115 / 159
114 黄貴妃の微笑
しおりを挟む
そこまで言われれば、蔡怜も頷かないわけにはいかなかった。
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」
その言葉を聞いた皇帝は、深く息を吐いた。表情には安堵の色が宿っているのを見て、蔡怜が不思議そうに小首を傾げた。その様子に目敏く気付いた皇帝は苦笑いをしながら告げる。
「何か気になることでもあるのか」
「いえ…あの…」
言い淀んだ蔡怜に皇帝はからりとした様子で続けた。
「安心したんだ。私がなりふり構わずあなたを皇后の位に据え置こうとしていることを、あなたから本気で嫌がられやしないかと。頑なに嫌だと言われたらどうしようかと思っていた。」
疑問に感じていたことを尋ねる前に的確に答えられてしまい、妙な居心地の悪さを感じてしまう。話を逸らすように蔡怜は黄貴妃の話題を出した。
「そろそろ貴妃様をお呼びして参ります。」
不意を突かれた皇帝が一瞬戸惑った様子を見せたあと頷いた。
「そうだな。悪いが頼めるか」
「はい」
程なくして黄貴妃と共に蔡怜が自室に戻ると、既にいつも通りの余裕の笑みを浮かべて
皇帝は座っていた。その様子を微笑みながら黄貴妃は見やる。
「貴妃、何か言いたそうだな」
「実はまだ蔡怜様から何もお聞きしておりませんの。言いにくいことは陛下からお聞きしようと思いまして」
そしてからかうような笑みを浮かべたあと続けた。
「泣いておられたら面倒…いえ、心が痛むところでしたが、そのご様子では淡い恋は実ったようですわね」
「おい、貴妃…」
「淡い恋?」
蔡怜が不思議そうな表情をするのと、皇帝が顔を顰めるのはほぼ同時だった。そんな二人の対照的な表情を見て黄貴妃は思わず吹き出した。
蔡怜が、ますます訳が分からない、と言った表情を浮かべているのを見て、黄貴妃は笑いのあまり目元に浮かんだ涙を人差し指で優雅に拭いながら説明し出した。
「実は陛下は私に…」
「貴妃、頼むからやめてくれ」
今までに聞いたことも無いような情けない声で懇願した皇帝を美しい微笑み一つでいなして黄貴妃は続けた。
「どうすれば蔡怜様にそのまま正妃の座でいて頂けるのだろうかと頭を悩ませておいででしたのよ」
「まぁ」
「いつもは泰然とされている陛下が、頬を染めながら私に相談してくる様はぞっと…いえ、微笑しかったですわ」
「貴妃…」
完全にがっくりと頭を落としている皇帝を気の毒そうに蔡怜は見つめた。
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」
その言葉を聞いた皇帝は、深く息を吐いた。表情には安堵の色が宿っているのを見て、蔡怜が不思議そうに小首を傾げた。その様子に目敏く気付いた皇帝は苦笑いをしながら告げる。
「何か気になることでもあるのか」
「いえ…あの…」
言い淀んだ蔡怜に皇帝はからりとした様子で続けた。
「安心したんだ。私がなりふり構わずあなたを皇后の位に据え置こうとしていることを、あなたから本気で嫌がられやしないかと。頑なに嫌だと言われたらどうしようかと思っていた。」
疑問に感じていたことを尋ねる前に的確に答えられてしまい、妙な居心地の悪さを感じてしまう。話を逸らすように蔡怜は黄貴妃の話題を出した。
「そろそろ貴妃様をお呼びして参ります。」
不意を突かれた皇帝が一瞬戸惑った様子を見せたあと頷いた。
「そうだな。悪いが頼めるか」
「はい」
程なくして黄貴妃と共に蔡怜が自室に戻ると、既にいつも通りの余裕の笑みを浮かべて
皇帝は座っていた。その様子を微笑みながら黄貴妃は見やる。
「貴妃、何か言いたそうだな」
「実はまだ蔡怜様から何もお聞きしておりませんの。言いにくいことは陛下からお聞きしようと思いまして」
そしてからかうような笑みを浮かべたあと続けた。
「泣いておられたら面倒…いえ、心が痛むところでしたが、そのご様子では淡い恋は実ったようですわね」
「おい、貴妃…」
「淡い恋?」
蔡怜が不思議そうな表情をするのと、皇帝が顔を顰めるのはほぼ同時だった。そんな二人の対照的な表情を見て黄貴妃は思わず吹き出した。
蔡怜が、ますます訳が分からない、と言った表情を浮かべているのを見て、黄貴妃は笑いのあまり目元に浮かんだ涙を人差し指で優雅に拭いながら説明し出した。
「実は陛下は私に…」
「貴妃、頼むからやめてくれ」
今までに聞いたことも無いような情けない声で懇願した皇帝を美しい微笑み一つでいなして黄貴妃は続けた。
「どうすれば蔡怜様にそのまま正妃の座でいて頂けるのだろうかと頭を悩ませておいででしたのよ」
「まぁ」
「いつもは泰然とされている陛下が、頬を染めながら私に相談してくる様はぞっと…いえ、微笑しかったですわ」
「貴妃…」
完全にがっくりと頭を落としている皇帝を気の毒そうに蔡怜は見つめた。
1
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる