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153 最後の会話
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「民に犠牲が出る前に、そうお伝えしたのです」
「ふざけるな、お前などいなくても死ぬ者などおらぬわ!」
悲しげにふっと笑って黄怜は続けた。
「その認識であるなら私の判断は間違っていなかったようです。もうあなた達がその地位にいることは、この国にとってもこの領地の民にとっても害悪でしかありません。どうかこれ以上見苦しいことはなさらないで」
「実の親によくもそのようなことを…」
「私はすでに黄家の人間です。そのような言葉は意味がありません」
瞬間、両親の顔に浮かんだのは絶望の表情だった。それを見ても表情を変えることなく黄怜は淡々と続けた。
「他に仰りたいことがないのであれば…」
「どうか命は助けてください」
黄怜の言葉を遮るように父親が平伏して皇帝に命乞いをした。母親もそれに倣っている。言葉を無くした黄怜に父親は畳み掛けるように続けた。
「皇帝陛下へ申し上げた皇后陛下のことは全て偽りでございます。その非は認めますからどうか命だけは…領地も返還いたします、貴族の身分も剥奪して頂いて構いませんから…」
命乞いする両親を複雑な面持ちで眺める黄怜を一瞬見やった後、皇帝は静かな声で告げた。
「悪いが将来に禍根を残すような真似はできない…皇后、蔡家の夫妻に話したいことがあれば、これで最後だ。言いたいことがあれば今言うとよい。」
「はい…あなた達の望むような娘になれなかったこと、お詫びします。ですが私は…正しいと信じた道を歩きます」
静かに最後の言葉を述べる娘に両親は自分たちの運命をようやく悟ったらしい。それまでの様子から一転して皮肉げに笑った。
「そこまでして私達を恨んでいたか…いや、その男の役に立ちたかったか。お前、なにか企んでいるだろう?ここでの生活や領民のことが私達を陥れた本当の理由ではないはずだ…お前はやはり私達の娘だな。己のことを一番に考えずにはいられない。くくっ、お前が嫌っていた私達と今のお前はそっくりだ!」
「斬れ」
皇帝のその一言で側近の者によって、両親の首は刎ねられた。
黄怜はその様子を見届けたあと、静かに踵を返すと馬車に乗り込んだ。
「すまなかった。結局あなたに辛い思いをさせてしまった。」
後から乗り込んできた皇帝に真摯な声音で告げられて黄怜は小さく首を横に振った。
「あなたを彼らの恨みの矛先にしないと言っていたのに…すまない」
重ねて謝られて黄怜は再度首を振った。
「いいえ。私が望んだことですから。それに結局、あの人たちの言うとおり私も両親と同じ側の人間だったのだと思います」
「どう言う意味だ」
冷えた声で皇帝が尋ねる。その言葉に自分に対する微かな怒りが含まれているのを感じ取り黄怜は微かな苦笑を浮かべた。
「己のためなら他者の心…いえ命すら平気で利用できる。私も両親のことを責められません」
「それは私が求めたことだ!あなたが負うべき責ではない」
「いいえ。提案したのも両親の命を差し出しす決断をしたのも私です」
「だがそれは国を憂いてのことだ。あなたの両親の死を利用することもひいては国の安寧のためだ」
その言葉に黄怜はふっと自嘲するような笑みを浮かべた。
「分かりません」
一言ぽつりと呟くように答えるとその後の馬車は気まずい沈黙で覆われた。
「ふざけるな、お前などいなくても死ぬ者などおらぬわ!」
悲しげにふっと笑って黄怜は続けた。
「その認識であるなら私の判断は間違っていなかったようです。もうあなた達がその地位にいることは、この国にとってもこの領地の民にとっても害悪でしかありません。どうかこれ以上見苦しいことはなさらないで」
「実の親によくもそのようなことを…」
「私はすでに黄家の人間です。そのような言葉は意味がありません」
瞬間、両親の顔に浮かんだのは絶望の表情だった。それを見ても表情を変えることなく黄怜は淡々と続けた。
「他に仰りたいことがないのであれば…」
「どうか命は助けてください」
黄怜の言葉を遮るように父親が平伏して皇帝に命乞いをした。母親もそれに倣っている。言葉を無くした黄怜に父親は畳み掛けるように続けた。
「皇帝陛下へ申し上げた皇后陛下のことは全て偽りでございます。その非は認めますからどうか命だけは…領地も返還いたします、貴族の身分も剥奪して頂いて構いませんから…」
命乞いする両親を複雑な面持ちで眺める黄怜を一瞬見やった後、皇帝は静かな声で告げた。
「悪いが将来に禍根を残すような真似はできない…皇后、蔡家の夫妻に話したいことがあれば、これで最後だ。言いたいことがあれば今言うとよい。」
「はい…あなた達の望むような娘になれなかったこと、お詫びします。ですが私は…正しいと信じた道を歩きます」
静かに最後の言葉を述べる娘に両親は自分たちの運命をようやく悟ったらしい。それまでの様子から一転して皮肉げに笑った。
「そこまでして私達を恨んでいたか…いや、その男の役に立ちたかったか。お前、なにか企んでいるだろう?ここでの生活や領民のことが私達を陥れた本当の理由ではないはずだ…お前はやはり私達の娘だな。己のことを一番に考えずにはいられない。くくっ、お前が嫌っていた私達と今のお前はそっくりだ!」
「斬れ」
皇帝のその一言で側近の者によって、両親の首は刎ねられた。
黄怜はその様子を見届けたあと、静かに踵を返すと馬車に乗り込んだ。
「すまなかった。結局あなたに辛い思いをさせてしまった。」
後から乗り込んできた皇帝に真摯な声音で告げられて黄怜は小さく首を横に振った。
「あなたを彼らの恨みの矛先にしないと言っていたのに…すまない」
重ねて謝られて黄怜は再度首を振った。
「いいえ。私が望んだことですから。それに結局、あの人たちの言うとおり私も両親と同じ側の人間だったのだと思います」
「どう言う意味だ」
冷えた声で皇帝が尋ねる。その言葉に自分に対する微かな怒りが含まれているのを感じ取り黄怜は微かな苦笑を浮かべた。
「己のためなら他者の心…いえ命すら平気で利用できる。私も両親のことを責められません」
「それは私が求めたことだ!あなたが負うべき責ではない」
「いいえ。提案したのも両親の命を差し出しす決断をしたのも私です」
「だがそれは国を憂いてのことだ。あなたの両親の死を利用することもひいては国の安寧のためだ」
その言葉に黄怜はふっと自嘲するような笑みを浮かべた。
「分かりません」
一言ぽつりと呟くように答えるとその後の馬車は気まずい沈黙で覆われた。
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