後宮にて、あなたを想う

じじ

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113 蔡怜の返事

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心から自分を妻にと望んでくれているのが分かり、蔡怜は思わず心が震えた。

「陛下…」

言葉が続かない蔡怜に皇帝は、熱を帯びた視線のまま続ける。

「悪いが否は聞けぬ。」
「ですが、やはり蔡家が罪を負う以上、私の存在は陛下の治世を乱すことになってしまいます。私はそれが心苦しいのです。」

自分のせいで皇帝の周りから人が離れていくのは耐えられない。そう思った蔡怜は皇帝の決意を翻すために、胸に秘めると決めていた自分の本心を打ち明けることにした。

「陛下のことをお慕い申し上げています。とても深く。だからこそ、陛下の足を引っ張るような真似はしたくないのです。蔡家を断罪する際には私のこともどうぞ父母と同様に…放逐でも死罪でも陛下の命であれば喜んで賜ります」
「そうか…ならば今日で蔡怜という者にはいなくなってもらう」

突然の皇帝の言葉に蔡怜が驚いて目を見開く。しかし一拍おいて蔡怜は呼吸を整えると瞳を閉じて静かに応じた。

「御意のままに。」

飲めと言われれば今すぐにでも毒を煽りそうな様子に、皇帝は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「命を断つと言っているのではない。怜ではなく、あなたは今日から黄怜になってもらう。蔡家の両親とは無関係の黄家の人間だ。無論黄貴妃も承知している旨は先ほど本人から説明があった通りだ」
「…」
「御意のままに、と言ったな。それでは返事は是として受け取らせてもらう。早速今から黄家の養女となるための手続きを貴妃に頼む。」
「あの、あまりに性急ではございませんか」
「蔡家に罪を背負ってもらう前にあなたと実家の関係を切り離す必要だからな。すまないが」

淡々と説明しながらも、瞳には蔡怜を気遣う色が見えて、今度は胸がじんわりと温かくなるのが分かった。

「怜、黄家の養女になることも、皇后位を与えられることも、あなたの本意でないことは分かっている。きっとあなたのように穏やかな気性の女人には、この場所は辛いのだろうな。だが先ほど私にくれた言葉が本心ならば、私たちは互いを思い合い、必要としている。なおさら手離すわけにはいかない。」

その時初めて、蔡怜は皇帝から名前で呼ばれていることに気づいた。瞬間頬が赤く染まる。

「陛下、私の名…」
「ああ、突然すまない。だがこれは私なりの決意の表れだ。蔡怜であろうが黄怜であろうが、私は怜という一人の女人と生涯を共にするという、な。」
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