後宮にて、あなたを想う

じじ

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147 鏡に映る姿

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いつもは饒舌な奏輝も流石に口数少なく黄怜の支度を整え始めた。
黄怜が言わずとも、黒に染められた正絹の正装を用意した奏輝になんとも言えない複雑な気持ちが湧き上がる。

「それ…」

思わず口に出した黄怜に、奏輝は俯いて悲しげに答えた。

「黄怜様…ご気分を害されたなら申し訳ございません。ですが今日はこのお色目が…」
「ええ…そうね。当然だわ…ごめんなさい」
「そんな」

その後の言葉を飲み込んで奏輝は、また唇を引き結んで髪を結い始めた。常ならば、あと二、三人の侍女と楽しく黄怜を飾り立てる奏輝が、一人で黙々とこなす様が自分への気遣いだと気づき黄怜はなんとか奏輝に微笑みかけた。

「ありがとう。あなたのおかげで心穏やかでいられるわ」

その言葉を聞くと奏輝は目に涙を溜めたまま首を横に振った。
しばらくして、小さい声で奏輝はお支度整いました、と呟いた。
鏡に映る自分は常とは異なった様相だ。
華美にならないように結い上げられた髪に、薄く施された化粧、そして黒一色の正装が明らかに喪に服していることを示している。
いつもの華やかな格好よりも自分には似合っている気がして黄怜は思わず苦笑した。

「どこかお気に召さない点でもございましたか」

狼狽えたように聞く奏輝に黄怜は優しく笑んだ。

「いいえ。大丈夫よ。下がっていいわ」

労うように黄怜が声をかけると奏輝は静かに頷いて部屋を出て行った。
入れ替わるように皇帝が黄怜のもとを訪れた。

「待たせたな。今から出られるか」

部屋を入ってきた皇帝は普段と変わらない格好だったので、黄怜は一瞬驚いたように皇帝を見つめた。
黄怜の視線の先にある疑問に気づいた皇帝は申し訳なさそうに答えた。

「すまないな、一貴族を死罪にするためだけに私は正装を着用することはできない」

困ったように言われて、黄怜は自分こそが特別に正装の着用を認められたのだと初めて気づいた。深々と頭を下げると皇帝は苦渋に満ちた表情で続けた。

「私の治世を守るためにあなたの両親に礼を尽くせず申し訳ない」
「いいえ、そのお気持ちだけで充分でございます」

そう答えると一拍おいて黄怜は穏やかな声で続けた。

「参りましょう。そろそろ出なければ蔡家の領地に着くのが遅くなります」

ちらりと伺うように黄怜を見た皇帝だが、その瞳に揺るぎない意志が宿っているのを見て頷いた。

「そうだな。よろしく頼む」
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