拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
26 / 282
第一章 4月

お姉さま、入学式です ★2★

しおりを挟む
「柚鈴ちゃん、おはよう」
学園に着くと、明るい声で近づいて来たのは、花奏かなでだった。
「おはよう」
挨拶を返すと、花奏はふんふんと柚鈴の制服姿を眺める。
「流石に寮生はしっかり制服着てるなぁ。朝から上級生に身だしなみを見て貰ったんでしょう?」
「良く知ってるね」
「うん。入学式の寮の伝統でしょう?ひとみお姉さまが羨ましがってたからね」
『ひとみお姉さま』
そう呼ぶ習慣は、花奏の家系ではないはずなのだが、どうも本人が好んで勝手に呼んでいるらしい。
一応、遥先輩の知らない所だけで、そうしているみたいだが、常葉学園の制度を最大限に楽しんでいる様子の花奏を叱る人は、いない気もしている。
なんとなく花奏のセーラー服を眺めると。
襟元には、銀のバッチが飾られている。
片翼のデザインだ。

「それ」
「へへ。昨日始業式だったでしょう?助言者メンターのバッチを頂いたからって早速昨日いただいちゃった」
花奏は見せびらかすように、くるりと回って見せる。
「学園からのペアの認定も降りたってこと?」
「前持って、先生方には話を通してたもの。もちろん一番乗りだよ」
ピースサインで笑っていると、一緒に歩いていた幸も覗き込んだ。
「うわぁ、これが助言者メンター制度のバッチなんだ。いいなぁ、素敵」
既に寮で顔見知りになっていた花奏なので、幸も遠慮なくバッチを見せてもらう。
薫はさして興味なさそうだ。

助言者メンター制度のバッチと言えば、あれから陸上部の先輩からのお誘いはどうしたんだろう。
日々の忙しさで、すっかり忘れていた。
気になって見上げてると、気づいた薫はニヤリと笑った。
「何?見惚れてんの?」
皮肉げな物言いは薫の得意分野だ。
柚鈴もいい加減慣れた頃だった。
「うん。さすが先輩方、薫が美形に見えるなぁって」
にっこり笑って、言い返すと
「言うねえ」
薫はにぃっと笑ってから、満更でもなさそうな顔をする。
セーラー服の柄では決してないのだが、髪を整えられた薫はなんだか凛々しいのは確かだった。
同級生や、もしかしたら下級生のにもファンが出来るかもしれない。

「ほら、あんたらいい加減進むよ」
薫は、いつまでたってもバッチの話に花が咲いてる花奏と幸に声を掛けて、進ませる。
のんびり気味の幸を急かすのは、薫の日課みたいになっている。
はあい、と良い返事が返って、校門を進むと、そこに常葉学園の校舎。

古さも歴史もある常葉学園の校舎は、赤茶色の煉瓦造り。
時計台があり、歴史を感じさせるくすんだ深緑の屋根が逆に大きな洋館のお屋敷に来たような印象を与える。
なんだか映画のワンシーンに出てきそうな、うっとりとするほど美しい建物だ。
受験や入学説明会でも来たのだが、入学式となるとやっぱり気分が違った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...