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第一章 4月
お姉さまの足跡 ★1★
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「たのもーう」
学校が始まってから二週目のお休み。
夕方というにはまだ早い時間に、寮の柚鈴の部屋を訪ねてきたのは、幸だった。
朝の朝食時に見かけたままの、よそ行きの花柄のワンピース着ていて、沢山荷物を持っている。
憂鬱そうに、『今日は何時に帰れるやら』と呟いていたのを思い出した。
「あれ?今日は朝から出かけてたんじゃないの?帰りは夜かと思った」
そう言いながら招き入れると、幸は勉強道具とCD-ROM、大きな封筒を、柚鈴の机に置いて広げた。
ワンピースがシワにならないか、ちょっと心配になったが、幸の大きなため息を聞いて、一先ず黙っておくことにする。
「もう、大変だったの、今日は」
机に置いた荷物の中からCD-ROMをはい、と渡される。
受け取ると、幸はそのまま柚鈴のイスに座りこんだ。
「弥生ちゃんが、写真取りに来いって朝から呼び出して来たの」
「あぁ」
ぽんと、幸の従姉の顔が目に浮かぶ。
入学式の日に写真を撮ってくれた人だ。
あの日は、やたら写真に熱心な人としか思わなかったけど、幸の疲れ具合はひどく、どうしたのだろうか。
「ということは、これ、入学式の写真のデータ?」
CD-ROMを見せて聞くと、幸は大きく頷いて、疲れた疲れたと一度机に上に頭を伏せた。
「それを餌に私と遊んだり、学園の中を探ろうという魂胆なんだから、本当に困っちゃうよ。この間の入学式でも大変だったんだから。可愛いコ紹介してとか、弥生ちゃん、中身オジサンなんだもん」
愚痴の中身が、色々と意味深である。
気になる言葉はいくつもあったが、とりあえず無難なものから聞き返した。
「学園の中を探ろうって、何??」
「可愛いコ好きなの、弥生ちゃん。雑誌関係の仕事してて、東京美少女図鑑みたいなの作りたい、とか、結構本気で言ってるの。入学式も写真撮影の後、手当たり次第可愛いコに話しかけようとして、大変だったんだよ」
「び、美少女図鑑?」
驚いて声が大きくなってしまう。
美少女図鑑を作りたいとは、あの日みた「弥生さん」のイメージからは遠い。
幸は疲れたように頷いてから、封筒から写真を取り出した。
「今、弥生ちゃんは、この謎のお姉さんと柚鈴ちゃんに興味津々なんだよ」
見せられたのは、入学式での校門の前の写真。
CD-ROMのデータのものだろう。
かなりの枚数で、どれもとても写りが良かった。
携帯のカメラで撮ってもらった写真も、本当にどれも綺麗に撮れていたが、これは全く別物と言える。
中には、いつ撮ったのか柚鈴が髪の癖を直しているのを、にっこりと笑って見つめている志奈さんもいて、光の加減かとても仲よさそうに見えた。
このまま雑誌に載っていても、おかしくないと思える程の出来栄えだ。
これ、なんかスゴイ。
なんだか自然に姉妹として傍にいる雰囲気で、感動してしまった。
「これ、良いね。こんなに素敵にとってくれるなんて思わなかった」
思わず目を輝かせながら言うと、幸は嬉しそうに笑う。
「うん。弥生ちゃんは、写真はスゴイよね」
写真は、という言い方は捻くれているが、自慢に思っているのは間違いなさそうだ。
「雑誌の仕事をしているんだっけ?写真を撮る人なの?」
「弥生ちゃんは編集者なんだよ。街ナビみたいな雑誌を作っているの。写真は完全に趣味なんだって。大学のサークル時代からやってて、好きな物を自由に撮るには趣味が一番だって良く言ってるんだ」
そう言ってから、なにやら思い出したらしく、疲れたような顔になって言葉を繋げる。
「このお姉さんなんて美人だから、弥生ちゃんがお近づきになりたいなりたいって大変だったんたよ」
あの日の弥生さんを思い出して、柚鈴は首を傾げた。
学校が始まってから二週目のお休み。
夕方というにはまだ早い時間に、寮の柚鈴の部屋を訪ねてきたのは、幸だった。
朝の朝食時に見かけたままの、よそ行きの花柄のワンピース着ていて、沢山荷物を持っている。
憂鬱そうに、『今日は何時に帰れるやら』と呟いていたのを思い出した。
「あれ?今日は朝から出かけてたんじゃないの?帰りは夜かと思った」
そう言いながら招き入れると、幸は勉強道具とCD-ROM、大きな封筒を、柚鈴の机に置いて広げた。
ワンピースがシワにならないか、ちょっと心配になったが、幸の大きなため息を聞いて、一先ず黙っておくことにする。
「もう、大変だったの、今日は」
机に置いた荷物の中からCD-ROMをはい、と渡される。
受け取ると、幸はそのまま柚鈴のイスに座りこんだ。
「弥生ちゃんが、写真取りに来いって朝から呼び出して来たの」
「あぁ」
ぽんと、幸の従姉の顔が目に浮かぶ。
入学式の日に写真を撮ってくれた人だ。
あの日は、やたら写真に熱心な人としか思わなかったけど、幸の疲れ具合はひどく、どうしたのだろうか。
「ということは、これ、入学式の写真のデータ?」
CD-ROMを見せて聞くと、幸は大きく頷いて、疲れた疲れたと一度机に上に頭を伏せた。
「それを餌に私と遊んだり、学園の中を探ろうという魂胆なんだから、本当に困っちゃうよ。この間の入学式でも大変だったんだから。可愛いコ紹介してとか、弥生ちゃん、中身オジサンなんだもん」
愚痴の中身が、色々と意味深である。
気になる言葉はいくつもあったが、とりあえず無難なものから聞き返した。
「学園の中を探ろうって、何??」
「可愛いコ好きなの、弥生ちゃん。雑誌関係の仕事してて、東京美少女図鑑みたいなの作りたい、とか、結構本気で言ってるの。入学式も写真撮影の後、手当たり次第可愛いコに話しかけようとして、大変だったんだよ」
「び、美少女図鑑?」
驚いて声が大きくなってしまう。
美少女図鑑を作りたいとは、あの日みた「弥生さん」のイメージからは遠い。
幸は疲れたように頷いてから、封筒から写真を取り出した。
「今、弥生ちゃんは、この謎のお姉さんと柚鈴ちゃんに興味津々なんだよ」
見せられたのは、入学式での校門の前の写真。
CD-ROMのデータのものだろう。
かなりの枚数で、どれもとても写りが良かった。
携帯のカメラで撮ってもらった写真も、本当にどれも綺麗に撮れていたが、これは全く別物と言える。
中には、いつ撮ったのか柚鈴が髪の癖を直しているのを、にっこりと笑って見つめている志奈さんもいて、光の加減かとても仲よさそうに見えた。
このまま雑誌に載っていても、おかしくないと思える程の出来栄えだ。
これ、なんかスゴイ。
なんだか自然に姉妹として傍にいる雰囲気で、感動してしまった。
「これ、良いね。こんなに素敵にとってくれるなんて思わなかった」
思わず目を輝かせながら言うと、幸は嬉しそうに笑う。
「うん。弥生ちゃんは、写真はスゴイよね」
写真は、という言い方は捻くれているが、自慢に思っているのは間違いなさそうだ。
「雑誌の仕事をしているんだっけ?写真を撮る人なの?」
「弥生ちゃんは編集者なんだよ。街ナビみたいな雑誌を作っているの。写真は完全に趣味なんだって。大学のサークル時代からやってて、好きな物を自由に撮るには趣味が一番だって良く言ってるんだ」
そう言ってから、なにやら思い出したらしく、疲れたような顔になって言葉を繋げる。
「このお姉さんなんて美人だから、弥生ちゃんがお近づきになりたいなりたいって大変だったんたよ」
あの日の弥生さんを思い出して、柚鈴は首を傾げた。
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