑張ります。やらせてください」
前田先輩は有沢部長の言葉を遮るように言った。
「私は、有沢部長のメンティであることも、次の部長になることも諦めたくありません。だから、緋村先輩が指導してくださるなら、どんなに厳しくてもついていきます」
「だそうよ。綾、文句はある?」
有沢部長は緋村さんの顔を見て黙り込んだ。
「お願いです!お姉さま。やらせてください」
「……」
前田先輩の必死の形相に、有沢部長は息を飲んだ。
楓さんは、任せろと言っている。それは、自分の為だ。光希は頑張りたいと言っている。それは彼女自身の為だ。
だとしたら、光希の助言者としてやることは。
それは、一つではないのだろうか。
緋村さんを振り返ると、その目はいつも通り迷いはなかった。
だから、有沢部長は深々と頭を下げた。
「楓さん、お願いします」
緋村さんは厳しい顔で頷いてから、他の陸上部員を見た。
「私のメンティになる子が、部長にならなくて良いんですか?」
「構わないわ。あなたがそうすべきだと思うなら、不満を言うOB方を納得させるくらいの気持ちは私にもあるわ。でもね」
そう言うと、緋村さんは他の部員の方を振り返った。
「前田光希!」
「は、はい!!」
慌てた様子で、前田先輩が走って出て来る。
気が強そうな前田先輩も、緋村さんは恐ろしいらしい。
カチンコチンに緊張した様子で直立している。
「陸上部OGとして、あなたに言いたいことは一つよ。卑怯な真似はやめなさい」
「…はい」
前田先輩は泣きそうな顔で返事をした。
緋村さんが、薫を練習させなかったことで言っているんだということは、幸にも分かった。
「あとは一つ、聞きたいことがあるわ。あなた自身は綾が思っていることを、どう考えているの」
「私は」
前田先輩は迷ったように一瞬黙ってから、顔を上げてはっきり言った。
「私は有沢先輩とのペアを解消したくありません。不甲斐ない後輩ですが、まだやれます。部長にもなりたいです」
「やる気はあるということね?」
「はい!あります!」
「良いでしょう。その言葉忘れるんじゃないわよ?」
緋村先輩は厳しい表情のまま、口端だけを上げた。
それを笑顔と判断できる人間がどれだけいるだろうか?
は、般若みたい。
怖いよぉ。
遠くから見ていただけの幸ですら、凍りつきそうな表情だ。
「綾と光希の2人は特別に、私が今日1日指導してあげるわ。前田光希はスランプらしいわね?安心していいわ。そんな生温いことは言わせないくらいしごいてあげるから」
その言葉に、有沢部長は大きく目を見開いた。
緋村さんはつまり、ペアを解消するのを待てと言っているのだ。
咄嗟に納得出来ずに声が出る。
「ちょっと待ってください、楓さん」
「綾。ひとまず光希に対する心配は私に預けなさい。スランプなんて次の大会までにはなかったものにしてあげるわ。それからゆっくり次期部長をどうすればいいのか考えればいいわ」
「で、でも。次の大会ってすぐじゃないですか!」
「知ってるわよ」
あっさりと言った言葉に、有沢部長は閉口した。
いくら前部長と言えど、干渉しすぎと責められれば言い訳も出来ないはずの内容だ。
自分自身が責められるなら、それは自分が不甲斐ないからだからいい。だがこの場合責められるのは、緋村楓その人ではないだろうか。
そう思うと、はいどうぞとは中々言えない。
「あの。私、頑張ります。やらせてください」
前田先輩は有沢部長の言葉を遮るように言った。
「私は、有沢部長のメンティであることも、次の部長になることも諦めたくありません。だから、緋村先輩が指導してくださるなら、どんなに厳しくてもついていきます」
「だそうよ。綾、文句はある?」
有沢部長は緋村さんの顔を見て黙り込んだ。
「お願いです!お姉さま。やらせてください」
「……」
前田先輩の必死の形相に、有沢部長は息を飲んだ。
楓さんは、任せろと言っている。それは、自分の為だ。光希は頑張りたいと言っている。それは彼女自身の為だ。
だとしたら、光希の助言者としてやることは。
それは、一つではないのだろうか。
緋村さんを振り返ると、その目はいつも通り迷いはなかった。
だから、有沢部長は深々と頭を下げた。
「楓さん、お願いします」
緋村さんは厳しい顔で頷いてから、他の陸上部員を見た。
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