拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

私の居場所 ★5★

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「あのね」
柚鈴は薫に話し始めた。
「常葉学園の去年の卒業生に私の義理のお姉さんがいるんだ」
「義理?」
流石に薫は驚いたように目を見開いてから、一度幸を見た。
幸が黙って頷くと、視線を柚鈴に戻す。
義理は義理だよ。ちゃんと聞いてね、といった様子だ。

「うん。この春にうちのお母さんの再婚して出来たお姉さん」
「そうなんだ」
「それでなんか、常葉学園ですごく有名な人だったみたいで」
「あぁ、部誌に載ってたんだ」
そこまで聞くと薫は納得したという風に頷いた。
「うん」
「そりゃ、すごいじゃん」
ふっと笑われて、思わずその笑顔に見惚れる。
「うん。すごい、よね」
釣られて思わず同じことを繰り返す。
志奈さんは、部誌に載っててすごい。

ただ、それだけの言葉だけど、そうか、そうだなと納得する。
薫のどこまでもシンプルな言葉は全く他意はなさそうだった。
幸とも違い、全く前年度の生徒会長の有名具合も、部誌での持ち上げられ方も知らない薫にとっては、あっさりしたものだ。
その反応が、逆にしっくりとして、なんだか安心した。

柚鈴が納得した顔になったことに気付いた薫は、軽く笑ってから改めて草むしりに戻った。
それだけ。
変に詮索することもないし、もちろん柚鈴を哀れむこともない。
ただ、ちょっとした世間話をしただけ、という様子が、幸の時とはまた違う安心をくれた。

よし、と立ち上がり、薫の横に並んで、ついに草をむしり始める。
それを見た幸も草むしりを一緒に始めた。

「いや、手伝わなくていいって」
「これは今の話に付き合ってくれた分だから」
「そうそう。それにせっかくだし」
二人で薫を黙らせて、黙々と草をむしり続ける。
しばらく黙って専念してると、なんだか3人で草むしりをしていることが楽しくなってきた。

そのせいなのか、急にどうしても2人に言いたくなった言葉が出てきて、ウズウズしてしまう。
2人の様子を見て、草をむしって、また様子を見て。
そうして迷ったけど、ついに口にしてしまった。
「なんか私、2人とも好きだな」

一瞬間があって。
「そりゃ光栄だ」
と薫が軽く笑えば
「なんか青春だね」
と幸が目を細めて笑った。

一人になれる場所を探して、常葉学園に来た。
その気持ちに嘘はなかったし、自分を迷子にしないために、どうしても必要だったと思う。
そう、私は迷子になりそうだったんだ。
自分の進んでいた道がよく分からなくなって。
でもこうして選んだ道で、もしかしたら選び方間違ってたかもなんて思ったりもするけど。
自分の居場所があるんだな、って。この道は正解だなって思えてきて。
なんだかとても嬉しくて、幸せな気持ちになっていた。
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