後宮にて、あなたを想う

じじ

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120 悲しい昔語り

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「まず先に…律佳様をご不快にさせたならば謝罪いたします。ただ、誓って律佳様のことを疑っているわけではありません」

真摯な黄怜の謝罪に律佳はそれまで以上に目元を和らげて頷く。

「存じております。初対面の人間に心のうちを見せられる方のほうが少数でございましょう。どうぞお気になさらず。」
「ありがとうございます。」
「ですが、陛下にはお世継ぎがまだいらっしゃいませんね。そのために早く今の状況を解決したいのではございませんか?
皇后様も何度も私とお茶を飲むためだけに城外へ出る訳にも行かないでしょう?」

冗談めかした口調で問いかけられて、黄怜は思わず微笑んだ。

「ですから、お聞きになりたいことを率直にお尋ね頂いて構いません。存じ上げないことについては、答えようがございませんが、それ以外は全て誠心誠意お答えさせて頂きます。もとより皇后様がお尋ねになられるとお聞きした時より、どのような問いにも答える覚悟はできております。」

強い瞳で見つめられ、黄怜はゆっくり頷いた。

「お言葉感謝いたします。まず御子をご出産なされた時のことをお聞きしてよろしいでしょうか」
「ええ。ですが先にお伝えさせてください。すでにご存知かもしれませんが、私は子を早くに生んでしまい…それが理由で亡くしております。他の御子方とは亡くなった理由が異なっております」
「はい…」
「その上で、あの日のお話をお聞きください。
それは、陛下の御子を孕って五月目でした。前日、私は初めて胎動を感じたのです。自分の体の内側から揺らされるような不思議な感覚に、私は…初めてお腹の子を愛おしいと思いました」

なんと答えて良いか分からず、黄怜が黙ったまま頷くと、すぐに黄怜の勘違いに気づいた律佳が柔らかな声音で訂正した。

「決して子が欲しくなかったわけではないのです。ただ、自分の中に新たな命が宿っていると言う実感がそれまではなくて。ですから、深い意味はございません。」
「あ…失礼しました」

もしや陛下との子を望んでいなかったのでは、と思った黄怜は律佳の言葉に素直に謝った。

「いいえ。続けてよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「それまではあまりお腹の子に関心が向かなかったのですが…気づくとお腹に手を当てて話しかけていました。元気に生まれてきてね。これからはもっとたくさんお話するからね、と」

当時のことを思い出したのか律佳はお腹に手を当てた。目元は懐かしむように和らいでいる。

「早く会いたいわ、そう語りかけたのが悪かったのでしょうか。まさか翌日に…」

そう言って一筋涙を流した。
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