後宮にて、あなたを想う

じじ

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155 黄貴妃の言葉

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決まり悪そうな皇帝に黄貴妃は優しく微笑みながら残酷な言葉を放った。

「陛下、まさか黄怜様のご両親を斬った直後に黄怜様がにこやかに話されるとでも思っていたのですか」
「いや、それは…」
「そんなことはあり得ないことくらいお分かりでしょう?」
「だが怜は…もっとあの両親に対して無関心かと思っていた」
「もしそのような方であれば、これほど陛下に真心こめて尽くされることはないでしょう」
「…」
「黄怜様のご両親は尊敬にあたう人物ではなかったかもしれません。ですが、だからと言って黄怜様がご両親が亡くなった直後に平然とされているような方だと思われたわけではありませんよね」
「…無理をしていたのだろうか」
「そこまでは分かりかねますが…ご自分の中で折り合いをつけたつもりのことでも現実になるとまた受け入れるのに時間がかかるのかもしれません」
「私は結局彼女を守りたいと思いながらも利用して傷つけてばかりいるんだな」

ぽつりと呟く皇帝に黄貴妃は笑みを崩さないまま答えた。

「そういうお立場でいらっしゃいますから。例えどれほど傷つけたくないと思っている方であっても、陛下のお立場であれば利用することが必要になる時も出てくるでしょう。その意味では今回の判断は正しかったと私は思います」
「…慰めてくれるとは珍しいな」
「本心です。それに私もそろそろ眠くなって参りましたので」

やんわり出ていくように催促されて皇帝は苦笑した。

「すまなかったな、明日黄怜を訪ねることにする」
「その場にいなかった私が申し上げることではないかもしれませんが…黄怜様の心がどちらに向いているのかを気にして差し上げて」
「どういうことだ」

意味ありげな黄貴妃の物言いに思わず皇帝は尋ねたが、黄貴妃はゆっくりと首を振った。

「ゆっくりお話を聞いてあげてください。それがきっと黄怜様にとって一番必要なことでしょうから」
「分かった。心がけよう」

それ以上の答えが得られないと分かると皇帝は鷹揚に頷いて出て行った。



「ゆっくり話を聞け、か。簡単に言ってくれる」

黄貴妃の部屋を後にした皇帝は、自室に戻りながら思わず独りごちた。黄貴妃の言葉はいちいち正しいが、今回だけは黄怜が話してくれないことにはどうにもならないという思いが頭をよぎる。
何も話してくれない場合のことも聞いておけば良かった。そんな後悔が一瞬よぎったあと、自分の情けなさに気づき、自嘲気味にふっと笑った。
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