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第一章 4月
翼を得た者 ★1★ 陸上部のお姉さま
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私の助言者の卒業式。
いつも通りの表情で見送ろうと思っていたのに、私はそれが出来なかった。
柄でもないのは分かっている。
私は陸上部の中でも身長が高く、体つきもガッシリしている。
後輩も厳しく指導もするし、自分の練習もハードにこなす。
だからこそ、頼もしい後輩として先輩を見送ってあげるのが『緋村楓』だと思われていて当然だし、そのつもりだった。
私の助言者である今田智子先輩は、いつも笑顔で後輩を明るく励ましてくれる上級生で、私は常葉学園の陸上部に入って、すぐ大好きになった。
「凄いね。頑張ってるじゃない」
そう言って満面の笑みで褒めてくれるその人の言葉で、練習はやりがいを増す一方だった。
「楓はしっかりしてるから、私が何か教えなくても大丈夫だね」
そう言って誇らしげな顔をするその人の言葉で、私は外見通りしっかりして、それを当然だと思っている手のかからない後輩を演じた。
でも本当は、あなたが認めてくれ褒めてくれること、それが嬉しくて仕方なかった。
「うちの家系は代々『お姉さま』って呼ばせてるみたいだけど、面倒だよね。
楓はそんなふうに呼ばなくていいよ」
「そうだなぁ。私的には、ともちゃんとか、フランクに呼んで欲しいけど」
「ええ?ダメなの?仕方ないな。智子さんでも良いよ。先輩は辞めてね。楓みたいに私より大きい子に『先輩』なんて呼ばれるの恥ずかしいもん」
いつも楽しそうに笑う、その笑顔が好きだった。
「楓。私ね、三年生の間は生徒会を手伝うことになったの」
「春の大会で陸上部は引退みたいなものだし。楓を指導する時間は減っちゃうけど、まぁしっかりしてるから大丈夫だよね」
「なんか楓、一年生の指導が上手らしいね。評判になってるよ」
生徒会の仕事に専念し始めて、あなたは私の手を離したようになった。
私は心細くて、寂しくて、でもそんなことは言えなくて。
本当は他の子みたいに、お姉さまって呼んで甘えてみたり、叱られてみたりしたかった。
らしくないのは承知しているが、私の弱い部分を支えているのは、間違いなくあなただった。
そんな気持ちが積み重なっていって。
卒業式の日。
自分とペアになってくれてありがとう、って言ってくれたあなたに、お礼を言い返そうとして、言葉が出なくなった。
ただ、哀しくて、寂しくて。
涙が溢れた。
「どうしたの?」
慌てて覗き込んだあなたに、駄々を捏ねるように首を振る。
なんて言えばいいのか分からない。
「寂しがってくれるの?大丈夫、また会えるんだから」
そう声を掛けてくれるあなたに、首を振る。
そう今日が終われば、あなたは私の助言者からも卒業してしまうつもりだから。
名前だけでも、指導してくれなくても、あなたのメンティであることは、私の最後の砦だった。
私を支えていたものが、去ってしまう。
こんなことなら。
もっと我儘言っておけば良かった。
もっと迷惑をかけておけば良かった。
もっと心配をかけておけば良かった。
そんな気持ちが溢れて止まらない。
「どうして、そんなに泣いてるの?」
優しい声に、ようやく一言返した。
「もっと、もっと沢山、教えて欲しかったです」
その言葉に、何を勘違いしたのか、あなたは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。不甲斐ない先輩で」
違う。そうじゃない。
言いたい言葉が纏まらず、ただ涙だけが溢れてしまう。
「何か出来ることあるかな?私で出来ること。そんな顔を楓にされたら、卒業できないよ」
宥める声に、言葉に、私は縋った。
卒業しても、繋がりが欲しかった。
特別な繋がりが。
「じゃあ、お姉さまって呼んでもいいですか?」
「え?これから?なんか今更じゃない?」
驚いた声に、言葉を返せなくて。
ただ言葉を詰まらせていたら、唸ってから答えた。
「まぁ、助言者らしいこと、大してしてあげれなかったもんね。それで納得するなら、いいよ。あーでも。楓も大学に来て陸上部入るんでしょ?それまでね」
渋々頷いた様子に、私はすごく不細工な笑顔を浮かべた。
いつも通りの表情で見送ろうと思っていたのに、私はそれが出来なかった。
柄でもないのは分かっている。
私は陸上部の中でも身長が高く、体つきもガッシリしている。
後輩も厳しく指導もするし、自分の練習もハードにこなす。
だからこそ、頼もしい後輩として先輩を見送ってあげるのが『緋村楓』だと思われていて当然だし、そのつもりだった。
私の助言者である今田智子先輩は、いつも笑顔で後輩を明るく励ましてくれる上級生で、私は常葉学園の陸上部に入って、すぐ大好きになった。
「凄いね。頑張ってるじゃない」
そう言って満面の笑みで褒めてくれるその人の言葉で、練習はやりがいを増す一方だった。
「楓はしっかりしてるから、私が何か教えなくても大丈夫だね」
そう言って誇らしげな顔をするその人の言葉で、私は外見通りしっかりして、それを当然だと思っている手のかからない後輩を演じた。
でも本当は、あなたが認めてくれ褒めてくれること、それが嬉しくて仕方なかった。
「うちの家系は代々『お姉さま』って呼ばせてるみたいだけど、面倒だよね。
楓はそんなふうに呼ばなくていいよ」
「そうだなぁ。私的には、ともちゃんとか、フランクに呼んで欲しいけど」
「ええ?ダメなの?仕方ないな。智子さんでも良いよ。先輩は辞めてね。楓みたいに私より大きい子に『先輩』なんて呼ばれるの恥ずかしいもん」
いつも楽しそうに笑う、その笑顔が好きだった。
「楓。私ね、三年生の間は生徒会を手伝うことになったの」
「春の大会で陸上部は引退みたいなものだし。楓を指導する時間は減っちゃうけど、まぁしっかりしてるから大丈夫だよね」
「なんか楓、一年生の指導が上手らしいね。評判になってるよ」
生徒会の仕事に専念し始めて、あなたは私の手を離したようになった。
私は心細くて、寂しくて、でもそんなことは言えなくて。
本当は他の子みたいに、お姉さまって呼んで甘えてみたり、叱られてみたりしたかった。
らしくないのは承知しているが、私の弱い部分を支えているのは、間違いなくあなただった。
そんな気持ちが積み重なっていって。
卒業式の日。
自分とペアになってくれてありがとう、って言ってくれたあなたに、お礼を言い返そうとして、言葉が出なくなった。
ただ、哀しくて、寂しくて。
涙が溢れた。
「どうしたの?」
慌てて覗き込んだあなたに、駄々を捏ねるように首を振る。
なんて言えばいいのか分からない。
「寂しがってくれるの?大丈夫、また会えるんだから」
そう声を掛けてくれるあなたに、首を振る。
そう今日が終われば、あなたは私の助言者からも卒業してしまうつもりだから。
名前だけでも、指導してくれなくても、あなたのメンティであることは、私の最後の砦だった。
私を支えていたものが、去ってしまう。
こんなことなら。
もっと我儘言っておけば良かった。
もっと迷惑をかけておけば良かった。
もっと心配をかけておけば良かった。
そんな気持ちが溢れて止まらない。
「どうして、そんなに泣いてるの?」
優しい声に、ようやく一言返した。
「もっと、もっと沢山、教えて欲しかったです」
その言葉に、何を勘違いしたのか、あなたは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。不甲斐ない先輩で」
違う。そうじゃない。
言いたい言葉が纏まらず、ただ涙だけが溢れてしまう。
「何か出来ることあるかな?私で出来ること。そんな顔を楓にされたら、卒業できないよ」
宥める声に、言葉に、私は縋った。
卒業しても、繋がりが欲しかった。
特別な繋がりが。
「じゃあ、お姉さまって呼んでもいいですか?」
「え?これから?なんか今更じゃない?」
驚いた声に、言葉を返せなくて。
ただ言葉を詰まらせていたら、唸ってから答えた。
「まぁ、助言者らしいこと、大してしてあげれなかったもんね。それで納得するなら、いいよ。あーでも。楓も大学に来て陸上部入るんでしょ?それまでね」
渋々頷いた様子に、私はすごく不細工な笑顔を浮かべた。
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