後宮にて、あなたを想う

じじ

文字の大きさ
上 下
113 / 159

112 皇帝の告白

しおりを挟む
「それは…」

皇帝の意図を図り損ねた蔡怜は戸惑ったように口籠もる。その様子をちらりと見てため息を吐いた黄貴妃は皇帝に向かって話しかけた。

「陛下、私がおりましては言いづらいこともございましょう。一度、席を外しますのでお話しが終わられたら呼んでいただけますか?」

励ますような表情を見て、皇帝は頷いた。

「気を遣わせてすまないな、貴妃。そうしてくれるか。」
「もちろんでございます。」

そして、そっと皇帝に近づくと蔡怜には聞こえない声で囁いた。

「蔡怜様への恋情をしっかりとお伝えなさいませ。陛下の淡い恋が実ることをお祈りしながらお待ちしております」
「貴妃…」

絶句した皇帝をそのままに、黄貴妃は優美な笑みとともに蔡怜に向き直った。

「蔡怜様。陛下は蔡怜様にお二人きりでお話ししたいことがあるそうです。申し訳ございませんが、私はしばらく席を外します。陛下のお話しをお聞きになられた上で、先ほどの私の提案をご検討いただけますか」

優雅に一礼して部屋から出ていく黄貴妃を蔡怜はただ見つめるしかなかった。

「皇后。貴妃を悪く思わないでくれ。」
「それはもちろん…」

黄貴妃が皇帝に気を遣って席を外したことは蔡怜にも分かっている。分からないのは、皇帝の話す内容を知っているであろうにも関わらず、わざわざ席を外した理由だ。

「昨夜、貴妃に相談したのだ…あなたのことを。あなたに皇后で居続けてもらうためにはどうすれば良いのか、と」

そこで一度言葉を切ると皇帝は、違うな、と小さく呟いた。

「あなたに皇后でいて欲しいのは本心だ。だが…私が一番望むのはあなたがわたしの妻であることなんだ。あなたの実家を利用しようし、あなたを傷つけようとしている私が望むべきことではないのは承知している。あなたのことを思うなら、皇后位…いや、私の妃と言う立場から解放しなければいけないことも。
だが、あなたをどうしても手離せない。手離してやれない…私の一番近くで共に生きて欲しいんだ。」

そして一呼吸つくと、真剣な眼差しで蔡怜を見つめて告げた。

「あなたのことをとても愛おしく思う。だから貴妃の提案を受けて欲しい」

皇帝から懇願されるように言われ、蔡怜は胸が熱くなるのを感じた。気づくと涙が頬を伝っていた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...