後宮にて、あなたを想う

じじ

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119 前妃の独白

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「なぜ…」

いきなりの核心を突く質問に、黄怜の方が狼狽する。
しかし、律佳は特に気にした様子もなく続けた。

「現皇后様がわざわざいらして下さったのですから。」
「あの…それで、その噂は本当なのでしょうか」
「呪われているせいで皇帝の子どもとその母親が命をおとす、と?」
「はい」

伏目がちに尋ねた黄怜の様子を優しげな眼差しで見つめながら、律佳は静かな声で答えた。

「もし、噂が本当ならば…私もこの場にはおりません」

その言葉に黄怜は驚いて顔を上げる。

「それは…」
「皇帝陛下の御子と妃が亡くなるのを呪いだ、などと不敬だとは思いませんか?それなのに、その噂が真しやかに流されている。」
「ええ」
「それに私は生きたまま後宮を去りました。少なくとも一人はその呪いを受けていないにも関わらず、噂は全く払拭されていません。」

御子を亡くしている、そう黄怜が思った瞬間、律佳は悲しそうな笑みを浮かべて続けた。

「もちろん私も子は亡くしてしまいましたが…」

黄怜は自分を恥じた。律佳の傷を抉るようなことを言わせてしまったと感じたからだ。

「申し訳ございません」

思わず謝った黄怜に、しかし律佳は不思議そうな表情を浮かべたまま答えた。

「皇后様が謝られることではございません。それより、噂の件ですが、このように考えられたことは?」
「え」
「噂を野放しにしたのは、真実の方が知られてはいけないことだったから、と。」

黄怜は思わず黙った。考えなかったわけではない。むしろその可能性が高いとは思っていた。
だが、それを認めてしまえば…呪いなどではないと認めてしまえば、それはすなわち直接手を下したものがいる、と言うことを示してしまう。

「それは…」

黄怜の表情から的確に心情を読み取った律佳は苦笑しながら続けた。

「流石に陛下が信を置かれた女人ですわね」
「え」
「今のご様子。おそらく皇后様もその可能性に気づいてらしたのですね。なんなら陛下とも共有なさってるのでしょう。でもそれを認めてしまえば、手を下した何者かがいる、ということになってしまいます。
それを信頼できるか分からない私のような者に言うわけには参りませんよね」
「そのようなわけでは…」

確かに律佳が信頼に足るかどうか分からない現時点で、自分の考えを話すことは避けるべきだと思っていた。しかし、ここまで読まれているなら、と黄怜は先ほどの言葉を翻す。

「いえ。確かに律佳様のおっしゃられるとおりです。」
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