後宮にて、あなたを想う

141 柔らかな苦笑

場にそぐわない皇帝の冗談に、黄怜と侍医は一瞬呆気に取られた。
そしてそれがこの話に終止符を打つためのものだと気づくと二人とも柔らかな微苦笑を浮かべた。

「陛下、勿体無いお言葉でございます」

深々と頭を下げた侍医に皇帝は鷹揚に頷いた。

「さて、この話はこれで終わりだ。州芳とともにこれからもよろしく頼む。但しこの部屋で話し合われたことは決して口外しないように。このことがもしも漏れることがあれば、その時こそ首が飛ぶぞ」

さらりと脅迫めいた言葉にぎょっとした黄怜だが、侍医も州芳も深く頷いた。

「決して陛下の治世を乱し皇后様の御身を危険に晒すようなことは致しません」

二人の真摯な様子に満足したようにもう一度頷いて皇帝はにやっと笑って二人に退室を許した。


部屋に残された黄怜と奏輝が、自分たちも退室すべきか迷っていると皇帝がからりとした口調で話しかけてきた。

「色々とすまなかったな」

まるでちょっとした遣いに対するような軽い謝罪に思わず黄怜が吹き出しそうになると、皇帝は目元を緩めた。
その表情を見て黄怜は気づいた。皇帝もまたこの瞬間を緊張していたということに。
黄怜は奏輝に先に部屋に戻っておくように伝えると、彼女は心配そうな表情を見せながらも素直に従った。

「気を遣わせてすまないな」

先ほどよりももう少し真剣味の感じられる声で謝る皇帝に黄怜はゆっくりと首を振って答えた。

「いえ、私も二人きりでお話しておきたいと思いましたから」
「あなたのおかげで後宮の妃達も近いうちに平穏を取り戻すだろう。そうなれば…」
「ええ。陛下は皆様のところに通わねばなりませんね」

冗談っぽく答える黄怜に皇帝はなんとも言えない表情をした。

「ですが、その前に両親への処遇ですよね。そうでなければ後宮の件は解決とはなりませんし。陛下もそのことをお話されたかったのでは？」
「相変わらずの勘の良さだな」

苦笑しながら皇帝は頷いた。そしてまっすぐ黄怜へと向き直るとそのまま黄怜の側へと歩み寄り、目の前で立ち止まった。黄怜が不思議そうな顔をするのと皇帝が深々と頭を下げるのはほとんど同時だった。

「陛下、何を…」
「あなたのご両親を無実の罪で裁くことをどうか許して欲しい」
「陛下そのことは前にもお話した通りです。確かに今回の件には関与しておりませんが、臣民として与えられたことを全うせずに領民の命を危険に晒していたのです。無実とは言えません。どうか頭を上げてください」

凛とした声で答えた黄怜の中に微かに悲しげな色を感じとり皇帝はそろりと頭を上げた。