後宮にて、あなたを想う

じじ

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142 恨みの矛先

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黄怜は瞳に涙を溜めたまま続けた。

「だから陛下が心を痛められる必要はございません」

黄怜の表情を見て、皇帝はぐっと眉根を寄せた。

「あなたには本当に嫌な思いばかりさせてしまっているな」

黄怜は小さく首を振ると皇帝に答えた。

「いいえ。お役目を与えて頂けたこと今となっては感謝してもしきれません。それと陛下にお願いがございます。両親に私から説明させて頂けませんか」
「それは…」

答えに詰まった皇帝に黄怜は続けた。

「いきなり見知らぬ役人に捕らわれてもきっと抵抗するでしょう。それなら私から説明する方がよろしいかと」

強い決意が宿った瞳を見て、しかし皇帝は首を振った。

「すまないがそれはできない」
「私が両親に逃げるように進言するとお思いですか」

自嘲気味に尋ねた黄怜に皇帝は再び首を振る。

「まさか、そんなこと思うはずもない。君はきっと心を砕いて説明するだろう。彼らの今までの行いを精算するためにも、これからのこの国のためにもそれが一番だと」
「…」
「だが、そうすれば二人の恨みは君に向いてしまう。私の治世のための出来事にも関わらずだ。私は無実の臣民に死罪をくだす。だからその恨みや無念は私に向けられるべきだ」
「私の両親が陛下を恨むくらいなら私を恨んだまま逝ってほしいと思うのはわがままでしょうか」

ぽたりと黄怜が涙を落とすのを見て、皇帝は苦い感情が込み上げて来るのに気づいた。

「悪いがその願いは聞いてやれない」

そしてそのまま続けた。

「明日、あなたの実家に向かう…すまないな」

そのまま部屋を出ようととする皇帝に黄怜は叫んだ。

「それなら、私があなた達を陥れたのだ、とせめてそれだけはお伝えください!」

驚いたように振り返る皇帝に黄怜は続けた。

「どうかお願いします」

深々と頭を下げた黄怜から視線を逸らして皇帝は小さく呟くように答えた。

「状況次第では、な」


部屋に残された黄怜は、目元を荒く拭うと小さく溜め息を吐いた。

自室に戻ると心配そうな顔をした奏輝が出迎えた。

「黄怜様、大丈夫ですか」

黄怜の表情を見て思わず尋ねた奏輝に黄怜はこくりと頷いた。

「温かいお茶をご用意いたします」

手際よく淹れて黄怜の前に差し出した奏輝はそのまま静かに傍に控えた。しばらくお茶を見つめたまま身動きしなかった黄怜はふっと息を吐き出すとおもむろに奏輝に話し出した。

「私はやっぱりだめだわ。陛下を悲しませてしまったわ」
「何があったのですか」

尋ねた奏輝に黄怜は先ほどの話をかいつまんで話した。
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