後宮にて、あなたを想う

じじ

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124 陰謀

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「お祝いの品にお酒、ですか?」

きょとんとした表情で黄怜は問うた。婚約直後に祝うのが一般的とはいえ、少し間が空いてしまっていたとしても祝うこと自体は不思議ではない。
そう疑問に思った黄怜に、律佳は種明かしするように続けた。

「わざわざ周廉殿の家に着くのが夜になる頃を見計らって侍女を遣いにやったそうです。そしてお酒の感想もお聞きしてくるように、という言葉と共に。」
「それはまた…」
「ええ。持たされたのは陳家の領地の名産品だったので、仮にその言葉がなくとも渡された方も目の前で飲む必要があったのかもしれませんが…」
「ええ。」
「はい。ですが、周廉殿は屋敷にほとんどお一人でお住まいでしたので…若い娘にお酒を持たせて遅い時間に遣いというのは…」
「そうですね…妙な誤解を招きかねないですね。お一人で暮らされていたということは貴族ではないのでしょうか」
「はい。武官であらせられました。出自も詳しくは…ただ非常に有能な方だったそうですが」
「まあ…」
「屋敷にはほとんど寝に帰るだけだったそうで、通いの者はいても常に人がいる状態ではなかったそうです。
その日もお帰りになられたところに訪問したと聞きました。
最初は突然の来訪者に戸惑っておられた周廉様も、許嫁の主が祝いの品にお酒を贈ってきたとあれば無下にするわけにも参りません。遣いの侍女を屋敷にあげられたそうです。」
「ええ」
「侍女は酌をするふりをして、お酒の中に眠り薬を入れたそうです。急な眠気を感じた周廉様が寝所で寝てしまわれたところに潜り込み共寝をしたと、偽りを申し上げたそうです」
「え」

黄怜は驚いて目を見開いた。

「ひどい話でしょう。彼女は私と同じ頃に陳家に行儀見習いにあげられた地方貴族の娘でした。よく気の付く優しい女人だったのですが…湖月様の立ち居振る舞いを直近で見ていたからでしょうか。そのうち湖月様に嫌われないためになら何でもするようになってしまって…」

そして苦しげな笑みを浮かべて律佳は自嘲するように続けた。

「尤も私は彼女のしたことが責められる立場にありません。私も同じ立場であれば同僚の心を傷つけるより、主人の機嫌を損ねる方を恐れてしまったでしょうから」

ぐっと唇を噛み締めた律佳の様子に気づいた黄怜が声をかけようとした瞬間、律佳はそれまでと異なる低い声で話し始めた。

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