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第七章
瑞々しく咲く華とならむ 6
しおりを挟む九条家にて。
華屋の細かい作業は、引き継ぎを済ませ、九条風人の仕事は終了。
弥生への協力は、瑞華の大学卒業までを改めて約束して。
九条の次期様と、風人の二人が揃う応接室で。 雪乃のお茶を頂きながら、決めていたことを切り出した。
「風人さんには、私が出来る以上のことをして頂いたと思ってます」
柔らかい、お得意の笑顔に。頂いた紅茶で身体が潤うのを感じた。
大丈夫、迷わない。
ここに来るまでに、自分のすべきことが何か、一番後悔しない答えを、何度も迷った上で持ってきていた。
もう充分考え抜いてきた。
「ですから、花宮の娘としては、九条の娘でも妹でも、お話はお受けしようと思います」
気持ちは静かだった。
「だからこれは個人的なお願いです」
――九条風人さんと自分との関係の話はなかったことにして欲しい。
九条風人のおかげで、華屋は再生へのスタートラインに立つことが出来た。
それも瑞華の成果が大きい、と華屋社長である父がきちんも認めてくれた。
だから、嘘をついてまで援助を頂く必要はなくなったのだ。
今後は多少の提携をもし頂ければありがたいし、既にお礼としては貰いすぎるほど頂いている。
だから。
九条風人を瑞華の相手として考えてるなどという詭弁は、必要ないはずだ、と。
そのお願いは。
―――聞き入れて貰えることになった。
帰宅に、迎えに来ている花宮の車まで送ってくれた九条風人に向き直った。
大学で遠くから見ていた頃とは違う。
こんなにも近くにいれて会話ができていることが、とても嬉しかった。
だから、誇れるようにもなりたかった。
「私、イロイロ経験してみます。
せっかくなんで、色々な人と出掛けてみたり。デートしてみたり。
華屋を、もう手放しませんから」
「うん、頑張ってね。瑞華ちゃん」
風雅公の華やかな笑顔と言葉は優しかった。
瑞華ちゃん。
でも一瞬、泣きたくなった。
もう「瑞華」と呼ばれることはない。
だが、これは瑞華にとって最初の一歩。
意地だった。
花宮としての結婚はしない。
ちゃんと、好きな人に素直になれるように。
だから、瑞華個人として恋愛するための一歩。
「風人さん」
人を魅了する穏やかで裏を見せない笑顔。
いや、裏のない無邪気な柔らかさで。
素直な気持ちを伝えることにした。
「私、嬉しかったです。風人さんに懸想されてる役回り。
......本当なら良かった」
少しばかり、相手の目に驚きが浮かんだのを見届けて、ふわりと笑った。
「では、ごきげんよう」
軽く頭を下げて、後は振り向かず車に乗り込んだ。
――動き出す車の中で小さく振り返り、雅なる形を一瞬だけ心に留めた。
九条の敷地を抜ければ――
思いでに鞄にしまっている、クマのキーホルダーだけ――
残像の代わりに、
そのままに。
「言い逃げとは、参ったね」
立ち去る華の残り香をなぞるように、柔らかく吹く風を捕まえるように。
その雅なる人影は一度手を伸ばして、華やかに微笑んだ。
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