散華へのモラトリアム

一華

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第五章

空に咲く華 光は堕ちて 6

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「何?」
瑞華の様子に、弥生は目を丸くした。

「止めてください」
「ええ?」
「だって、別に風人さん、何が悪いわけでもなくて。ただ、私がちょっと期待し過ぎちゃっただけなんです」
「はあ…」
弥生は考え込むように、斜め上の辺りを見ながら一瞬黙った。
腕を組んで、首を傾げて見せる。

「いや、そう言う話なら。思うに、やっぱり放っておいても…」
「弥生さんっ」
瑞華が声を荒げても、どこ吹く風の弥生だ。
「兄弟喧嘩は、あ、いや。この場面は兄の制裁は、か。とにかく犬も喰わないという…」
「言いません!」
うーん、と弥生は考え込んだ。
短い髪を人差し指でクルクルと触りつつ、悩むポーズだけは作る。
「止める理由が、ないのよねぇ」
その様子から、やはり弥生には止めれるのだろうと確信した。
理由がないから止めないだけど、理由があれば止めてくれるのだ。
理由さえあれば。

その時。
弥生の後ろの夜景に、ひゅうう~と音がして、花火が上がり始めた。
いくつもの輝きが大輪の華のように空に散らばっていく。
その美しい光を見て、思わず瑞華が立ち上がった。

「弥生さん」
「ん?」
「私が風人さんと一緒に花火が見たいから、じゃダメですか?」
「え?」
「ここで風人さんと花火が見たいから、止めてください」
「...」

弥生は考えるように間を持たせてから、瑞華を見た。
「会いたくないんじゃなかったの?」
まっすぐに見つめられて、一瞬、瑞華は言い淀んだ。だが、小さく笑って繋げる。

「だって、花火ですよ?一緒に見たいじゃないですか」
少しばかりの寂しい思いが胸に宿ったが、瑞華は柔らかく微笑んだ。
その表情をみて、弥生は肩を竦めた。

「…ふふん。なるほどね。承りました」
弥生は、小さく笑みを浮かべて了承した。
「じゃあ、花火に間に合うように急がなきゃね」
「お願いします」
弥生が出ていくと打ち上がる花火を見つめて、その華やかさと大きな音に視線を寄せた。思いついて、部屋の明かりを消せば、外の輝きは一層増すように見えて、窓に進みよる。
光が大きく空に舞い、その美しさが誇るように空に咲いた。

その華々しさに、瑞華は意識を寄せた。
花火が散る様を儚いなどと、誰が思うだろうか。
その豪華な舞いに、人は皆、感嘆の声をあげるのだ。
空に咲く華は、咲き誇ると思われて、ただひたすらに美しい。
その散華の瞬間は、美でしかないのだ。


やがて。

静かに部屋の扉が開かれた。
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