後宮にて、あなたを想う

じじ

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114 黄貴妃の微笑

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そこまで言われれば、蔡怜も頷かないわけにはいかなかった。

「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」

その言葉を聞いた皇帝は、深く息を吐いた。表情には安堵の色が宿っているのを見て、蔡怜が不思議そうに小首を傾げた。その様子に目敏く気付いた皇帝は苦笑いをしながら告げる。

「何か気になることでもあるのか」
「いえ…あの…」

言い淀んだ蔡怜に皇帝はからりとした様子で続けた。

「安心したんだ。私がなりふり構わずあなたを皇后の位に据え置こうとしていることを、あなたから本気で嫌がられやしないかと。頑なに嫌だと言われたらどうしようかと思っていた。」

疑問に感じていたことを尋ねる前に的確に答えられてしまい、妙な居心地の悪さを感じてしまう。話を逸らすように蔡怜は黄貴妃の話題を出した。

「そろそろ貴妃様をお呼びして参ります。」

不意を突かれた皇帝が一瞬戸惑った様子を見せたあと頷いた。

「そうだな。悪いが頼めるか」
「はい」

程なくして黄貴妃と共に蔡怜が自室に戻ると、既にいつも通りの余裕の笑みを浮かべて
皇帝は座っていた。その様子を微笑みながら黄貴妃は見やる。

「貴妃、何か言いたそうだな」
「実はまだ蔡怜様から何もお聞きしておりませんの。言いにくいことは陛下からお聞きしようと思いまして」

そしてからかうような笑みを浮かべたあと続けた。

「泣いておられたら面倒…いえ、心が痛むところでしたが、そのご様子では淡い恋は実ったようですわね」
「おい、貴妃…」
「淡い恋?」

蔡怜が不思議そうな表情をするのと、皇帝が顔を顰めるのはほぼ同時だった。そんな二人の対照的な表情を見て黄貴妃は思わず吹き出した。
蔡怜が、ますます訳が分からない、と言った表情を浮かべているのを見て、黄貴妃は笑いのあまり目元に浮かんだ涙を人差し指で優雅に拭いながら説明し出した。

「実は陛下は私に…」
「貴妃、頼むからやめてくれ」

今までに聞いたことも無いような情けない声で懇願した皇帝を美しい微笑み一つでいなして黄貴妃は続けた。

「どうすれば蔡怜様にそのまま正妃の座でいて頂けるのだろうかと頭を悩ませておいででしたのよ」
「まぁ」
「いつもは泰然とされている陛下が、頬を染めながら私に相談してくる様はぞっと…いえ、微笑しかったですわ」
「貴妃…」

完全にがっくりと頭を落としている皇帝を気の毒そうに蔡怜は見つめた。
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