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第四章 6月
オトウサン・お父さん ★2★
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色々、受け入れがたい響きの言葉が聞こえた気がする。
…反芻はしない、けど。
良く見れば、オトウサン。
今日は藍色のジャケットに白とピンクのストライプシャツ、更に白のカジュアルパンツを合わせて更に白の帽子、なんというか非常にオシャレだ。
中年体型、と言うには、まあそこそこにスラリとしているから、余計そう感じるのかもしれないが。
とにかく、柚鈴が今まで見てきた顔合わせや仕事へ行くためのスーツや、シンプルで生活感のある普段着よりもちゃんとお出かけ用、と言った感じ。
柚鈴が少しダボついた感じのギンガムチェックワンピースでお出迎えするのが申し訳ない程度に、選んできました感があった。
ま、まあ、確かに。
デートと言われれば、デートなのかもしれない。
申し訳ないほどにそこになんの感情も生まれてこない。
つまり柚鈴の方は全く感動はないのだけど、一応合わせておくように努力する。
「な、なんだか申し訳ないほどおしゃれされてます、ね?」
努力の限界で、全く可愛げのない言い方になったが、それはさておき。
その着こなしに触れると、オトウサンは嬉しそうにニコニコと笑った。
「うん。今日は志奈が選んでくれたんだ」
「志奈さんがですか?」
「そう。長女が選んだ洋服で次女とデート。父親冥利に尽きるよね」
柚鈴とは対照的に、妙に感慨の籠った言い方をするオトウサンだが、柚鈴はその名前が出るとそちらの方が気になってしまった。
「志奈さん…」
「ん?」
口に出た言葉に、何を続けるべきか自分でも分からなくなり、柚鈴は慌てて適当につないだ。
「志奈さん、よくついてきませんでしたね」
「え?」
「ついてきそうじゃないですか」
柚鈴が呟いた言葉に、オトウサンはニコリというかニヤリというか、絶妙な笑みを浮かべた。
ああ、これはもしや。
出かけに、志奈さんの拗ねたか不満げな反応があって、それが実に楽しかった、という顔だろうか。
…予想通りだったら、次の言葉はない。
知ってはいるけれど、オトウサンは中々食わせ物なのだ。
藪蛇になりそうなことはしたくなかった。
お父さんも敢えてそこには深くは触れなかった。
「選びたくない気持ちもあっただろうけど、まあ柚鈴ちゃん相手だったから姉として頑張ってくれたよ。どう?志奈セレクトは似合うかい?」
「…」
くるりと一周してみせるオトウサンに、とうとう柚鈴は言葉を失った。
志奈さんも問題児だが、この人も大概だ。
「柚鈴ちゃんの父親として、恥じない程度であれば嬉しいと思うのだけどねえ」
さあ、褒めて!という信号をなるだけ受信しないように、柚鈴はさりげなく目線を逸らした。
「そ、そのレベルをお求めであれば、全く問題ありません」
「更に欲を言えば、記念すべき二人の初のお出かけの思い出を美しく彩ってくれればいいねえ」
美しく…
何を言ってるのか、この人は、と柚鈴は頭痛を感じる。
そんな他愛無い会話さえ楽しいとでも言うように。
にっこり笑われて、ドアを開けられて助手席へと促された。
一瞬後部座席に行きたいと思って視線をそちらに向けたが、オトウサンに首を振られる。
…察しはいいけれど、全く譲ってくれない人だ。
諦めて、助手席に乗り込むと、オトウサンはゆっくりとドアを閉めた。
…この扱いがまず慣れない。
しかしながら、今日のミッションをこなすまで。
柚鈴には逃げ道がないのだ。
そう父の日の課題。
オトウサンのお洋服選び…
急にそのことが有名大学の受験よりも、遥かに難しそうな気がした。
そんなことを口にしても。
じゃあこの先の受験が楽だねえ、とでも言われそうで。
柚鈴は無心になろうと目を細めた。
…反芻はしない、けど。
良く見れば、オトウサン。
今日は藍色のジャケットに白とピンクのストライプシャツ、更に白のカジュアルパンツを合わせて更に白の帽子、なんというか非常にオシャレだ。
中年体型、と言うには、まあそこそこにスラリとしているから、余計そう感じるのかもしれないが。
とにかく、柚鈴が今まで見てきた顔合わせや仕事へ行くためのスーツや、シンプルで生活感のある普段着よりもちゃんとお出かけ用、と言った感じ。
柚鈴が少しダボついた感じのギンガムチェックワンピースでお出迎えするのが申し訳ない程度に、選んできました感があった。
ま、まあ、確かに。
デートと言われれば、デートなのかもしれない。
申し訳ないほどにそこになんの感情も生まれてこない。
つまり柚鈴の方は全く感動はないのだけど、一応合わせておくように努力する。
「な、なんだか申し訳ないほどおしゃれされてます、ね?」
努力の限界で、全く可愛げのない言い方になったが、それはさておき。
その着こなしに触れると、オトウサンは嬉しそうにニコニコと笑った。
「うん。今日は志奈が選んでくれたんだ」
「志奈さんがですか?」
「そう。長女が選んだ洋服で次女とデート。父親冥利に尽きるよね」
柚鈴とは対照的に、妙に感慨の籠った言い方をするオトウサンだが、柚鈴はその名前が出るとそちらの方が気になってしまった。
「志奈さん…」
「ん?」
口に出た言葉に、何を続けるべきか自分でも分からなくなり、柚鈴は慌てて適当につないだ。
「志奈さん、よくついてきませんでしたね」
「え?」
「ついてきそうじゃないですか」
柚鈴が呟いた言葉に、オトウサンはニコリというかニヤリというか、絶妙な笑みを浮かべた。
ああ、これはもしや。
出かけに、志奈さんの拗ねたか不満げな反応があって、それが実に楽しかった、という顔だろうか。
…予想通りだったら、次の言葉はない。
知ってはいるけれど、オトウサンは中々食わせ物なのだ。
藪蛇になりそうなことはしたくなかった。
お父さんも敢えてそこには深くは触れなかった。
「選びたくない気持ちもあっただろうけど、まあ柚鈴ちゃん相手だったから姉として頑張ってくれたよ。どう?志奈セレクトは似合うかい?」
「…」
くるりと一周してみせるオトウサンに、とうとう柚鈴は言葉を失った。
志奈さんも問題児だが、この人も大概だ。
「柚鈴ちゃんの父親として、恥じない程度であれば嬉しいと思うのだけどねえ」
さあ、褒めて!という信号をなるだけ受信しないように、柚鈴はさりげなく目線を逸らした。
「そ、そのレベルをお求めであれば、全く問題ありません」
「更に欲を言えば、記念すべき二人の初のお出かけの思い出を美しく彩ってくれればいいねえ」
美しく…
何を言ってるのか、この人は、と柚鈴は頭痛を感じる。
そんな他愛無い会話さえ楽しいとでも言うように。
にっこり笑われて、ドアを開けられて助手席へと促された。
一瞬後部座席に行きたいと思って視線をそちらに向けたが、オトウサンに首を振られる。
…察しはいいけれど、全く譲ってくれない人だ。
諦めて、助手席に乗り込むと、オトウサンはゆっくりとドアを閉めた。
…この扱いがまず慣れない。
しかしながら、今日のミッションをこなすまで。
柚鈴には逃げ道がないのだ。
そう父の日の課題。
オトウサンのお洋服選び…
急にそのことが有名大学の受験よりも、遥かに難しそうな気がした。
そんなことを口にしても。
じゃあこの先の受験が楽だねえ、とでも言われそうで。
柚鈴は無心になろうと目を細めた。
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