後宮にて、あなたを想う

じじ

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112 皇帝の告白

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「それは…」

皇帝の意図を図り損ねた蔡怜は戸惑ったように口籠もる。その様子をちらりと見てため息を吐いた黄貴妃は皇帝に向かって話しかけた。

「陛下、私がおりましては言いづらいこともございましょう。一度、席を外しますのでお話しが終わられたら呼んでいただけますか?」

励ますような表情を見て、皇帝は頷いた。

「気を遣わせてすまないな、貴妃。そうしてくれるか。」
「もちろんでございます。」

そして、そっと皇帝に近づくと蔡怜には聞こえない声で囁いた。

「蔡怜様への恋情をしっかりとお伝えなさいませ。陛下の淡い恋が実ることをお祈りしながらお待ちしております」
「貴妃…」

絶句した皇帝をそのままに、黄貴妃は優美な笑みとともに蔡怜に向き直った。

「蔡怜様。陛下は蔡怜様にお二人きりでお話ししたいことがあるそうです。申し訳ございませんが、私はしばらく席を外します。陛下のお話しをお聞きになられた上で、先ほどの私の提案をご検討いただけますか」

優雅に一礼して部屋から出ていく黄貴妃を蔡怜はただ見つめるしかなかった。

「皇后。貴妃を悪く思わないでくれ。」
「それはもちろん…」

黄貴妃が皇帝に気を遣って席を外したことは蔡怜にも分かっている。分からないのは、皇帝の話す内容を知っているであろうにも関わらず、わざわざ席を外した理由だ。

「昨夜、貴妃に相談したのだ…あなたのことを。あなたに皇后で居続けてもらうためにはどうすれば良いのか、と」

そこで一度言葉を切ると皇帝は、違うな、と小さく呟いた。

「あなたに皇后でいて欲しいのは本心だ。だが…私が一番望むのはあなたがわたしの妻であることなんだ。あなたの実家を利用しようし、あなたを傷つけようとしている私が望むべきことではないのは承知している。あなたのことを思うなら、皇后位…いや、私の妃と言う立場から解放しなければいけないことも。
だが、あなたをどうしても手離せない。手離してやれない…私の一番近くで共に生きて欲しいんだ。」

そして一呼吸つくと、真剣な眼差しで蔡怜を見つめて告げた。

「あなたのことをとても愛おしく思う。だから貴妃の提案を受けて欲しい」

皇帝から懇願されるように言われ、蔡怜は胸が熱くなるのを感じた。気づくと涙が頬を伝っていた。



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