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第一章 4月
私の居場所 ★2★
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「柚鈴ちゃんがそう思うなら、志奈さんは、柚鈴ちゃんとって近い所にいたんだろうね」
幸はあっさりとそう言った。
「そう思う?」
「うん。だって、志奈さんは柚鈴ちゃんのお姉さん、なんでしょう?」
幸が微笑むと、そうなのか、とするりと腑に落ちる感覚があった。
志奈さんは私のお姉さん。
それは義理だし、そういう形になったということなんだけど、まぎれもない事実だ。
少なくとも志奈さんは、いつでも歩み寄ろうとしていたし、私も嫌なわけではなかった。
でも、そうなると。
隠れていた罪悪感のような気持ちが、顔を出す。
「どうしたの?」
気持ちが顔に出てしまったらしく、幸が覗き込んでくる。
しまったと思うにはもう遅い。
今更引っ込みが付かず、どうしたものかと目線を泳がせてから、ぽつりと、思ったことを口にした。
「私が、家を出て常葉学園の寮に入ったのって、間違いだったのかなぁ、なんて」
「ふへぇ?」
幸は目を丸くして、首をかしげた。
意味が分からないと言わんばかりの表情で、うーん?と考え込んでから、こっちを向き直る。
「そういえば、柚鈴ちゃんってなんで常葉学園に来たの?」
「うっ」
自業自得ながらに、中々言いたくない所を突かれてしまった。
もはや幸の真っ直ぐな目が見ていられず、机に突っ伏した。
あぁ、もう。私のおばか。
「柚鈴ちゃん?」
つんつんと指で突かれ、居た堪れない。
顔を上げて、幸を見ると、キョトンとした顔でこちらを見ている。
幸はずるい。
八つ当たりというか、言いがかりというか。全部、幸のせいにしてしまいたい気持ちになった。
その表情はただひたすらまっすぐで、だから何かを話しても良いかなと思えてしまうのだ。
もう入り口になる、抱えていた言葉の一つは出したしまったのだから、もう少し話してもいい気がした。
上手く伝えることはできないけれど、それも許してもらえそうな気がした。
私は一度顔をくしゃっと歪めてから、最初の言葉を探した。
「ずっと私、お母さんと2人だったから」
「うん」
「小さな頃からお母さんと2人で支えあっていこうって、すっごい力が入ってたの」
「うん」
少しずつ話し始めた柚鈴の言葉を、幸は焦らせることなく相槌を打つ。
そのことに勇気をもらいながら、言葉を探して繋げていく。
「急にお父さんが出来て、それは幸せなことで嬉しいことなんだけど。今まで頑張って力入れてたのが、急に行き場がなくなっちゃったの」
「うん」
そう。行き場がなくなった。
大切で守りたいものがあった時は、自分の居場所なんて疑いもしなかったのに。
本当の意味で何かを失ったわけでもないのに、自分の居場所が分からなくなった。
そのままで良いと、自由にそばに居て良いと言われてるのは分かっているけど、とてもそのことが難しかった。
寂しかった気持ちを、でも誰かに可哀想なんて言われたら立ち直れなくなりそうで、蓋をしていた気持ちを。
ゆっくりと向き合って言葉にしたのは、友達では初めてだった気がする。
「寂しかったり複雑だったりして、でも結婚も反対したくなかったのね」
「うん」
「だから、1人になれる場所を探しちゃったんだと思う。だから、寮がある常葉学園にきたの」
「そうかぁ」
幸は目を逸らさないまま相槌を打っていて、なんだか切ない気持ちになってしまった。
机にもう一度突っ伏すと、幸はつんつんとまた突く。
どんな顔を見せれば良いか分からなくて、構わず顔を伏せたままでいると。
「柚鈴ちゃんが、常葉学園に来てくれて、柚鈴ちゃんと同級生出来て、私は嬉しいし楽しいよ」
「......」
「柚鈴ちゃんは柚鈴ちゃんの考えで常葉学園に来てさ。だから、こうして友達出来たわけでしょう?間違いが一個もなかったかは分からないけど、少なくとも私的には大正解なんだよ」
「…大正解?」
「うん。大正解だよ。常葉学園に来てくれて、ありがとう」
大真面目な声が、体の芯まで届いて。
その言葉に、なんだか温かい気持ちになってしまった。
「ありがとう」
小さく呟くと、幸は幸せそうな声で言った。
「うん。お互い、ありがとうだね。柚鈴ちゃん」
幸の言葉にジンとした。
うん。ありがとう、だ。ありがとうだね。
幸はあっさりとそう言った。
「そう思う?」
「うん。だって、志奈さんは柚鈴ちゃんのお姉さん、なんでしょう?」
幸が微笑むと、そうなのか、とするりと腑に落ちる感覚があった。
志奈さんは私のお姉さん。
それは義理だし、そういう形になったということなんだけど、まぎれもない事実だ。
少なくとも志奈さんは、いつでも歩み寄ろうとしていたし、私も嫌なわけではなかった。
でも、そうなると。
隠れていた罪悪感のような気持ちが、顔を出す。
「どうしたの?」
気持ちが顔に出てしまったらしく、幸が覗き込んでくる。
しまったと思うにはもう遅い。
今更引っ込みが付かず、どうしたものかと目線を泳がせてから、ぽつりと、思ったことを口にした。
「私が、家を出て常葉学園の寮に入ったのって、間違いだったのかなぁ、なんて」
「ふへぇ?」
幸は目を丸くして、首をかしげた。
意味が分からないと言わんばかりの表情で、うーん?と考え込んでから、こっちを向き直る。
「そういえば、柚鈴ちゃんってなんで常葉学園に来たの?」
「うっ」
自業自得ながらに、中々言いたくない所を突かれてしまった。
もはや幸の真っ直ぐな目が見ていられず、机に突っ伏した。
あぁ、もう。私のおばか。
「柚鈴ちゃん?」
つんつんと指で突かれ、居た堪れない。
顔を上げて、幸を見ると、キョトンとした顔でこちらを見ている。
幸はずるい。
八つ当たりというか、言いがかりというか。全部、幸のせいにしてしまいたい気持ちになった。
その表情はただひたすらまっすぐで、だから何かを話しても良いかなと思えてしまうのだ。
もう入り口になる、抱えていた言葉の一つは出したしまったのだから、もう少し話してもいい気がした。
上手く伝えることはできないけれど、それも許してもらえそうな気がした。
私は一度顔をくしゃっと歪めてから、最初の言葉を探した。
「ずっと私、お母さんと2人だったから」
「うん」
「小さな頃からお母さんと2人で支えあっていこうって、すっごい力が入ってたの」
「うん」
少しずつ話し始めた柚鈴の言葉を、幸は焦らせることなく相槌を打つ。
そのことに勇気をもらいながら、言葉を探して繋げていく。
「急にお父さんが出来て、それは幸せなことで嬉しいことなんだけど。今まで頑張って力入れてたのが、急に行き場がなくなっちゃったの」
「うん」
そう。行き場がなくなった。
大切で守りたいものがあった時は、自分の居場所なんて疑いもしなかったのに。
本当の意味で何かを失ったわけでもないのに、自分の居場所が分からなくなった。
そのままで良いと、自由にそばに居て良いと言われてるのは分かっているけど、とてもそのことが難しかった。
寂しかった気持ちを、でも誰かに可哀想なんて言われたら立ち直れなくなりそうで、蓋をしていた気持ちを。
ゆっくりと向き合って言葉にしたのは、友達では初めてだった気がする。
「寂しかったり複雑だったりして、でも結婚も反対したくなかったのね」
「うん」
「だから、1人になれる場所を探しちゃったんだと思う。だから、寮がある常葉学園にきたの」
「そうかぁ」
幸は目を逸らさないまま相槌を打っていて、なんだか切ない気持ちになってしまった。
机にもう一度突っ伏すと、幸はつんつんとまた突く。
どんな顔を見せれば良いか分からなくて、構わず顔を伏せたままでいると。
「柚鈴ちゃんが、常葉学園に来てくれて、柚鈴ちゃんと同級生出来て、私は嬉しいし楽しいよ」
「......」
「柚鈴ちゃんは柚鈴ちゃんの考えで常葉学園に来てさ。だから、こうして友達出来たわけでしょう?間違いが一個もなかったかは分からないけど、少なくとも私的には大正解なんだよ」
「…大正解?」
「うん。大正解だよ。常葉学園に来てくれて、ありがとう」
大真面目な声が、体の芯まで届いて。
その言葉に、なんだか温かい気持ちになってしまった。
「ありがとう」
小さく呟くと、幸は幸せそうな声で言った。
「うん。お互い、ありがとうだね。柚鈴ちゃん」
幸の言葉にジンとした。
うん。ありがとう、だ。ありがとうだね。
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