56 / 282
第一章 4月
お姉さまが欲しかったもの ★6★
しおりを挟む
「私自身が誰かの助言者になれなかったことよ」
意外な言葉に、柚鈴は驚いて聞き返した。
「なりたかったんですか?」
「生徒会長になった後にね、そうなってみたかったなって強く思ったの。沢山の誰かの模範じゃなくて、たった一人の助言者に」
その答えに、柚鈴は良く志奈さんの気持ちが分からなくて、首をかしげた。
だってこの人は、全校生徒のお姉さまと言われた人だ。
その人が、誰か一人との関係が築けなかったことが、残念だと言うのが分からなかった。
「贅沢ですね」
思わず口にすると、志奈さんは首を傾げた。
「そう?」
「だって志奈さんは、沢山の生徒の理想のお姉さまだったことを『充実してた』と思ったんですよね。その上特別な誰かまで欲しいなんて。贅沢な気がします」
「なるほど」
志奈さんはふふっと笑った。
「なら私は贅沢な上で、最高に幸せ者ね。助言者にはなれなかったけど、姉にはなれたもの」
そう言って笑う志奈さんの言葉に、その幸せ者の条件が柚鈴自身と気づいて、目を丸くした。
「姉と助言者は同じですか?」
「たった一人の特別な人でしょう?本質は変わらないと思うわ」
「いや、でも。私は大人しく言うことなんて聞きませんよ?」
「それでも、あなたは私の妹でしょう?」
言い返す柚鈴に、志奈さんは全くぶれることなく微笑んだ。
「みんなの理想のお姉さま?憧れの存在?そうね、私は確かにそういった役割を常葉学園で担っていた。友人だって私が完璧な何かだと思っている人が沢山」
滑らかな口調で柔らかく言うと、志奈さんはうっすら笑みを浮かべた。その表情がとても綺麗で妖艶にすら見える。
「別に、それも嫌ではないわ。だって、その立場だから出来たことも過ごせた時間も私の誇りだもの」
そう言ったてから顔を上げてから志奈さんの強い視線を真っ直ぐ柚鈴に向ける。それは柚鈴の言葉を失わせるには十分だった。
「それでも思うの。誰からも愛されるって、本当は誰からも愛されてないことと近いんじゃないか。みんなのお姉さまなんて、結局誰のお姉さまでもないんじゃないかって」
「…よく分かりません」
掠れた声を漏らした柚鈴に、志奈さんは頷いた。
「私も上手く言えない。でも確信してるの。助言者制度でペアになった者同士の関係は、なんだかとても近くて深い、他の人たちが立ち入れないものがあったわ。とても羨ましかった。そんな姿を沢山見たから、私もそんな存在が欲しくなってしまったの」
そんな存在。
この流れだと、それはやっぱり柚鈴のことをそう思っているということになる。
柚鈴は思わず、言い返した。
「志奈さんが私を選んで妹にしたわけでもないのにですか?」
「選ばなくても、柚鈴ちゃんは私の妹じゃない」
良く意味が分からない、と言った表情で志奈さんは首を傾げた。
「それに柚鈴ちゃんが妹で、嫌だと思ったことがないわ。だから問題ないでしょう?」
「あ、そ、そうですか」
こ、この人は、恥ずかしい人だ。
天然で悪意がない。
思わず赤くなる柚鈴の気持ちなんて、分からないに違いないのだ。
「それで?」
「はい?」
唐突な志奈さんの質問の意味が分からずに首を傾げる。
それで、とは、なんなんだ。
「それで、柚鈴ちゃんは、どうしてここに来たの?」
どうして、ここに?
はっと我に返って幸を見ると、幸はへらっと笑った。
「しまった」
「まぁ、仕方ないよ。薫のことも大切だけど、柚鈴ちゃんのこの時間も大切だったわけだし」
幸の笑顔に尚更申し訳ない気持ちになった。
あぁ、しまった。
「もしかして、遥さんを追って来ていたんじゃない?」
頭を抱えて反省していると、真美子さんが口を開いた。
志奈さんはキョトンとして、聞き返す。
「あら遥ちゃんも来ているの?」
「この子達の前に歩いて行ってしまったの、見えてなかったの?」
志奈さんが頷くと、真美子さんは、はぁとため息をついた。
柚鈴と目が合うと、軽く唇の端を上げて笑ってみせる。
「柚鈴さんと幸さん、わざわざここに来るくらいだから何かあったのでしょう?どうしたのか教えてくれる?」
その表情はやはりどこか冷たさを感じるのだが、同時に頼りにしたくなるような雰囲気もある。
だから、その言葉に頷いて。
柚鈴と幸は、理由を話し始めた。
意外な言葉に、柚鈴は驚いて聞き返した。
「なりたかったんですか?」
「生徒会長になった後にね、そうなってみたかったなって強く思ったの。沢山の誰かの模範じゃなくて、たった一人の助言者に」
その答えに、柚鈴は良く志奈さんの気持ちが分からなくて、首をかしげた。
だってこの人は、全校生徒のお姉さまと言われた人だ。
その人が、誰か一人との関係が築けなかったことが、残念だと言うのが分からなかった。
「贅沢ですね」
思わず口にすると、志奈さんは首を傾げた。
「そう?」
「だって志奈さんは、沢山の生徒の理想のお姉さまだったことを『充実してた』と思ったんですよね。その上特別な誰かまで欲しいなんて。贅沢な気がします」
「なるほど」
志奈さんはふふっと笑った。
「なら私は贅沢な上で、最高に幸せ者ね。助言者にはなれなかったけど、姉にはなれたもの」
そう言って笑う志奈さんの言葉に、その幸せ者の条件が柚鈴自身と気づいて、目を丸くした。
「姉と助言者は同じですか?」
「たった一人の特別な人でしょう?本質は変わらないと思うわ」
「いや、でも。私は大人しく言うことなんて聞きませんよ?」
「それでも、あなたは私の妹でしょう?」
言い返す柚鈴に、志奈さんは全くぶれることなく微笑んだ。
「みんなの理想のお姉さま?憧れの存在?そうね、私は確かにそういった役割を常葉学園で担っていた。友人だって私が完璧な何かだと思っている人が沢山」
滑らかな口調で柔らかく言うと、志奈さんはうっすら笑みを浮かべた。その表情がとても綺麗で妖艶にすら見える。
「別に、それも嫌ではないわ。だって、その立場だから出来たことも過ごせた時間も私の誇りだもの」
そう言ったてから顔を上げてから志奈さんの強い視線を真っ直ぐ柚鈴に向ける。それは柚鈴の言葉を失わせるには十分だった。
「それでも思うの。誰からも愛されるって、本当は誰からも愛されてないことと近いんじゃないか。みんなのお姉さまなんて、結局誰のお姉さまでもないんじゃないかって」
「…よく分かりません」
掠れた声を漏らした柚鈴に、志奈さんは頷いた。
「私も上手く言えない。でも確信してるの。助言者制度でペアになった者同士の関係は、なんだかとても近くて深い、他の人たちが立ち入れないものがあったわ。とても羨ましかった。そんな姿を沢山見たから、私もそんな存在が欲しくなってしまったの」
そんな存在。
この流れだと、それはやっぱり柚鈴のことをそう思っているということになる。
柚鈴は思わず、言い返した。
「志奈さんが私を選んで妹にしたわけでもないのにですか?」
「選ばなくても、柚鈴ちゃんは私の妹じゃない」
良く意味が分からない、と言った表情で志奈さんは首を傾げた。
「それに柚鈴ちゃんが妹で、嫌だと思ったことがないわ。だから問題ないでしょう?」
「あ、そ、そうですか」
こ、この人は、恥ずかしい人だ。
天然で悪意がない。
思わず赤くなる柚鈴の気持ちなんて、分からないに違いないのだ。
「それで?」
「はい?」
唐突な志奈さんの質問の意味が分からずに首を傾げる。
それで、とは、なんなんだ。
「それで、柚鈴ちゃんは、どうしてここに来たの?」
どうして、ここに?
はっと我に返って幸を見ると、幸はへらっと笑った。
「しまった」
「まぁ、仕方ないよ。薫のことも大切だけど、柚鈴ちゃんのこの時間も大切だったわけだし」
幸の笑顔に尚更申し訳ない気持ちになった。
あぁ、しまった。
「もしかして、遥さんを追って来ていたんじゃない?」
頭を抱えて反省していると、真美子さんが口を開いた。
志奈さんはキョトンとして、聞き返す。
「あら遥ちゃんも来ているの?」
「この子達の前に歩いて行ってしまったの、見えてなかったの?」
志奈さんが頷くと、真美子さんは、はぁとため息をついた。
柚鈴と目が合うと、軽く唇の端を上げて笑ってみせる。
「柚鈴さんと幸さん、わざわざここに来るくらいだから何かあったのでしょう?どうしたのか教えてくれる?」
その表情はやはりどこか冷たさを感じるのだが、同時に頼りにしたくなるような雰囲気もある。
だから、その言葉に頷いて。
柚鈴と幸は、理由を話し始めた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる